一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

ディープシークショック、米の対中規制強化につながるのか 日本もIOWNで関与すべき

2025-01-28 11:53:45 | 経済

 中国の人工知能(AI)企業・DeePSeek(ディープシーク)による低コストの生成AIモデル開発の成功は、世界の金融・資本市場を動揺させ、「ディープシークショック」という新語がマーケットを駆け巡った。市場ではこの影響の深度を測りかねているが、今の段階でまずポイントになるのは、先端半導体を巡って米国が対中規制を強化するのかどうかだ。トランプ米大統領が規制強化を決断すれば、日本からの対中輸出にも大きな影響が発生し、その分野の日本企業の業績を下押しすることになる。

 もう1つは、AI需要の盛り上がりで問題となっている電力需要に省力化の可能性が浮上していることだ。実はNTTが中心になっている開発中の「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は通信ネットワークの消費電力を100分の1に削減することが期待されており、最先端のAI普及に欠かせない技術として注目されている。日本政府は、ディープシークショックを傍観しているだけでなく、IOWNの実用化に多額の国費を投入し、最先端のAIが産業界に利用される段階で優位になるように今から対応していくべきだと指摘したい。

 

 <米企業の独走に待ったをかけたディープシーク>

 「ディープシークショック」が顕在化した27日のNY市場では、AI半導体大手エヌビディアの株価が17%安となったほか、アルファベットが4%安、ブロードコムが17%安となり、ナスダック総合株価指数は3%の下落で取引を終えた。

 28日の日経平均株価も、前日比548円93銭(1.39%安)安の3万9016円87銭と続落した。半導体関連株や電線関連の銘柄に売りが目立った。

 2022年にオープンAIが対話型AI「Chat(チャット)GPT」を公開して以来、生成AI用の先端半導体をエヌビディアなどが開発。この分野での米国企業の技術優位性は欧州や日本、その他の国の企業の追随を許さず、独走態勢が築かれたとみられ、それが米株価の大幅上昇につながっていた。

 ただ、その開発と製品化、さらに実用化のための各企業の設備投資額が巨額になり、消費電力も大幅に高まることが予想され、先行きの持続可能性には疑問を呈する声もあった。

 

 <米国の半導体輸出規制の下で開発した意味>

 そこにディープシークの低コストと省電力という特徴が明らかになり、米企業の独走状態に「待った」がかかるとの懸念が浮上して「ディープシークショック」が発生したと考えるべきだろう。

 CNNによると、ディープシークが前週に発表した「R1」モデルでは、米国製の生成AIでよく知られる機能すべてを備え、ベースモデルの計算能力に費やした金額はわずか560万ドルという。これは、オープンAIやグーグルなどの人気AIモデルの数分の1のコストに過ぎない。

 米国のAIに詳しい専門家の一部からは、米国の対中規制を潜り抜けてエヌビディアの半導体が使用されたとの見方も出ているが、ブルームバーグによると、エヌビディアは発表文でディープシークについて、テストタイム・スケーリング技術を使用して新しいモデルが作成され得ることを示すものだと指摘。「広く利用可能なモデルと、輸出規制に完全に準拠したコンピューティングを活用している」と説明。「エヌビディアの見解は、ディープシークが技術創出において、米国の高性能チップへのアクセスを制限する規制に違反していないとの認識を示唆する」とブルームバーグは解説している。

 

 <どう出るのかトランプ氏、対中規制の引き上げ決断の可能性も>

 ここで問題になるのが、トランプ大統領の対応だ。トランプ氏は27日の演説の中で「中国の一部企業にはより速くはるかに低価格なAIの方法を開発して欲しい。そうなればお金をたくさん使う必要がないから良いこと」と表明。 「私はそれが肯定的なことで資産だと見る。それ(ディープシークのAI開発)が本当に事実で真実ならば、私は肯定的に考える」とし「なぜなら皆さんもそうできるからだ。そうすれば、お金をたくさん使わなくても同じ結果が得られるからだ」と述べた。

 この見解をそのまま受け取るなら、トランプ大統領はディープシークのAI開発に脅威を感じていない、ということになる。

 だが、これからAI企業のトップからディープシークの潜在力の高さや、将来的な中国の技術の進歩と米中の優位性の逆転の可能性を説明されたらどうなるのか。筆者は、最終的にトランプ氏が先端半導体や関連する技術の対中輸出に一段を高いハードルを設け、それを西側の同盟国にも従うよう要請してくると予想する。

 その際、日本政府と日本企業は、先端半導体の開発に必要な部材や製造装置、それに関連する製品の輸出に制限が設定されることに反対できないだろうとみている。結果として制裁に関連する分野の製品を製造している日本企業の収益は下押し圧力を受けることになる。

 

 <注目された省電力、日本も次世代インフラ・IOWNで追撃すべき>

 一方、ディープシークの新製品の普及が進めば、省電力が実現できるとの見通しも示されている。ロイターが27日に送信した記事の中で、エバーコアISIのアナリストは、ディープシークのオープンソースモデルで使用されている効率性が証明されれば、電力需要はより緩やかになるとの見解を示している。

 実際、27日のNY市場では、電力株や電線に関連する企業の株価が大幅に下落した。AI需要の高まりと省電力が両立するかもしれないという新たな視点が提供されたと言っていいだろう。

 筆者が注目しているのは、NTTなどが開発しているIOWNだ。ネットワークとコンピュータ・インフラ両方を含んだ次世代インフラを作る技術を指している。通信は光信号、演算処理は電気信号と従来は異なる技術を使ってきたが、IOWNでは全てのデータを光で処理し、「低消費電力」「大容量・高品質」「低遅延」なインフラの実現を目指している。

 IOWN開発の裏には、AI開発による膨大な電力量の発生に対応するという問題意識があり、ディープシーク開発の衝撃に揺れる世界の現状は、IOWNの知名度を向上させる格好の局面であると考える。

 日本政府は、ディープシークの開発を見て「諦める」のではなく、省電力の観点からIOWN開発の実証実験に対して多額の国費を投入し、最先端の半導体開発の周辺で日本の存在をアピールしてほしい。それがこれからの日本経済の成長率アップにつながると確信している。

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