北朝鮮の金正恩党委員長は、今月25日から28日まで中国の北京を非公式訪問し、習近平国家主席と3時間に渡って会談を行った。
このことは中国の新華社通信と、北朝鮮の朝鮮中央通信がほぼ同時に報じた。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞も28日の1面で、中朝首脳会談のニュースを大きく報じた。これにより北朝鮮国民の知る
ところとなったわけだが、これについては様々な声が上がっている。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、地域住民の多くが「何か支援を取り付けて来たはずだ」と見ており、
「経済封鎖(制裁)が近日中に解除されるのではないか」という期待の声が上がっていると伝えた。
また、両江道(リャンガンド)の内部情報筋は、「中国(の指導者)とも会ったのだから、南朝鮮(韓国)や米国との会談も
一瀉千里(早急に進む)に行くのではないか」という市民の声を伝えた。
ただし、ポジティブに受け止めている人ばかりではない。「外国に一度も行ったことのない人(金正恩氏)が動いたということは、
苦境が極度に達したという証拠ではないか」(情報筋)との意見を言う人もいるということだ。ちなみに北朝鮮国民のほどんどは、
金正恩氏にスイス留学の経験があることを知らない。
情報筋は、「このような批判は、金正恩氏は権力の座についてから核やミサイルに莫大なカネを使ったのではないか。
父親(金正日総書記)より息子(金正恩氏)が使ったカネの方が多いのではないか、という推測を元にしたものだ」と説明した。
また、「どうせ支援をもらったところで、人民には使わないだろう」と冷笑的に見ている人もいる。
一部の住民からは、当局は中国から引き出した資金を現在、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)で進めている観光開発に
投入するのではないかとの声が上がっている。当局は、工事に必要な資金と労働力を住民の供出に頼っているが、
「白頭山青年英雄発電所のときほどは集まらない」(情報筋)状況だからだ。
北朝鮮の地方は、国際社会の制裁強化の影響により極めて厳しい状況に追い込まれ、労働力や資金の供出はおろか、日々の食事にも
事欠くような状態になっていると伝えられている。
北朝鮮の食糧事情はかつてに比べ、大きく改善した。しかし、同時になし崩し的な資本主義化が進行したことで、貧富の格差が拡大。
いくら働いても、市場で食べ物を買うことのできない層が出現している。このような人々は、経済制裁の影響でわずかな物価変動が
起きただけで、大きなダメージを受けてしまうのだ。
朝日新聞は27日、今年2月に慈江道(チャガンド)を訪れた中国人商人の話として「街角で餓死した子どもの遺体を見た」と報じた。
また、この商人は北朝鮮の友人を食事に招いたころ、まともな食事は数日ぶりで、一心不乱に食べていたとも報じた。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)も2月に、慈江道の満浦(マンポ)市のある協同農場で相次いで2件の餓死事例が
発生したと伝えている。
金正恩氏は、中朝首脳会談において「金日成氏、金正日氏の遺訓で、非核化に力を尽くすことは、わが国の変わらぬ立場」と、
非核化への意思を改めて表明したが、これについても北朝鮮国内では否定的に見る反応が多い。