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中国で豚肉高騰、原因はコレラだけではなかった。 ますます手が届かなくなる国民食、政府は対策に必死

2019-10-26 22:12:01 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

中国で豚肉高騰、原因はコレラだけではなかった。

ますます手が届かなくなる国民食、政府は対策に必死
 
2019.10.25(金)    JBpres   山田 珠世  在上海コラムニスト
 
 


 中国の庶民の間で、ここ最近のホットワードと言えば、何と言っても“豚肉”だろう。「金持ちの

基準は、豚肉が好きなだけ買えるかどうかだ」といったジョークが出ているほどだ。


 中国政府は今年(2019年)9月、計3万トンの備蓄豚肉を市場に放出した。豚肉の需要が急増する

同月中旬の中秋節(中秋の名月)、10月1日の国慶節(建国記念日)に向け、市場への豚肉の供給を

増やすことが目的だった。豚肉は1万トンずつ3回投入されており、2回目の投入が発表された際には、

1日経たないうちに中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」の「人気検索ランキング(熱捜)」のアクセス

数が2億を超えたらしい。


 中国でなぜ、これほどまで“豚肉”が注目されるのか。

 それは豚肉の供給不足に端を発する豚肉価格の高騰がまだまだ止まりそうにないからである。


廃業を余儀なくされた農家や企業も

 中国農業農村部によると、昨年(2018年)9月23日時点で1キログラム当たり19.71元(約296円)

だった豚肉の出荷価格は、1年後の今年9月8日には34.52元(約518円)となり、上昇率は75%に上った。


 中国で豚肉価格が上昇を続けるのは、昨年8月に発生したアフリカ豚コレラのまん延が最大の原因

だとされている。中国メディアによると、農業農村部は同8月初旬から2019年8月末までに中国

153カ所でアフリカ豚コレラが発生し、119万頭が殺処分されたと発表している。


 アフリカ豚コレラの発生を受け、中国政府はまず、生きた豚を別の省に運送することを禁止する

通知を発表した。病気のまん延を防止するための措置だったが、豚肉生産の多い省から他都市への

出荷ができなくなったため、大量の生きた豚が低価格で処理または売却されることとなった。

 感染を恐れて全頭を殺処分し、養豚業をあきらめた農家、感染拡大防止措置のためのコスト増に

耐えられず、廃業を余儀なくされた農家や企業も増えた。

 当然ながら豚の飼育頭数を増やす農家はいない。市場への豚肉供給量は徐々に減少し、豚肉価格の

押し上げにつながっていった。


もともと高騰する時期だった?

 ただ、実はアフリカ豚コレラが発生していなくても、中国では今年、豚肉価格が高騰していた

可能性が高かったという指摘がある。

 まず、豚肉価格には周期がある。豚肉価格と豚飼養頭数はほぼ3年ごとに周期的変動が繰り返される。

これをピッグサイクル(豚周期)というらしい。つまり、豚肉価格は上昇と下落を繰り返しており、

2018年5月に周期的な安値の時期を経て、まさにこれから上昇周期に入ろうとしていたころだった

という。


 また中国では、2007年ごろから畜産業の標準化、専門化、大規模化を推進しており、それまで主体

だった小規模な養豚農家による養豚場経営が減少した。その一方で、1000~1万頭規模の養豚場が

増え、環境汚染問題が深刻化していた。そこで中国政府は畜産業の汚染防止に関する「畜禽規模養殖

汚染防治条例」を公布し、2014年1月から施行。養豚場の建設禁止区域を明確に定めた。この条例を

受け、地方政府は養豚場の閉鎖や移転を促し始めた。


 さらに、2015年1月には、25年ぶりに改正された環境保護法が施行され、違法に環境汚染物質を

排出した事業者への罰則が厳格化。豚の糞便や、大量の窒素やリンなどを含む汚水の不適切な排出が

水質や土壌、空気汚染につながるとして、養豚場を排除する動きはさらに激しくなった。


 こうして全国各地で“畜産農場建設禁止運動”が盛んになり、建設禁止エリアは拡大を続けた。

地方政府が、畜産農場の閉鎖に条件付きで補助金を支給するなどし、2017年通年では、全国34の

省級行政区で計21万7937カ所の畜産農場が閉鎖または移転。2018年10月までに、さらに16万8342カ所が閉鎖、移転している。


産業転換期に発生したアフリカ豚コレラ

 このような養豚産業の転換期に、アフリカ豚コレラが発生したのである。

 上海に住む筆者が「豚肉が高くなった」と感じるようになったのは今年の8月ごろ。その後も豚肉

価格は上昇を続け、気づけば上海の自宅近くのスーパーで、これまで1パック20元(約300円)前後

だったとんかつ用の豚肉が、30元(約450円)近くまで約1.5倍に値上がりしていた。買うことを

一瞬躊躇してしまったほどだ。10月初旬の国慶節休暇時の話である。


 10月中旬を過ぎた今も、豚肉の上昇は続いている。農業農村部によると、全国農産品卸売市場に

おける豚肉平均価格は、9月29日の1キログラム当たり36.43元から、10月18日には45.57元に

上昇した。3週間弱で25%上昇している計算で、上昇幅は以前と比べ縮小しているものの、

消費者感覚としては依然「さらに高くなった」と感じているのも事実だ。牛肉を買うのとそう

変わらない感覚で豚肉を購入している感じである。


価格抑制に向け多数の施策

 中国政府は豚肉価格の上昇を抑制するために、各方面から多数の施策を講じている。

 まず豚肉輸入量を増やし(今年1~9月には前年同期比43.6%増の132万6000トンを輸入)、冒頭で

記述したように、備蓄豚肉も放出した。

 また今年に入ってからこれまでに、政府は畜産の盛んな県級市に対し、畜産農家の環境汚染対応

コスト低減に向けて中央財政から37億元を拠出した。11億元を投じ、長江流域や中西部の省の

糞尿汚染対策を講じるほか、2020年末を期限に、養豚場を建設、拡張、移転する農家に対し、

最大500万元の補助金を出すことも発表している。

 むやみな「養豚禁止区域拡大」を管理することも明言した。また、アフリカ豚コレラに感染した

豚の殺処分を実施する地方政府への補助金支給の頻度を上げたほか、生産地での疫病防止施設などの

建設に向けた資金も援助する。9月初旬には、豚を輸送する車両を対象に有料道路の通行料を全国的に

免除することも発表した。

 中国政府は以上のように豚肉の上昇抑制に向けて必死になっており、今後、徐々に効果は現れると

みられる。


世界最大の豚肉消費国、中国

 中国は世界最大の豚肉生産国で、世界最大の豚肉消費国だ。さらに世界最大の豚肉輸入国でもある。

2018年の豚肉生産量は5403万トン、豚肉消費量は5500万トン、輸入量は119万トンだった。

 ちなみに、同年の世界の豚肉総輸出量は800万トンと意外に少ない。そのうちの約15%を、中国が

輸入していることになる。中国がこれ以上輸入量を増やすのは難しく、国内での豚肉の供給を

増やすには、生産量を上げるしか解決方法はないのが現状だ。


 中国の食卓に豚肉は欠かせない。中国人の肉類消費のうち豚肉は6割強を占めるという。

「値段を気にせず豚肉が買えるようになりますように」というのは、中国庶民の切なる願いに違いない。

  
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