白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

棋士紹介第6回・小池芳弘四段

2019年02月12日 00時35分31秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
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・・・どちら様でしょうか?
非常にモヤモヤしますが、迷惑メールなのでしょうね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は棋士紹介シリーズの第6回です。

<小池芳弘四段(公式プロフィール)>

平成10年(1998年)7月6日生まれの20歳です。
長年棋士をやっていそうな雰囲気を漂わせていますが、そんなに若かったのですね。

小池四段はTwitterの日本棋院若手棋士アカウントを何度か担当していますが、しばしば本質を突くかのような鋭い発言をします。
将来なかなかの論客になるのではないかと睨んでいるのですが、いかがでしょうか。

さて、小池四段は昨年19連勝という素晴らしい記録を残しました。
年間成績は36勝12敗で、7割5分の勝率は全棋士中3位でした。
好成績の秘訣は、体力があることではないかと思います。
体力と言っても、運動のための体力ではありません。
囲碁の体力です。

棋士の対局は朝10時頃から始まって夕方に終わることが多く、持ち時間の長い碁では夜10時、11時まで長引くこともあります。
また、1局の持ち時間が短くても、同じ日に何局も打ったり、連日対局するような場合もあります。
長丁場の戦いで集中力を持続させられるかどうかは、勝負に大きく影響します。

棋風は典型的なじっくりタイプですね。
勝負が長引くことを全く恐れていないのでしょう。

さて、今回ご紹介するのは2016年8月18日の棋聖戦Cリーグ、片岡聡九段との対局です。
片岡九段も、若い頃からじっくりタイプとして有名でしたね。



1図(実戦)
片岡九段の黒番です。
黒×が弱いですが、白×も心配です。
慌てて攻めかかったりすると、反撃を受けて苦しくなるでしょう。
そこで、実戦は白1~5としっかりつながりました。

この打ち方は当然と言えば当然ですね。
しかし、対局していると色々と雑念が生じ、あらぬ方向に石が行ってしまうこともあります。
その点、小池四段はやるべきことを淡々とこなしていく印象があります。





2図(実戦)
黒1と左辺を広げられましたが、慌てず騒がず白2と守りました。
黒Aなどの手を防いだものですが、実に落ち着いていますね。
無理に左辺に入っていかなくても、十分やれるとみているのです。
若い頃はつい力に頼った無茶をしてしまいがちですが、小池四段はそのようなことには無縁かもしれません。





3図(実戦)
無茶はしませんが、ぎりぎりの踏み込みは決行します。
白△が鋭い手でした。
この後、黒A、白B、黒Cと対応され、怖い感じもありますが・・・。





4図(実戦)
しかし、小池初段(当時)は読みきっていたのでしょうね。
次に黒A、白B、黒Cがありそうですが、白D、黒E、白Fの反撃で右辺黒が危ないということでしょう。
深く読むことで、戦いのリスクを小さくしています。

本局は小池初段の白番半目勝ちでした。

棋士紹介第5回・上野愛咲美女流棋聖

2019年02月10日 23時59分59秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
最近、飲食店での不適切行為が多発していますね。
すると管理体制が悪い、教育が足りないといった話になりますが・・・。
しかし、人が内心で何を考えているかなんて分からないし、コントロールもできないと思いますね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日も棋士紹介コーナーです。

<上野愛咲美女流棋聖(公式プロフィール)

平成13年(2001年)10月26日生まれの17歳です。
昨年は謝依旻六段から女流棋聖を奪い、今年は藤沢里菜女流三冠の挑戦を退けて2連覇を達成しましたね。

上野女流棋聖の特徴は、なんと言っても戦闘力ですね。
殴り合いの状況には滅法強いです。
力の強い謝六段や藤沢女流三冠とも互角に戦っています。

その一方で、非常に慎重な面もあると思います。
好き勝手やっているようで、危機的状況は上手く避けて通っているように感じるのです。
リスク管理ができているということになりますが、それも天性のものでしょうか?

さて、今回ご紹介するのは2017年3月30日、扇興杯本戦1回戦での謝依旻扇興杯(当時)との対局です。



1図(実戦)
謝扇興杯の黒番です。
黒1と構えたところに、上野初段(当時)は白2から入っていきました。
この時点で「おや?」と思いますね。
お荷物を作っただけのように見えてしまいます。
と思っていたら、この後・・・。





2図(実戦)
またしても白1と入っていきました!
黒4と分断され、弱い石が2つに増えています。
白、大丈夫なのでしょうか?





3図(実戦)
極め付けは白1、3です。
黒4と切られ、さらに弱い石が増えました。
弱い石が2つでも心配なのに、3つも作る打ち方は怖くてとても真似できません。

しかし、上野初段はこれで戦えるとみているのです。
その判断の是非はともかく、凄い自信だと思います。





4図(実戦)
結果は、逆に黒×を取って凌いでしまいました。
黒が捨てたという面もあるのですが、なんにしても堂々の凌ぎです。
当時は明らかに格上だった相手に、こんな戦い方ができるとは・・・。

この強心臓も、上野女流棋聖の強みかもしれませんね。
結果は謝扇興杯が勝ちましたが、近い将来の上野女流棋聖の活躍を確信した一局でした。

棋士紹介第4回・許家元碁聖

2019年02月09日 21時06分07秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
本日は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。
お客様ゼロも覚悟していましたが、思ったほど雪が降っていなくて良かったです。
また、珍しく永代オーナーと居合わせましたが、どうやら4歳のお子さんの特訓(?)に来ていたようですね。
インストラクターのお姉さんにアタリを教えてあげている姿が微笑ましかったです。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
昨夜は9時頃に猛烈な眠気に襲われ、夕食もとらずに眠ってしまいました。
そういう時に無駄な抵抗をすると、体調がおかしくなってしまうものです。

さて、言い訳を済ませたところで、本題に入っていきましょう。
今回は棋士紹介第4回です。
ちなみに、棋士の段位や保持タイトルは変化するので、題名に入れるべきか迷いましたが・・・。
記事を書いた時期が分かるという面もあるので、この形になりました。

<許家元碁聖(公式プロフィール)

許碁聖は平成9年(1997年)12月24日生まれの21歳、台湾出身です。
普段の人柄は柔らかく、よく笑っている印象があります。
しかし、対局中は非常に厳しい表情をしていますね。
もっとも、棋士はそういう人が多いですが・・・。

碁は読みが深く、パワフルな棋風です。
若手には大抵その傾向がありますが、許碁聖の特徴としては、非常に柔軟でもあるということが挙げられると思います。
激しく仕掛けたと思いきや、パッと身を翻して新天地に向かうようなことがあり、それは特に入段間もないような頃によく見られた気がします。
棋士の碁の本質は、若い頃ほどよく表れるというのが私の持論です。
似ている碁と言えば、若い頃の王立誠九段でしょうか?

さて、今回ご紹介するのは大竹英雄名誉碁聖との対局です。
2014年7月3日の名人戦予選、まだ許碁聖が入段2年目の16歳、二段の頃ですね。



1図(実戦)
大竹名誉碁聖の黒番、黒△と打った場面です。
オーソドックスな進行で、ここまで全く同じ手順の碁も沢山打たれていそうですね。
現在、白△が弱くなっているので、白Aと守る手が真っ先に思い浮かびます。
実際、そう打っている人が多い気がしますが・・・。





2図(実戦)
実戦は白1とケイマして、中央の勢力争いを制しました。
黒4にも慌てず騒がず白5と詰め、小さく取るならどうぞと言っています。
碁盤全体を見た判断ですね。

しかし、黒6、白7の交換により戦力が増えたので、この後黒Aに対して即座に白Bと動き出していきました。
この柔軟な立ち回り方は、「いかにも」と感じます。





3図(実戦)
白が黒×全体を狙っている状況です。
しかし、今すぐ眼を取りにいくと、黒Aから反撃されて破綻します。
そこで、白1~5と激しく仕掛けました。
一種の陽動作戦で、この周辺に白石を増やして黒Aを無効化しようというのですね。
許碁聖は力が強いですが、直線的に石を取りにいくイメージはありません。





4図(実戦)
黒1、3と中央を突き出させましたが、代償に白4、6と左下隅を破っていきました。
この後も激しい戦いが続いていきます。
最終的には許二段が終盤のコウを頑張りきり、黒番半目勝ちを収めました。


ところで、この対局は許家元碁聖の対局の中で一番印象に残っているのですが、実は一番の理由は盤外にあります。
後で記録を見たところ、消費時間は黒174分に白179分、終局は17時14分となっていたのです。
許二段は当然として、大竹名誉碁聖が残り5分の秒読みに入っているではありませんか!
これには当時非常に驚いたものです。

大竹名誉碁聖は若い頃から早打ちでしたが、年齢を重ねてからはそれに拍車がかかり、碁界でもトップクラスのスピードです。
持ち時間3時間のうち半分程度しか使わないのが標準で、半目勝負の碁を1時間程度しか使わず打ち切ることすらあります。
それは高尾紳路九段や張栩九段のような棋士を相手にしても同じで、それで勝ってしまったりします。
その大竹名誉碁聖が、3時間の碁で秒読みに入った!
その事実は、私の中で大ニュースになりました。
16歳の少年の才能を感じていて、久しぶりに本気を出したくなったのではないかと思っています。
もし今後大竹名誉碁聖が、3時間の碁で若手相手に秒読みに入ったとしたら、その若手は間違いなくタイトルを取るでしょう(笑)。

棋士紹介第3回・富士田明彦六段

2019年01月04日 23時59分59秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
本日は仕事始めで、指導碁を沢山打ちました。
明日は市ヶ谷の日本棋院で打ち初め式が行われますが、私も指導碁を担当します。
楽しい対局になると良いですね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は棋士紹介の第3回です。

<富士田明彦六段(公式プロフィール)

平成3年(1991年)11月8日生まれの27歳です。
普段の姿は、勝負師らしからぬ好青年という印象です。
ただ個人的には嫌いですね。
2連敗しているので・・・。

昨年の成績は41勝8敗で勝ち星4位でした。
勝率は0.837で堂々の1位です。

さて、富士田六段の碁ですが、独特の世界観があると感じます。
どちらかと言えば厚み重視だと思いますが、厚みの活用を急がないのです。
相手にどんどん走られて大丈夫かな? と思ってみていても、いつの間にか地が追い付いている・・・。
そんな碁が多い気がします。
その点では、大竹英雄名誉碁聖に似ているところがあるかもしれません。

最近のプロの碁はスピード重視の傾向が強いです。
その一方で、富士田六段のようなじっくりタイプで結果を残す人もいます。
色々なタイプの打ち手が活躍する世界であって欲しいですね。

それでは、富士田六段の印象的な対局をご紹介しましょう。



1図(実戦)
2018年10月4日、碁聖戦予選での柳時熏九段(黒)との対局です。
白△まで、じっくり構えていますね。
左下の白は非常に手厚いですが、9手もかかっているので、ダブり気味と判断する棋士も多いのではないでしょうか?





2図(実戦)
白△まで、左上でも勢力を築きました。
この後、黒Aから消しにきましたが・・・。





3図(実戦)
白1、3と中央黒を攻撃!
ここまで力を溜めてきた富士田六段、ここでついに動き出しました!





4図(実戦)
・・・と思いきや、黒×を取るだけで矛を収めました。
地としてはごく僅かな利益しか得ていませんが、さらに厚みを築いたことに満足ということでしょう。
黒はあちこち走り回っているのですが、富士田六段は全く焦っていないように見えますね。
この落ち着きが、安定した成績を残すことにつながっているのでしょう。

本局の結果は黒半目勝ちでしたが、富士田六段らしい碁だと思ったのでご紹介しました。

棋士紹介第2回・芝野虎丸七段

2019年01月03日 23時59分59秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
中央大学は残念ながら11位に終わりました。
しかし、来年は期待しても良さそうですね。
それにしても、ゴール前での早稲田大学との意地の張り合いは印象的でした。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は棋士紹介第2回です。

<芝野虎丸七段(公式プロフィール)>
平成11年(1999年)11月9日生まれの19歳。
第26期竜星戦に優勝、さらに日本代表として臨んだ日中竜星戦では、柯潔九段を破る快挙!
また、名人戦リーグ、本因坊戦リーグ、棋聖戦Bリーグに在籍しており、棋聖戦は来期からAリーグです。
さらに、昨年、今年と2連連続で最多勝と最多対局数を記録しています。
既にトップ棋士の地位を確立していると言って良いでしょう。

芝野七段の特徴としては、3つのキーワードが思い浮かびます。
「豪腕」「大局観」「早打ち」です。

「豪腕」はそのままの意味ですね。
とにかく戦いに滅法強いです。
急所が瞬間的に見えるようですし、読みも正確です。
攻めも凌ぎも強く、世界のトップ棋士が相手でも互角に渡り合っている印象があります。

「大局観」も優れていると思います。
いわゆるバランス重視の人のそれとはまた違うようですが、とにかく視野が広いです。
ただし時々判断ミスも出るようで、世界戦などではそれが敗因になることが多い気がします。

「早打ち」に関しては、異論の余地は無いでしょう。
プロの対局は持ち時間3時間が主流ですが、多くの人はそれでは足りず、途中で秒読みに入ることが多いです。
もちろん、節約してなるべく秒読みにならないようにしている人もいますが。
しかし、芝野七段は全く違います。
持ち時間が3時間だろうと5時間だろうと、とにかく早いのです。
相手の強さによって消費時間が変わる人もいますが、芝野七段に関してはそういうわけでもなさそうです。
負けた碁でもやはり時間が余っていますからね。
トッププロであれば、打つべきところはぱっと見えることが多いでしょう。
しかし、そこでぱっと打った手が実は悪手で後悔するということもあります。
普通はそれが怖いはずですが、芝野七段は全く気にしていないようです。
そのメンタルの強さは、早打ちそのものよりも大きな武器ではないかと思います。

それでは、最後に芝野七段の非常に印象的な碁をご紹介して終わりましょう。



1図(テーマ図)
2017年10月12日の名人戦最終予選、超治勲名誉名人(黒)との対局です。
上辺白を生きず、白△と出たのが凄い手でした。
これは今どうしても打たなければならない手ではないと思いますが、誘いの隙でしょうか。
確かに、形勢が悪いので何か事を起こしたい状況ではあります。
しかし、リスクがあまりにも大きいので、普通の人は打てませんね。





2図(実戦)
実戦は黒に反撃され、上辺白に眼が無くなりました。
周囲の黒との攻め合いの形ですが・・・。





3図(実戦)
全部取られましたね・・・。
32子打ち抜きというのは、滅多に見られるものではありません。





4図(終局図)
しかし、碁は白の6目半勝ちに終わりました。
さすがにこれを読みきりということはないでしょが、ある程度イメージはあったのでしょうね。
芝野七段の勝負勘と大局観がよく表れた一局だったと思います。