イラン経済の窮状、庶民の胃袋も直撃
「インフレで肉なんていう贅沢品は買えなくなった」
2019 年 4 月 17 日 08:04 JST THE WALL STREET JOURNAL
By Sune Engel Rasmussen in Beirut and Aresu Eqbali in Tehran
イラン当局は経済の混乱を鎮めるための新たな標的を定めた。食肉市場を操る連中だ。
イラン暦の新年を祝った4月5日までの2週間、イランの人々は食卓を飾るのに以前よりずっと
お金が掛かることを実感した。イラン中央銀行によると、仔牛(こうし)肉や牛肉は昨年に比べ
67%も値上がりした。羊肉は52%、鶏肉も63%値上がりしたという。
靴屋を営むアリ・モシュタギ氏(38)は、「すさまじいインフレになった去年から、肉なんていう
贅沢品は買えなくなった」とこぼす。「お客も呼べない。まともな料理が出せないから」
食肉市場の危機はイラン人の胃袋という、おそらく最も痛いところを突いている。イランでは
昨年初め、景気への不満から抗議行動が広がった。イラン政府はそうした事態の再発を避けるため、
食料品価格の操作とみられる行為を取り締まっている。
国営メディアによると、正月の休み中、テヘランの警察当局は食肉市場を操作した疑いで
43人を逮捕した。警察はまた、隠されていた鶏肉270トンと牛肉175トンを押収。後で価格を
引き上げて売る狙いだったとみられている。
警察は3月にも、鶏肉を大量に隠して価格をつり上げていた疑いで30人を逮捕した。
2月には政府職員に対しても、こうした問題に関連する初の訴訟が起こされた。この訴訟を扱う
裁判所は、違法な食肉流通が対象とみられる腐敗対策の裁判所として先日、開設されたばかりだ。
取り締まりの強化は食糧危機の深まりを示す兆候だが、その主因である通貨安は他の製品価格も
押し上げている。ペルシャ暦の正月には至る所で見られる果物の価格も、昨年58%上昇した。
イランの食事に欠かせない米は24%値上がりし、砂糖は39%も高くなった。
イラン統計庁によると、昨年のインフレ率は27%に達した。
当局は食肉市場の操作を取り締まる以外にも、両替商による外貨の密輸や横領、金貨市場の
操作を摘発し、十数人を金融犯罪で起訴している。イラン指導層は金融犯罪が経済混乱に拍車を
掛けかねないと懸念している。
ある精肉店の店員は、大半の店で貯蔵容量が限られるため大量の在庫を持つのは難しいが、
家庭で貯蔵しようとする客もいると語った。
別の精肉店の店員アジズ・サベリ氏によると、正月の一週間ほど前から、鶏肉を買いだめ
しようと客が列をなした。「1人あたり2羽しか売れないと説明しても、10羽欲しいと言われる
ことさえある」とサベリ氏は言う。「小型冷蔵庫を買ってきて自宅の冷蔵庫と並べ、肉を
詰め込んでいる人がいるんだ」
政府は自治体が運営する店舗で安価な冷凍の輸入肉を販売し、市場価格をそれに近づけようと
試みた。1人につき1カ月当たり7.7ポンド(約3.5キロ)を割り当てたこのプログラムは3月に
終了したが、市場の価格を大きく押し下げるには至らなかった。
イランの政治指導層が二極化する中、食糧危機は分断を一層深めている。
ハッサン・ロウハニ大統領を含む政府高官は、食糧不足の元凶はインフレや密輸、米国の
経済制裁にあると主張している。
一方、強硬派はこうした危機について、2015年の核合意に対する反対や、
「米国は信用ならない」との懸念が正しかったことを証明していると指摘する。
ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランとの核合意から脱退し、制裁を再開した。
経済的な苦境は中間層にも影響を及ぼしている。
3人の子どもがいる買い物客の男性は、「何も買わないさ。肉のウインドーショッピングを
しているだけだ」とあきらめ顔だ。「値段を調べて、家で肉の話をするのが趣味になった。
誰が肉を買えるかって?金持ちだよ、貧乏人じゃない」