2024年の日本の貿易収支は5兆3326億円の赤字だったが、前年比では赤字幅が44.0%減少した。内外の主要メディアは「赤字幅縮小」に焦点を当てる記事が多かったが、実はもっと注目するべき事実が隠されている。対米黒字額が8兆6417億円と突出して多く、対米輸出額も21兆2951億円と国別で最大となっている。そのうち自動車と自動車部品が7兆2573億円と対米輸出全体の35.1%を占める。
これを米国のトランプ大統領からみれば、貿易赤字体質の日本が対米の自動車・同部品の輸出で荒稼ぎしている、と映るのではないか。「ザ・タリフマン」の格好の餌食になると筆者は危機感を持つ。対米自動車輸出だけが目立つ「歪んだ貿易構造」を日本政府がこのまま放置すれば、トランプ関税の直撃を受けて日本の貿易赤字が一段と増加することも想定できる。日本政府は、このねじれた貿易・産業構造を立て直すためのプランを早急に立案するべきだ。
<4年連続の貿易赤字、円安でも輸出数量はマイナス>
財務省が23日に発表した2024年の貿易統計は、輸出が前年比プラス6.2%の107兆0913億円、輸入が同プラス1.8%の112兆4238億円となり、差し引き5兆3326億円の赤字だった。赤字は4年連続。
一部のメディアは円安で輸出額が増加したと分析していたが、輸出数量は前年比マイナス2.6%とかつてのように円安効果で輸出数量を伸ばすことができない産業構造になっていることをあらためて示した。
<突出している対米貿易黒字、目立つ自動車・同部品輸出>
こうした貿易赤字体質の定着が目立つ中で、筆者が注目したのは対米貿易黒字の規模だ。主要な地域の貿易収支をみると、対中国は6兆4357億円の赤字、対中を含めたアジアが3兆0268億円の黒字、対欧州連合(EU)が1兆8946億円の赤字、対中東が8兆7815億円の赤字、対豪州が5兆5804億円の赤字となっているのに対し、対米黒字は8兆6417億円と際立って大きな規模となっている。
もし、対米貿易収支が収支トントンになった場合は、日本の貿易赤字は2倍以上の13兆円規模にまで膨張することになる。
輸出額をみると、対米が21兆2951億円と国別で最も多く、対中の18兆8651億円を大きく引き離している。対米輸出のうち、自動車・同部品の占める割合が35.1%と最多だ。
<貿易不均衡の是正、トランプ政権が狙い撃ちにする可能性>
22日の当欄で指摘したように、トランプ関税には3つの目的があると米財務長官に指名されたベッセント氏が米上院財政委員会で述べており、そのうちの1つが貿易不均衡を是正するための国・業界別の関税だ。
米国から見れば、日本は全体で5兆円の貿易赤字を出している中で、米国から8.6兆円の黒字を出し、輸出の35%を占める自動車・同部品で黒字のかなりの部分を稼いでいると見えるだろう。
貿易の不均衡是正のために、日本の自動車・同部品の輸出がトランプ関税のターゲットになるのではないか、と予想するのは的外れではないはずだ。
トランプ政権の対日要求リストは明らかになっていないものの、対米自動車輸出が「狙い撃ち」にされた場合、国内における自動車産業のすそ野が広いだけに広範な産業分野に悪影響が波及するとみていい。
<自動車輸出に依存する日本の歪み、産業政策失敗の結果か>
この問題を日本の産業政策との関連でみれば、自動車輸出に依存した貿易構造は「歪みが大きい」と言わざるを得ない。米国のGAFAМの興隆と比較すれば、自動車産業に代わる新たなリーディング産業の育成に日本政府と経済界が失敗した結果と言わざるを得ない。
トランプ関税の全容はまだ、はっきりしないものの、自動車輸出に黒字獲得の多くの部分を依存してきたままの日本の貿易構造は、トランプ流の交渉術にはまって多くの経済的損失が発生しやすいとみるべきだ。石破茂政権は、短期的に発生する経済的損害に対応するための補助金政策だけでなく、10年先を見越した先端産業の確立に向け、早急に計画を打ち立てるべきだ。
無策のままでは、韓国にも抜かれた一人当たりの国内総生産(GDP)における国際的な順位(2023年は国際協力開発機構の加盟国中で22位)が下がる一方になるだろ。