「東北の農業の新しい担い手として企業が浮上している。構造改革特区や昨年九月の改正農地法の施行なども追い風となり、その役割はさらに大きくなりそうだ。第五部は新しい風を吹き込んでいる異業種の挑戦を追う」というもの。
日経新聞らしさが発揮されそう。
第一話は、一の蔵酒造の農業参入。
第二話が、カゴメの「いわき小名浜菜園」
第三話が、青森県六戸町のアンデス電気。
四話は明日の話になるのだろうか。
異業種の農業参入の意味を掘り下げて欲しい。
ただ単に、ビジネスチャンスを求めた企業の行動ではおもしろくない。
なぜ今企業参入なのか?
農業の人材の希少さと対比するとおもしろい。
やはり、何のために農業をするのかの視点が必要なのだろう。
地域性という視点も大事。
地域貢献も。
私は、地域振興、活性化を考える際には、必ず誰もが農業を、そのベースとして必要とすると思っている。そのために農業への進出が浮上しているのではないだろうか。地域に寝づこうとする企業が、そう思えば思うほど、何らかの形で、農業をそのプロセスで必要とする、そんな法則がきっとあるに違いない。
2月1日の記事を掲載しておこう
酒造会社・一ノ蔵(宮城県松山町)(みちのく農再生)
2006/02/01, 日本経済新聞 地方経済面 (東北B),
異業種から挑戦の気風
良い酒へ米栽培
発酵技術使い農産物加工も
日本酒の一ノ蔵(宮城県松山町)は一月、同町から「認定農業者」の称号を受けた。農業参入を認められなかった一般の株式会社としては、全国でも珍しい。昨年、国の構造改革特区を利用して酒米の自社栽培を始めた。「より良い日本酒を造るため」(桜井武寛社長)に決まった農業参入だが、今では地域農業の活性化で主導的な役割を担う。描く将来像は「日本酒製造」の枠を超える。
昨年は一・六ヘクタールの耕作放棄地を借り、宮城県の酒造好適米「蔵の華」を八・七トン収穫した。専従社員二人で管理する農地だが、田植えや収穫期などには桜井社長をはじめ、農業体験の一環として日本酒事業の社員も参加した。
農薬の使用量を半分以下に減らして栽培した酒米全量を同社が初めて商品化する「山廃大吟醸」に充て、一升瓶換算(一・八リットル)で三千五百本を販売する予定だ。文字通り「一貫生産」で造った日本酒に「小売店からの引き合いは強い」。桜井社長は参入に自信を深めている。
「良質な酒米を安定的にどう確保するのか」。全国的な大凶作でコメ不足に陥った二年後の一九九五年、一ノ蔵と松山町の二十九の酒米生産農家が集い、松山町酒米研究会が発足した。酒米栽培の先進事例や課題などを研究。すると化学肥料で痩(や)せた土地のコメでは酒の香りや後味が悪くなるなど、様々な問題点が浮かび上がった。
後継者不足から農業従事者は年々減少。酒米の供給元である松山町の農家でも化学肥料や農薬への依存が進み、耕作放棄地も増加していた。折しも東北六県の清酒消費量も七三年をピークに年々低下。同年に四つの酒蔵が対等合併して設立された県内最大規模の生産量を持つ同社も「じり貧」を余儀なくされた。
県酒造組合による八六年の「みやぎ・純米酒の県宣言」を受け、糖類やアルコールを加えた「三倍増醸酒」の製造をやめ、純米酒の生産量を増やすなど高級路線に特化したが、需要減は止まらない。無農薬や減農薬米仕込みの日本酒も販売したが、「(需要を喚起するため)もっとうまい酒を造るにはどうするか。行き着いた先が自分たちで酒米を栽培すること」(桜井社長)だった。
今年の酒米の作付面積は五・六ヘクタールに拡大し、長期的に農業にかかわる姿勢を鮮明にする。拡大した農地では蔵の華のほか、「トヨニシキ」や「ココロマチ」など三種類の酒米を栽培。自社栽培米を使った商品を増やす考えだ。
栽培はコメにとどまらない。「添加物を使わない名物の仙台長ナスを復活させたい」との思いから、日本酒の醸造発酵を応用した漬物に使うナス、日本酒の販促に利用するソバなど、すべて減農薬で本格的な自社栽培を始める。
将来は大豆や古代米、果物の栽培も検討する。栽培した農作物は発泡清酒の着色や新たに販売する果実酒などすべて自社で活用する予定。「大豆で納豆を造るのもいい」と桜井社長。醸造発酵技術を活用して、農作物から飲食料加工品まで一貫生産する新しい企業像がみえてきた。
一ノ蔵が現在、日本酒製造に使う酒米の規模は年間二千百六十トン。十年間で酒米の自社生産の規模を九十トンに増やす計画だが、それでも全体の消費量に占める割合はごくわずかで「安定調達の確保」とは言い難い。現在は赤字の農業生産部門も将来的には利益事業に育てる考えだが、酒米だけでなく野菜の自社栽培まで手掛ける同社に対し、冷ややかに見る同業者も一部にはある。
だが「今後の酒造りはリスクを背負わないと生き残れない」(桜井社長)。一ノ蔵は特定非営利活動法人の環境保全米ネットワーク(仙台市)の活動に参加し、全国の酒蔵で構成する「日本酒ライスパワー・ネットワーク」でも農業振興策を議論する。桜井社長は「農業が没落すると酒蔵もダメになる」と話す。会社設立以来、その歴史を農業と日本酒の低迷とともに歩んできた同社にとって、地道な農業振興策が酒蔵の生き残る道とにらんでいる。
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東北の農業の新しい担い手として企業が浮上している。構造改革特区や昨年九月の改正農地法の施行なども追い風となり、その役割はさらに大きくなりそうだ。第五部は新しい風を吹き込んでいる異業種の挑戦を追う。
キーワード
▼認定農業者 五年後の農業経営の拡大、生産方式や経営管理の高度化などを盛り込んだ経営改善計画を作成し、市町村の認定を受けた農業者。税法上の特例、資金借り入れの際の金利優遇や農用地の利用集積の促進など支援措置を重点的に受けられる。
農林水産省によると昨年九月末現在で、六県では三万五千八百四十四経営体が認定を受けている。農林省は今後、農業施策を認定農業者に重点的に実施する方針。株式会社の農業参入条件も緩和され、今後は大規模経営の認定農業者が増えるとみられる。
【図・写真】桜井武寛社長をはじめ社員総出で酒米栽培を体験した(昨年秋の稲刈り)
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