結婚して直ぐの正月、池袋に出て正月映画「男はつらいよ」を観た。
もし結婚前なら小洒落た洋画でも観たのだろうが、デートで映画を観た
記憶はないので、もっぱら飲みまわっていたのだろう。
いろいろ物色して寅さん映画に決めてから、互いに顔を見合わせて
「所帯染みたねー」と笑い合ったのを思い出す。第一作の1969年から
数年目だから、既に十作目以上、ヒロインは十朱幸代だったと思う。
朝日土曜版で月一回連載中の「夢をつくる」の8回目で、山田洋次
監督が「男はつらいよ」の主演、渥美清を語っている。
米映画「ゴッドファーザー(1972)」をしのぐ興行成績を残した頃
から「男はつらいよ」へのパッシングが始まり、「あれが大人の恋か、
性的不能者ではないのか」など、からかい半分の批評が高まった。
23作目(1979年)のロケ現場へ向かいながら、山田洋次監督が主演の
渥美清に「気に入らないなら無視すればいいのに何故悪口を言うんだろう、
一生懸命作っているのに」と愚痴をこぼすと、渥美清が穏やかに答えた。
「人間というのは、その人が自信を持っているときは彼がどんなに
謙虚であろうと努力しても、傍からはちょっと傲慢に見えたるする
ものです」
白樺の落ち葉をサクサクと踏みながら静かに語る渥美さんは、まるで
哲学者のような雰囲気だったと山田洋次は回想する。寅さん以外の出演
は一切せず講演もしない。自伝執筆にも「役者は物書きではありません」
と一蹴した。
私(山田洋次)もそろそろあちらに行く日が近づいて来ました。もし、
いまわのときに、渥美さんがベッドの脇にいてくれて、あの細い眼で
ニコニコ笑いながら「私もすぐそっちに行きますよ」とでも言ってくれ
たら、どれほど安らかにこの世を去ることができるだろうか。彼が先に
逝ってしまい、それが出来ないことは辛いことです。
先月までBS放送の「4Kリメイク版」の寅さんシリーズを観ていた。
最終回は3年前に劇場公開された50作目の「お帰り寅さん」。もちろん
寅さんは回想シーンである。
ハナミズキが秋を演出する