中国「汚染との闘い」は掛け声倒れ、失望する住民たち
REUTERS Natalie Thomas and David Stanway
[邯鄲(中国) 29日 ロイター] - 中国で最も汚染された都市が集まる河北省は、汚染源となっている企業を閉鎖すると約束してきた。だが、館陶化学工業団地の近隣で暮らし、何年にもわたり抗議行動を続けてきた住民たちは依然、半信半疑だ。
「美しい村」建設と、汚染の激しい同省重工業の「刷新」をうたう横断幕が掲げられてはいるが、南寺頭と東路荘の村々に影を落とす多数の化学プラント群は、環境保護当局からの規制に縛られることなく操業していることが多い、と住民は語る。
地元当局は空気、水、土壌を汚染する工場に目をつぶっている、と住民は指摘。特に彼らが憤慨するのは、各プラントで最もひどい汚染が発生する作業の多くが夜間に実施されており、その時間帯に検査官が訪れることはめったにない、という点だ。
「検査官は全然来てはくれない」とZhangと名乗る住民が語った。Zhangさんの家の近くには、焼け焦げた雑草に覆われた一角がある。これは今年初め、危険な化学物質を運ぶ車両が炎上した跡で、この事故によって、刺激性の煙が街路に広がったという。
「環境保護当局に電話したが、誰も来なかった」とZhangさんは言う。「耐え難い臭いで、あっというまに、あたり一面に煙が広がった」
省や県の環境保護当局にコメントを求めたところ、回答は得られなかった。館陶化学工業団地のモニタリングを担当するLiuと名乗る検査官は、ロイターの電話取材に対し「施設は24時間体制で監視されている」と話した。
約40年に及ぶ野放図な成長が環境に与えた影響に対処するため、開始から4年目を迎えた中国当局の「汚染との闘い」では、規制を破る常習犯やそれをかばう地方政府に必要な措置を取ると約束している。
河北省は北京に近接しており、事実上、首都を囲んでいる。北京を頻繁に「窒息」させている粒子状物質の約3分の1は河北省由来であるため、対策の槍玉に挙がっている。
上述した村々は、今年1─4月の公式統計で大気汚染が最も激しいとされた、鉄鋼生産の中心都市・邯鄲(かんたん)の郊外に位置している。
過去9年間で河北省政府に提出された1万1000件近い苦情のアーカイブはオンラインで公開されているが(www.hbepb.gov.cn)、そのうち省全域にわたる約700件の苦情が、夜間操業による汚染に関するものであり、その多くが、地元の環境保護当局にはこのような問題への対応能力がないと指摘している。
邯鄲市の党書記であるGao Hongzhi氏は、3月に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開催された際に、夜間の汚染は引き続き問題であり、当局者がその是正に取り組んでいるとロイターに語った。
「規制を気にせず、夜の闇にまぎれて汚染物質を排出するような企業も一部にある」と同氏は語り、市当局は夜間の電力消費を監視して、こうした行為に及んだ企業を突き止めようとしていると語った。
「2014年には100社以上の企業に、この種の問題があったことが判明した。だが昨年はその数が約40社にまで減少した。この問題は非常に重要であり、注意を払っている」
住民によれば、特に過去4年間で付近の村落におけるガンの発症が急増したという。ただし、データの裏付けは提供されなかった。
河北省、邯鄲市、そして地元の郡政府の部局や疾病管理センター、病院に対して、地元のガン発生率や死亡原因についての数値を提供するよう要請したが、回答は得られなかった。
<封鎖された幹線道路>
2008年以来、館陶化学工業団地は付近の農地を少しずつ買収し、現在では農薬やベンゼンなどの有毒物質を製造するプラントを10施設以上含むようになった。
一部の住民は、汚染のために育たなくなった綿花やサツマイモの栽培を諦めて、別のもっと丈夫な作物に切り替えたと話している。
ロイターの取材陣が夜明け近くにこの地域を訪ねたところ、館陶化学工業団地のプラントは、日中に訪れたときよりも活発に操業しているように見えた。以前は操業していなかった施設から煙がもくもくと立ち上り、化学物質の刺激臭が大気中に漂っていた。
2014年4月には既に、化学工業団地による汚染に対する正式な抗議が省政府に提出されている。
「これが何か役に立つのかどうかは分からないが、一般の人々を代表して抗議を試みる必要がある」と匿名の抗議者は書いていた。
河北省環境保護局は館陶化学工業団地に対する監視を強化すると約束したものの、地元住民によれば違反は続いているという。
たとえば、ロイターが閲覧した住民提供の文書によれば、昨年3月、Hebei Rongte Chemical Corpは、ベンゼン加熱用ガスケットの破断により有毒物質を含む蒸気が大気中に漏出したことについて、地元住民に対し「内部管理」の強化を約束した。ベンゼンには発ガン性物質として知られている。
ロイターがこの事故について問い合わせたところ、同社職員は電話を切ってしまった。
他のプラント操業について直接知る関係者によれば、未処理の排水が直接土壌に捨てられることは日常茶飯事だったという。「汚染水があまりにも多いので処理しきれなかった」。この関係者は、なぜ施設内の処理設備を使わなかったのかと問われてそう答えた。
化学工業団地の責任者とは連絡が取れなかった。
2014年後半には、いら立った村民たちが化学工業団地と地元の幹線道路を封鎖する事態に至っている。
封鎖を解除するため、化学プラント側が1日3元(約50円)の金銭補償を提示したが、実際の支払いはなかったとの主張があり、ロイターはこれを確認しようとしたが、関係者に連絡は取れなかった。
「補償金が得られるかどうかは重要ではない。プラントを閉鎖させることが肝心だ」と南寺頭の住民であるDingさん(46)は語った。