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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

箱庭円舞曲第十三楽章『極めて美しいお世辞』

2009-09-21 | 舞台
*古川貴義脚本・演出 公式サイトはこちら 下北沢OFF・OFFシアター 22日まで
 ようやく箱庭初見となった。きっかけは津留崎夏子の出演で、5月の『成れの果て』、7月の『-初恋』ともに芯が強く、質実な印象が壊れそうになる、あるいは壊れてしまったときの表情に惹きつけられる。小劇場界で異彩を放つキワモノ系ではなく、いわゆる新劇系でもないが、戯曲に書かれた人物の造形がきちんとできる実力派の女優さんだと思う。
 今回は美容院のスタッフルームで美容師やオーナー、出入りの業者などのやりとりがべったり濃厚に描かれる。
 開幕してあっと言う間に、俳優さんたちが演じている役柄以外に見えなくなってしまった。特に美容師の面々がすごい。アーティスト肌だが精神的に脆いもの、責任感の強い女性店長、腕はさっぱりだが女性客に異様に好かれるもの、言動が少しずつずれているがやる気まんまんのお姉ちゃん風などなど、月並みな表現だが町の美容室からそのまま引っ張り出してきたかのようにぴったりなのである。脚本執筆において、美容室という職場、美容師という職業について相当綿密な取材をしたことが窺われ、俳優もそれに応えるべく台詞や所作も自然にこなれている。
 特にアーティスト肌美容師役の小野哲史は、先月のミナモザ公演『エモーショナルレイバー』ではスナック菓子を食べてばかりいる脱力系出し子グループのリーダーを演じていた。たったひと月あとなのに、まるで別人である。
 5店舗を構えるチェーン店のなかで売上が最下位に低迷している店である。前半の場面でこの店がどこにあるかがほんのちょっとわかるのだが、青山あたりに比べると明らかにアウェイな場所であり、店の雰囲気、お客から町の様子までどんどん想像が膨らむ。そこにおいて、理想が高いのは構わないが天才肌を吹かせて周囲との協調を拒む美容師の浮き具合や、彼の元彼女がオーナーと結婚してしまったいきさつ、出入りスタイリストとオーナーの安っぽい関係まで内容は盛りだくさんである。

 きっちりと書き込まれた人物造形、巧妙に伏線を張ったストーリー展開に適切な配役を施した作品であると思う。しかし客席の空気が淀んだように重く、上演時間が長く感じられたのはなぜだろうか。山場となる場面のやりとりが少し長過ぎるからか?しかし現実において収拾のつかずに延々と続く会話というものはありうるし、全く会話に入らせてもらえない出入り業者が、苛めにあっているかのようなやりとりも、話の本筋に関わるものではないにしても、ここまで微細に台詞を書き込めるというのは劇作家として大変な腕だと思うのである。

 今回味わった一種の倦怠感が次回はどう変化するかが、箱庭円舞曲に対する自分の課題になるだろう。
 津留崎夏子はオーナーの妻を演じた。ときどき店にやってきてはけん玉で遊びつつ、美容師たちと適当な会話をしている。元カレに「今、幸せか」と聞かれて「まあまあ幸せだよ」と笑っているが、まったく幸せではない。そもそもかつての恋人が「幸せか」と聞いてしまうことじたい、彼女が幸せそうに見えないことの証ではないかしら。
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