この7月に逝去した森村誠一の晩年の著作を2冊続けて読んだ。
いずれも小説ではない。この2冊の執筆の間、森村は「認知症性
鬱病」を患う。よって、この2冊は極めて対照的な内容である。
自叙伝である「遠い昨日、近い昔」はギラギラとした作家論が
中心となっている。少年時代、父親の機転で辛くも生き延びた終戦
の日の熊谷大空襲の体験から、終盤では反戦論を繰り広げる。
タイトルの「遠い昨日、近い昔」は、
遠い戦争を昨日のことのように忘れず
近い不条理を昔のことのように葬れ
の意である。特に安倍政権下で顕著になった軍事国家への動き
への警鐘を鳴らしている。
これは、理不尽な時代に戦場へと臨む前、恋人との山行中に
詩人、加藤泰一が詠んだ「洋燈(ランプ)」の一節、
過ギシ日ハ遠ク昔ノヨウダト、オ前ハ云ツタガ、
過ギシ日ハ近ク昨日ノヨウダト、僕ハ黙ツテイタ
を踏まえている。
一方、患った後の「老いる意味」は、まさに老後の生き方のハウ
ツー本と言える。森村はまさにこの本のように淡々と老後を過ごし、
そして九十歳と半年で逝ったのである。
台風一過、今朝の二十五夜の月と日の出