ドストエフスキーは、ロシアの小説家・思想家。代表作は「罪と罰」、「白痴」、「悪霊」、「カラマーゾフの兄弟」など。19世紀後半のロシア小説を代表する文豪。
ある数秒間が来る
それは一回にせいぜい5秒か6秒しか続かないが、その時突如として永遠の調和が完全に獲得され直感されるのだ。
それはもはや地上のものではない、が、さりとて天上のものだというのでもない。ただ現在あるがままの人間には到底堪えられないものなのだ。こちらが肉体的に変化するか、それとも死んでしまうか二つに一つだ。
その時の気持ちは、もうまったく明澄そのもので、そこに議論をさしはさむ余地なんか全然ありはしない。
まるで全宇宙をそっくりそのまま直観して『そうだ、これでよし』と肯定するような気持なんだ。それは調度神が世界を創造する時に、創造の一日一日の終わるごとに『然り、これでよし』と言われたのと同じようなものだ。
それは単に有頂天になってしまうことではなくて、何となくただしいんと静まり返った法悦なんだ。その時には、人はもはや赦すというようなことはできない。なぜって赦すべきものなんか何一つ残らないんだもの。
また、それは愛することとも違う。いや、愛どころか、そんなものよりずっと上なんだ。そして何より恐ろしいのはこの気持ちが実に素晴らしく鮮明でしかも得もいわれぬ歓喜に溢れていることなのさ。もしこの状態が5秒以上続いたら魂はもうもちこたえられないで消滅して仕舞うだろう。
この5秒間のうちにぼくは一つの全生涯を生き通してしまう。そのためなら僕は一生を放棄したってちっとも惜しくないくらいだ。
ドストエフスキー「悪霊」より
照明
その時、脳が一時にぱっと燃え上がるようにはたらき始め、生命力が猛烈な勢いで一挙にひきしめられる。
生命の感覚と自意識が普段の何倍も力を増す。はげしい光が魂を照明し、あらゆる不安が解消して、崇高な静かな境地が現出する。そして理性の働きは、『究極因』までつかむことができるかと思われるほど高められる。
同「白痴」より
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