一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

FOMCと2月1日の関税引き上げ、市場にのしかかる予測できないトランプ氏の存在感 

2025-01-27 15:37:34 | 経済

 今週のマーケットの注目材料は、29-29日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)と2月1日にカナダ、メキシコ、中国に対する米国の関税が引き上げられるかだ。FOMCでは政策金利の維持が予想されているものの、声明文やパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見を通じ、今後の利下げに対する慎重姿勢を積極化させた場合、米長期金利の低下や米株上昇、ドルの下落と対円での円高方向へのシフトが予想される。

 また、トランプ大統領がすでに言及しているカナダとメキシコへの25%の関税、中国への10%の関税の賦課が本当に実行されるのかにも大きな関心が集まっている。実施されれば米株にはプラスになる可能性があるものの、日本株や欧州株には打撃になると予想する。トランプ大統領は原油価格が下がればFRBに利下げを要求すると発言しており、この2つの大きな注目材料にはいずれも「トランプ大統領」という存在がかかわっている。トランプ政権の発足から1週間を経過し、マーケットに対するトランプ大統領の存在感が重くのしかかってきている。

 

 <FOMC声明文とパウエル議長会見、利下げに積極的なら米株上昇へ>

 12月のFOMC声明文では「さらなる政策金利調整の程度及びタイミングを巡っては、今後のデータ、経済見通しの展開、リスクバランスを注意深く考慮する」と、11月会合の声明文に「(政策金利調整の)程度及びタイミングを巡っては」との表現が追加され、利下げペースの鈍化をにじませる構成に変化させていた。

 12月FOMC後のパウエル議長の会見やその後の経済データを踏まえ、足元のマーケットでは1月会合における利下げ予想はゼロ%になっている。また、次の利下げを100%織り込む時期は今年6月まで先送りされている。

 もし、FOMC声明文の構成に変化が生じ、利下げに関してより積極性を示したり、パウエル議長が会見で利下げの必要性や米経済のリスクに関し、より強めの発言を展開すれば、現在は28%の3月FOMC、56%の5月FOMCでの利下げ予想が大幅に上昇し、米長期金利の低下と米株価の上昇が誘発される展開が予想される。

 その際は、ドルが主要通貨に対して下落し、対円でもドル安・円高になる可能性が高まる。

 

 <トランプ大統領が異例の利下げ要請、FOMCに影響は出るのか>

 FRBの独立性を尊重し、現実にその独立性が強固に守られているとみているエコノミストや市場参加者は、トランプ大統領の利下げ要求発言にFRBは影響されないと考えているだろう。

 だが、現実に何が起きるのかは、事態が進展してみないとわからない。トランプ大統領は23日、ダボス会議にオンラインで参加し「原油価格が下がれば、直ちに金利の引き下げを要求する」と発言。その後、ホワイトハウスで記者団に対して「原油価格が下がれば、あらゆるものが安くなりインフレを抑えこむことができる。そうすれば自動的に金利も下がることになる」と述べるとともに「パウエル議長と適切なタイミングで話をする」と語った。

 原油価格の下落に関連し、トランプ大統領は20日に国家エネルギー緊急事態を宣言し「掘って掘って掘りまくれ」と表明。原油やシェールガスの増産でエネルギー価格を引き下げる方針を打ち出していた。

 主要7カ国(G7)の首脳で、ここまで金融政策に立ち入り、中央銀行の独立性に挑戦するような発言を繰り返した例はないのではないか。

 FRBは表面上、関税政策をはじめとする「トランプ政策」の全容が不明であるため、はっきりした段階でその影響を分析し、必要があれば政策に対応を検討するとの趣旨をパウエル議長が会見で示すと予想される。

 しかし、マーケットの利下げ予想が前倒しになるようなFRBの情報発信があった場合、結果としてパウエル議長とFOMCメンバーは影響を受けた可能性がある、と疑ってみる必要があると筆者は指摘したい。

 

 <注目される2月1日の対カナダとメキシコへの関税>

 2月1日に関税がどうなるのかは、トランプ大統領の判断ですべて決まる。1日は土曜であるためマーケットの反応は3日から始まる翌週のマーケットに持ち越されるとみられるが、コロンビアに対する制裁と関税を26日に停止した例をマーケットは注視しており、現実にどのような政治的決断をトランプ大統領が下すのか、市場が注意深く見極めようとしている。

 仮に対中国に10%、対メキシコとカナダに25%の関税を賦課した場合、市場反応は大きくなると予想する。関税措置は米国経済には短期的にマイナス効果が小さいため、米株は上昇を継続する可能性がある。

 だが、メキシコ工場から米国に年間77万台を輸出している日本メーカーなどの影響は、関税賦課が長期化すればするほど大きくなる。少なくとも日本の自動車メーカーと関連する企業の株価は下落するだろう。欧州株もトランプ関税の次のターゲットにされるのではないか、との懸念から下落圧力がかかる。

 

 <対中10%関税実施なら、市場心理に大きな影響>

 対中国の10%関税は、より広範に影響する可能性がある。トランプ氏は23日のFOXニュースの番組で「われわれは中国に対し、1つの非常に大きな力を持っている。それは関税だ。彼らはそれを望んでおらず、私はむしろそれを使いたくない。ただ、それは中国に対し極めて大きな影響力がある」と述べ、これがトランプ大統領の「対中融和姿勢」と市場で受け取られ、米株上昇を裏で支える大きなパワーになっていたとの見方が市場で広がっている。

 上記の発言にもかかわらず、対中関税の10%賦課を実行に移した場合、市場のショックや失望感はメキシコやカナダへの関税引き上げよりも大きくなるだろう。そのケースでは、米株にも下落圧力がかかりやすくなると予想する。

 中国経済への打撃の可能性が高まれば、欧州や日本の中国ビジネスの比重の高い企業の株価にも連鎖的なマイナス効果が波及するだろう。

 

 <トランプ氏につきまとう予測可能性の低さ、市場織り込みの困難に直結>

 このように直接、間接を問わず、トランプ政策の効果や打撃、トランプ氏の発言による波紋がマーケットを大きく揺さぶることになる。対トランプで特徴的な「予測可能性」の低さが事前の織り込みを困難化し、直後の市場変動を一段と大きくすることにつながるという構造的な要素も内包されている。

 トランプ氏の情報発信に一喜一憂するということが、今後、常態化すると覚悟を決める必要がありそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする