因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ブラジル『恋人たち』

2006-12-02 | 舞台
*ブラジリィー・アン・山田脚本・演出 王子小劇場 佐藤佐吉演劇祭2006参加作品 5日まで 公式サイトはこちら
 
何だかすごいものをみた。どこがどうすごかったのだろうか。

 古いアパートの一室に住む男女がいる。男(辰巳智秋)が灯油を買って戻ってくる。女(桑原裕子 KAKUTA)がそれを男のからだにじゃばじゃばと掛けはじめ、自分も手に取って化粧水のように顔をはたく。チャッカマンを取り出して「じゃあ、いくね」。二人は焼身自殺をしようとしているのである。まるで料理でも始めるような軽い口調で火をつけようとする女に従順なようで、何かひっかかりを感じさせる男のやりとりが続くうち、新聞勧誘や女の元亭主や隣室の住人、男の職場の女の子や女の同級生、男の友人でもあるアパートの大家などが次々に訪れて、この男女が同棲するきっかけや、お互いの過去や人間関係がわかってくる。それも説明台詞によってではないし、いかにも「ほんとうはこうだったのだ!」的な激しい展開にもならず、もしかしたらありうる話かもしれないと思わせる。

 一見普通そうに見えて、登場人物は皆とても極端キャラである。なのに「ありえない!」と思えないのである。ほんとうに微妙な感情の行き違いや、台詞の間や動作(暴れ回る場面が多い。女性も)がすごくおかしいのだが、おかしい→笑うというリアクションが出来ず、笑うのも忘れて前のめりで見入ってしまった。舞台を見るのに必死だったので、客席の様子を詳しく観察することができなかったのだが、相当おかしい場面や台詞でも客席爆笑ではなかった。むしろあっけにとられて固まっているという空気だったように思う。

 あらすじを書くと、ネタばれになってしまうし、この舞台をみた感覚をどう記せばいいのか迷いに迷っている。観劇後はぐったり疲れてまっすぐ帰路に着いた。いい意味の疲れなので、とてもよかったのだが。

 男女役の辰巳智秋と桑原裕子は、昨年夏上演のグリング公演『カリフォルニア』(青木豪作・演出)でみた俳優さんである。体当たりの熱演でも緻密な造形とも違う、劇中の人物の枠を越えてこちらの現実に迫ってくるようで、ある意味快感、ある意味恐怖。

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