因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

サスペンデッズ第7回公演『夜と森のミュンヒハウゼン』

2009-09-20 | 舞台
*早船聡作・演出 公式サイトはこちら 三鷹市芸術文化センター星のホール 20日で終了 
 今回で3度めのサスペンデッズ観劇になる(1,2)。小さな空間で、日常を流れる時間を細やかに描く印象が強いが、今回は星のホールという難しい劇場をどう活かすのだろうか。

 劇場に足を踏み入れると手前の床には土や枯れ草が敷かれ、樹木が立ち並ぶ。向こうにはテーブルと椅子が2脚、客席はそれらを三方から緩く囲む作り。題名からして謎めいているし、当日リーフレットの配役表の名前をみても一人二役なのかどうなのか。上演が始まるとスーツケースをさげた女性が迷い込んだように表われて消えていく。続いて上手から登場したのはおとぎの国の動物たちのような衣裳をつけた俳優ふたり。あたかも円のこどもステージの趣向に戸惑う。これはいったいどういう話なのか?
 上演期間中であれば、今回の舞台を詳細に記述することは憚られる。不思議の森で暮らす兄と妹、そこを訪れる医者や友達と、そこに迷い込んできた冒頭のスーツケースの女性が交わすぎくしゃくしたやりとりと、彼女が看護士として働きながら不倫の恋に苦しむリアルな現実世界とが行き来する物語である。この世とあの世、現実と仮想世界が交錯する趣向は珍しくないが、不思議の森側の場面の会話が生き生きしておもしろく、目が離せない。森の殺し屋ホワイトソックスの好物が「いなり寿司」であったり、医者の金田が「ジュンク堂」でバイトをしているとか、それが安易に笑いを取ろうとする小手先のテクニックに感じられないのである。

 現実空間の人間関係がややありきたりであることや、後半一気に説明してしまうところ、森の殺し屋と無差別殺人のあたりの描写も不十分であることは少し残念だが、星のホールの空間を活かし、空間に負けずに物語を作り上げた手応えが伝わってきた。試行錯誤の足跡が感じられる今回の舞台をステップとして、劇作家早船聡はまた新たな物語を生み出すのではないか。
 
 千秋楽の余韻覚めやらぬ劇場を出て、夕暮れの道を歩く。今日は「買い物しない日」のつもりだったが、角の八百屋さんでぴかぴかに光るトマトに吸い寄せられる。秋の日はあっと言う間に落ちていく。「好日」とはこういう一日のことを指すのではなかろうか。
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