因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

BLUE/ORANGE

2010-05-05 | 舞台

*ジョン・ペンホール作 鴇澤麻由子翻訳 千葉哲也演出 中嶋しゅう企画 公式サイトはこちら ワーサルシアター 2日で終了
  タイトルは「ブルーオレンジ」と読む。ロンドンの精神病院で、一人の黒人患者(チョウソンハ)をめぐって、二人の精神科医(千葉哲也、中嶋しゅう)が対立する会話劇。ワーサルシアターは天井が低く、スペースもあまり広くないが、ベニサンピットと似た雰囲気が感じられる。舞台を客席が対面式にはさむ形。休憩をはさんでたっぷり2時間30分の作品である。一幕めの後半から場内が暑くなって集中できず、周囲にも眠気を催している人が多かったのは残念だ。ひといき入れて2幕めは快適に過ごすことができたが、小さな劇場では空調がうまくいかないとせっかくの舞台を楽しめなくなる。

 俳優千葉哲也を知ったのはベニサンピットでのTPT公演(おそらくデヴィッド・ルヴォ―演出の『チェンジリング』)が最初であった。それから十数年、千葉の俳優としての抜群の安定感と柔軟性は、演出家としても発揮されることになった。千葉の演出する舞台をみるのはこれが初めてだが、戯曲の読み方が確かであること、今回のように演出をして、さらにほぼ出ずっぱりの役を演じるという大変な力量があることを示した。
 俳優が演出をしてみようと思い立つのはどういうときだろうか。演出家のなかには元俳優だった人もいる。俳優と演出を兼ねたり、演出に専念するようになったり、さまざまだ。俳優としてはいまひとつだが、演出家の適性が高い人、逆に申しわけないが俳優に専念してほしい人もいる。千葉哲也のように両方に優れている人は非常に稀有な存在なのではないか。
 また本公演は中嶋しゅうが「企画」として名を連ねている。自分は舞台制作のじっさいを知らないが、俳優が受け身ではなく、みずから作品を探し、選び、公演を作り上げていくという強い意欲が伝わってくる舞台である。

 一人の患者をめぐる対立は、はじめこそ医師としての良心によると思われたが、次第に病院内の昇進、権力抗争、果ては人種差別問題にまで発展していく。些細なことばが真意を捻じ曲げられて、一人の医師がみるみるうちに自分の席を失い、冷静さを失って動転し、エゴ剥き出しに口汚くののしり合う。誰が正常で異常なのかがだんだんわからなり、医師よりも患者のほうがよほど落ち着いてまともにみえてくるのである。

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