長引く梅雨、そしてコロナ禍。何とも難しいALS患者の
安楽死事件、長崎の県内GoToでの母娘の痛ましい犠牲・・・。
そんな中、朝刊から(朝日新聞「窓」)ちょっといい話を
是非紹介しよう。佐賀県鳥栖市の看護師、斎藤泰臣さんの
投稿文を、例によって少し編集(短縮)させていただく。
夜遅い長崎本線の客車内。携帯電話を手にしながらも
躊躇する夫に妻が「電話した方がよかよ」と催促する。
「迷惑になる、駅に着いてからでよかやん」と夫。
続く小声のやり取りから、危篤の父親のもとに駆け
付ける夫とその妻のようである。
緩和ケア病棟の看護師として何人もの患者を看取り、
その最期に間に合わなかった家族を見て来た。構わない
から電話をかけるように言うのはお節介かと悩みながら
も立ち上がろうとした。
その時、四十代と思しき女性が夫婦に近づき言った。
「電話したほうがいいですよ」。その周囲の乗客も一斉に
大きく頷いた。みんな気にしていたのだ。
携帯電話を始めた夫は、付き添っている母親に「親父の
耳元に携帯ば置いて」と言い危篤の父親に語り掛け始めた。
戦後の厳しい時代に「ひもじい」思いもさせずに自分を
育ててくれた感謝の言葉が続いた。電話を切った夫は下を
向き肩を震わせる。妻がその肩を擦る。
駅に着くと夫婦は周りに頭を下げて降りて行った。
たまたま乗り合わせた自分や他の乗客が、見知らぬ誰か
の最期を思う。停車中に流れ込んだ冷気が消えていく。
(引用終わり)
雨上がりの散歩から