習近平政権が進める全国民監視システムの恐怖
2018.5.31 11:45 産経新聞 【石平のChina Watch】
中国の習近平政権は今、国民全体に対する監視システムの構築を行っている。
例えば、全国の都市部では2千万台以上の監視カメラが設置され、24時間、街中の人々の動きを監視している。
そして、監視カメラの中には、特殊な人工知能(AI)が内蔵されている。
カメラ自体は歩行者や自動車を運転中のドライバーの顔をズームアップで捉えるだけでなく、車の色や車種、
歩行者の年齢、性別、衣服の色といった詳細を判別することもできる。カメラに内蔵しているAIが衛星利用測位
システム(GPS)や顔認証システムを通して当局のまとめた「犯罪者データベース」とつながっているために、
街の中である人物を捉えた際、当局の「犯罪者データベース」と一致すれば、GPSを使って居場所を即座に
探し出し、警察官が直ちに駆けつけてくる仕組みとなっている。
当の警察官たちにも特殊な眼鏡が配備されている。それも顔認定機能を搭載し、当局の「犯罪者データベース」と
つながっているから、警察官がこの眼鏡をかけていると、人混みで映る多くの顔から、「犯罪者データベース」に
登録された人の顔をわずか0・1秒で割り出すことができるのだ。
このような精密なシステムの監視対象となるのは、もちろん一般的な意味での犯罪者だけではない。
中国共産党や政府に対して反抗する人、反政府的デモや街頭での抗議活動を行う人は皆、このシステムによって
監視され、身元が簡単に割り出されてしまうのである。
しかも、中央テレビ局はわざとこのシステムのすごさをアピールする番組を全国向けに流している。
そうすることによって、「自分がどこへ行っても常に監視されている」という意識を全国民に植え付け、
国民の誰もが公の場での抗議活動などを躊躇(ちゅうちょ)しなければならないようにしておくのである。
ネットは当然、中国政府が重点的に監視する領域である。ネットユーザーが自分の端末機器から発信する
微博(中国版ツイッター)が常に監視されているのはもちろんのことだが、実は日本でも話題になっている
中国の消費者用電子決済システムも政府の監視下にある。政府はその気になれば、個人の消費行動までを細かく
チェックすることができるのだ。
中国政府はさらに、国民個人所持の携帯電話やスマホなどの端末通信機器に政府開発の監視用ソフトの
ダウンロードを強制するプロジェクトを進めていく。監視用ソフトがダウンロードされると、個人所持の
携帯やスマホから発信したすべての情報と、それが受け取ったすべての情報が政府の監視システムに筒抜けになる。
中国の場合、携帯やスマホの購入・所持は実名制であるから、誰かが自分の携帯やスマホから政府批判の
メッセージでも発信していれば、発信した本人の身元が直ちに割り出される。通信機器を使っての政治批判は、
これで完全に封じ込められることになるのである。
現在、中国政府はまず、重点的な監視対象となっているウイグル人たちにこの監視ソフトのダウンロードを
強要し始めているが、いずれ全国民に広げていくであろう。
このようにして今後の中国国民は、町を歩いていても、ネットで友人とおしゃべりしていても、
電子マネーで支払いをしていても、自分の携帯やスマホからメッセージを配信していても、常に政府によって
監視されているのである。もはや人権とか自由とかうんぬんするところではない。国民全員は24時間、常に政府に
監視されているという恐怖感と憂鬱の中で生きていくしかない。
それはすなわち、習政権が構築しようとしている「新時代中国」の理想的姿なのであろう。
14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動へ準備
China: Social Credit System Will Punish The Disobedient
2020年に制度が本格始動すれば、すべての中国人の行動が習近平の監視対象になる
<長々とゲームをするのは怠け者、献血をするのは模範的市民、等々、格付けの高い者を優遇し、低い者を
罰するこのシステムにかかれば、反政府活動どころかぐれることもできない>
中国で調査報道記者として活動する劉虎(リウ・フー)が、自分の名前がブラックリストに載っていたことを
知ったのは、2017年に広州行の航空券を買おうとした時のことだった。
航空会社数社に搭乗予約を拒まれて、中国政府が航空機への搭乗を禁止する「信頼できない」人間のリストを
保有しており、自分がそれに掲載されていたことに気づいた。
劉は、2016年に公務員の腐敗を訴えるソーシャルメディアに関する一連の記事を発信し、中国政府と衝突した。
政府から罰金の支払いと謝罪を強要された劉はそれに従った。これで一件落着、と彼は思った。
だがそうはいかなかった。彼は「不誠実な人物」に格付けされ、航空機に乗れないだけではなく、他にも多くの
制限を受けている。
「生活がとても不便だ」と、彼は言う。「不動産の購入も許されない。娘を良い学校に入れることも、高速列車で
旅することもできない」
国家権力による監視とランク付け
劉はいつのまにか、中国の「社会信用システム」に組み込まれていた。中国政府は2014年に初めてこのシステムを
提案、市民の行動を監視し、ランク付けし、スコアが高いものに恩恵を、低いものに罰を与えると発表した。
この制度の下で、エリートはより恵まれた社会的特権を獲得し、ランクの底辺層は実質的に二流市民となる。
この制度は2020年までに、中国の人口14億人すべてに適用されることになっている。
そして今、中国は劉のように「悪事」を犯した数百万人に対し、鉄道と航空機の利用を最長1年間禁止しようと
している。5月1日から施行されるこの規則は、「信用できる人はどこへでも行くことができ、信用できない人は
一歩を踏み出すことすらできないようにする」という習近平国家主席のビジョンを踏まえたものだ。
これは近未来社会を風刺的に描いたイギリスのドラマシリーズ「ブラックミラー」のシーズン3第1話
『ランク社会』のプロットにそっくりだ。ドラマはSNSを通じた他人の評価が実生活に影響を与えるという
架空の社会が舞台だが、中国において暗黙の脅威となるのは、群衆ではなく、国家権力だ。
献血とボランティアで最高スコア
中国政府はこのシステムの目的は、より信頼のおける、調和のとれた社会を推進することだと主張する。
だが、この制度は市場や政治行動をコントロールするための新しいツールにすぎないという批判の声もある。
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級研究員マヤ・ワンは、「社会信用システムは、善行を奨励し、
悪行を処罰するために習政権が実施する、完全支配のシステムだ。それも進化する」と本誌に語った。
「制度が成熟すると共に、逆らう者への処罰はひどくなるだろう」
社会信用システム構想発表時の文書によれば、政府は2020年までに最終的なシステムの導入をめざしている。
国家的なシステムはまだ設計段階にあり、実現の途上にあるが、地方自治体は、市民に対する様々な方法を
試すために、独自のパイロット版を立ち上げている。中国最大の都市上海では、親の世話を怠る、駐車違反をする、
結婚の登録の際に経歴を偽る、列車の切符を転売するといった行為は、個人の「信用スコア」の低下につながりかねない。
民間企業も類似システムを開発
中国南東部の蘇州は、市民を0から200までのポイントで評価するシステムを採用。参加者は全員100の持ち点から
始める。警察によれば、2016年に最も模範的だった市民は、献血を1リットル、500時間以上のボランティアを行って、
最高の134ポイントを獲得したという。ポイント数に応じて、公共交通機関の割引や病院で優先的に診察して
もらえるなどの特典が与えられる。
蘇州当局は、次の段階として、運賃のごまかしやレストランの予約の無断キャンセル、ゲームの不正行為といった
軽犯罪に対してもこのシステムを拡大し、市民を処罰する可能性があると警告した。
中国の電子商取引企業も顧客の人物像を把握するために、顔認証などの高度な技術を使って、似たような
試験プログラムを実施している。政府は、社会信用システムの開発にむけて民間企業8社にライセンス供与している。
中国最大手IT企業・アリババ系列の芝麻信用(セサミ・クレジット)は、ユーザーの契約上の義務を達成する
能力や信用履歴、個人の性格、行動や嗜好、対人関係という5つの指標に基づいて、350から950の信用スコアを
割り当てている。
長時間ゲームする人は怠け者
個人の買い物の習慣や友人関係、自分の時間を過ごす方法などもスコアに影響を与える。
「たとえば、10時間ビデオゲームをプレイする人は、怠け者とみなされる」と、セサミ・クレジットの
テクノロジーディレクターであるリ・インユンは言う。「おむつを頻繁に購入する人は親とみなされる。
親は概して責任感がある可能性が高い」
同社はそうした数値を計算するための複雑なアルゴリズムを明らかにすることを拒否しているが、既にこのシステムに
登録された参加者は数百万にのぼる。セサミ・クレジットはウェブサイトで、公的機関とのデータ共有はしていないと
主張している。
中国政府がこの試験的構想から全国統一のシステムを作り出し、計画どおりに実施するなら、中国共産党はすべての
国民の行動を監視し、方向付けることができるようになる。言い換えれば、習は完全な「社会・政治的統制」の
力を握るだろうと、中国研究機関メルカトル・チャイナ・スタディーズのサマンサ・ホフマンは本誌に語った。
「このシステムの第一の目的は、党の力を維持することだ」
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