モロシになりそう。
~おとき
数日前から、誕生会の歌が頭の中で鳴っている。「ハッピー・バ-ス・デー、ディア・おとき」というのだ。
「おとき」って、誰?
今日、映像が浮かんだ。テレビ・ドラマの『七人の孫』の一場面らしい。幼い頃に見たので、間違っているかもしれない。「おとき」というのは、七人の孫がいる老人の家の女中だ。樹木希林が演じていたと思う。当時の芸名は違った。思い出せない。
「おときは、近頃、機嫌が悪い」ということで、一家のみんなが心配している。不機嫌な理由を彼女に尋ねても、答えない。誰かが見当をつけて調べたら、数日後が彼女の誕生日だとわかった。一家の誰もがそのことに気づかないので、彼女は拗ねているらしい。自分から言うのは照れ臭い。
人々は彼女の誕生会を開くことにする。ただし、本人には内緒だ。サプライズ! 本当のことを言わない彼女に対する仕返しの意図もあったのだろう。
当日、本人には知らせないまま、食卓に御馳走が並ぶ。並べるのは、本人だ。さあ、いただきましょう。いつもとは違って、彼女は同席させられる。訝しみながら着席すると、みんなが「ハッピー・バ-ス・デー、ディア・おとき」と歌うのだった。
だが、どうして、こんな歌を思い出したのだろう。
祖父を演じていたのは、森繁久弥だ。物語の主人公は孫たちだ。若い彼らの悩みなどを、祖父が聞いて、知恵を貸す。
あるとき、彼は少女に向かって語った。
「私の若い頃は、女は色気を見せてはいけなかったのだよ。オッパイなんかも晒を巻いて胸を平べったくしたもんさ」
この説教を聞かされて素直に頷いていたのは、いしだあゆみだった。二重瞼にする前だ。
彼女が死んだから思い出したのか。
〈いしだあゆみの誕生会ではない〉→〈いしだあゆみの葬式だ〉ということかな。
これを書き終えて3時間後、偶然、TVに樹木希林の昔の姿が映った。当時の芸名も記されていた。
(終)