対中抑止の最前線に、米軍が重視する豪最北端
南シナ海での中国の強硬姿勢を受け、豪ダーウィンの重要性が再び高まっている
2018 年 5 月 28 日 06:58 JST THE WALL STREET JOURNAL
オーストラリアでアジアに最も近い港湾都市ダーウィン。第2次世界大戦中の1942年には旧日本軍が同地を空襲し、
200人以上が死亡した。オーストラリアは地理的に他の大陸から離れており、一定の安全を享受していると考えられていたが、
そうした見方を一変させる出来事だった。
そのダーウィンは現在、南シナ海問題を巡る中国の強硬姿勢を受け、米国や米同盟国にとって再び軍事的に重要な場所になっている。
郊外にある軍事基地には、過去数十年で最大規模となる米海兵隊が駐留しており、アジアでの将来的な衝突に備える演習を
最近開始した。
ヤシの木が立ち並ぶダーウィンはインドネシアまで640キロ、南シナ海までは2700キロの距離にある。ダーウィン駐留海兵隊の
司令官を務めるジェイ・シュネル大佐は「ここは米国にとって非常に重要だ」と語る。
米国とオーストラリアは、ステルス戦闘機や、長距離飛行が可能な海上監視用の無人機を使用できるようにするため、
多額の資金を投じて豪州北部の複数の空軍基地の改修を行っている。またダーウィンに寄港する軍艦のために埠頭(ふとう)や
燃料補給施設の整備も進めている。
米海兵隊は今後数カ月間、オーストラリア軍の強襲揚陸艦に乗り、人道危機への対処や戦闘技術の演習を行うが、
こうしたケースは初めて。またフランスは今月、ダーウィンでの演習に上陸作戦部隊を派遣した。インドも7月に行われる大規模な
空軍演習に初めて戦闘機を参加させる。
こうした動きの多くは、領有権争いが続いている南シナ海の環礁で中国が進める軍事拠点化に対応することが目的だ。
中国は今月、初の国産空母の試験航行を開始したほか、南シナ海の島の一つに初めて爆撃機を着陸させた。
中国が南シナ海で軍備増強の動きを見せる中、ダーウィンの軍事基地としての重要性が再び高まっている。
第2次大戦時、そして最近では東ティモールでの平和維持活動で同じような役割を担った。
米豪両国は、外国軍部隊の駐留に対するオーストラリアの国内世論に配慮し、恒久的な米軍基地の設置は否定している。
一方、中国政府はオーストラリアで米軍のプレゼンスが拡大していることについて、「冷戦時の考え方だ」と非難している。
その中国は、オーストラリアにとって最大の貿易相手国であり、天然資源の主要輸出先だ。
ダーウィンには現在、中国やタイ、インドネシアからの移民の家族が多く住んでいる。コン・バスカレス市長は、
2015年にダーウィンの湾港を中国企業に99年貸与する契約を交わした当時、現地でさほど注目を集めなかった背景には、
アジアに対する親近感があると語る。
米国にとって、オーストラリアの利点は中国を意識したものにとどまらない。オーストラリア北部には世界最大規模の
演習場があり、熱帯のような暑さや険しい地形で装備をテストすることができる。米国の重要な人工衛星の基地や世界で最も
先進的な長距離レーダーもある。
バラク・オバマ前政権のアジア・ピボット政策の一環として、2012年に米海兵隊がオーストラリアに駐留を開始して以降、
そのプレゼンスは徐々に拡大している。現在は1600人規模だが、今後数年で2500人まで増える見通しだ。
米軍の駐留交渉に尽力したオーストラリア国防省の元当局者、ピーター・ジェニングス氏は「最初に海兵隊の駐留で合意して以降、
東南アジアでは中国の存在感がかなり高まっている」と指摘。「2010年、あるいは1942年と比べても、ダーウィンはさらに
戦略的になっている」と述べた。
東南アジアを巡ってはロシアも再び関心を示している。ロシア海軍の艦船が今月、演習のためパプア・ニューギニアに寄港した。
またロシアの戦略爆撃機も昨年末、インドネシア東部のパプア州に派遣されている。
第2次大戦中にアジア太平洋地域で従軍経験があるチャーリー・パロットさん(98)は、「ここ最近の米国について言いたいことが
ある人もいるだろうが、海兵隊が戻ってくるのはいいことだ」と述べている