『冬のソナタ』を読む
「別れの練習」(下p25~49)
1 プチトマト
ユジンはチュンサンを思い出す。思い出すことを自分に許す。
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ジュンサンを思い出したユジンの眼がおぼろげになった。
ユジンが、ジュンサンの名前を出さずにこの北極星(ポラリス)の話をすると、悲しい眼で見つめていたミニョンが訊ねた。
「ユジンさん、道に迷ったような気がしてるんですか?」
ミニョンがユジンの顔を振りむかせた。ユジンはなんとか笑みを浮かべて見せながら、平然を装った。自分が背負った傷より、大切な人たちに自分が与えた傷の方がもっと痛いに違いないと思った。その上、二度と彼らに許されないと思うと、堪えきれなかった。
ミニョンは苦しい涙をこぼしたユジンの顔を両手で覆った。
「ほかの星は場所を変えても、北極星(ポラリス)はいつもその場所にいるって言いましたよね? もし、ほかの人たちがユジンさんを許さなくても……わかってくれなくて去って行っても……僕がいつもその場所にいてあげたら……道に迷わない自信ありますか?」
ユジンを見つめるミニョンの眼にもいつの間にか涙が浮んでいた。
「……僕のこと、信じてくれますか?」
ユジンはゆっくり頷(うなず)いた。
(p30~31)
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一夜が明ける。
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朝、ユジンが目覚めると、一階で寝ていたはずのミニョンはいなかった。リビングに出たユジンがカーテンを開けた。明るい冬の陽射しが射(さ)しこみ、ユジンの心まで明るくした。
(p31)
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さあ、これから二人はどうなる? ユジンとチュンサン、じゃなくて、ミニョン。
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ソファに腰掛けようとしたユジンの顔が、もっと明るくなった。食卓の上に置いてあるみずみずしい果物が陽射しに照らされていたのだ。ユジンは、その中からプチトマトをひとつ口に入れた。
(p31~32)
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「果物」はミニョンが置いていった。ユジンは彼を待たず、一人で「ひとつ」食べる。幼子のようだ。「プチトマト」は、彼女の自立とそれに反する幼さの象徴。
(終)
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