北朝鮮で大干ばつ、食料支援の要求に疑問の声も
制裁解除へ向けて米国に圧力をかけるのが狙いだとみる専門家も
2019 年 5 月 17 日 09:42 JST By Timothy W. Martin and Dasl Yoon
【ソウル】北朝鮮はこの40年近くで最悪の干ばつに見舞われている。国営メディアが報じた。
国際援助機関は、資金難の北朝鮮国内で、食料不足が深刻化していると警告している。
2500万の人口を抱える貧困国の北朝鮮は以前から飢えと戦ってきた。しかし、国連の2つの人道
支援機関は今月に入り、同国民の40%が食料支援を「緊急に必要としている」と報告した。
国営の朝鮮中央通信(KCNA)は15日、1月初めから5月初旬までの同国の降雨量がわずか2.1インチ
(約53ミリ)にとどまり、同時期としては1982年以来の低水準になっていると伝えた。
しかし、一部の専門家らは、悪天候と経済制裁が北朝鮮で本当に新たな食料危機を生み出して
いるのか、それとも停滞している非核化交渉で米国に圧力を掛けるため北朝鮮政府が以前からの
問題により大きな関心を向けさせようとしているのか、疑問が残るとしている。
金一族の支配下にある北朝鮮が食料援助を求めるのは、ほとんど毎年の慣例となっている。
しかし、米国の北朝鮮人権問題担当特使を務めたこともあるロバート・キング氏は、北朝鮮が2月に
国連への書簡で伝えた今年の要請は、これまでとは違った性格を持つと指摘する。
制裁措置が食料危機の原因になっていると北朝鮮が強調しているからだ。
「北朝鮮は制裁解除を実現するため、制裁が人々を苦しめていることを示そうと躍起になっている」。
キング氏はそう指摘する。
南北交流プログラムを進める統一支持の組織である民族和解協力汎国民協議会(民和協)によれば、
北朝鮮政府は今週、韓国の複数の援助団体との会合を5月27日に中国の瀋陽で開くことを提案し、
食料援助の要請をさらに本格化させた。北朝鮮がこれら援助団体と連絡を取ったのは4月初め以来の
ことだ。
米国と北朝鮮は非核化交渉で行き詰まっている。米国は北朝鮮の核兵器放棄に向けた具体的な
約束を望んでいる一方で、金政権は米国による早期の制裁解除を含む、よりゆるやかで段階的な
プロセスを望んでいる。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、ここ数カ月にわたって頻繁に同国の自立に
言及しており、傷ついた同国経済の立て直しを約束している。同国は今年ベトナムで行われた
米朝首脳会談が合意なしに終わったことを受け、ますますいら立ちを強めている。ここ1カ月の間には、
一連の低レベルの挑発行為を行い、トランプ大統領以外の米当局者を攻撃したり、兵器の実験を
3度行ったりした。
国連の報告書によると、2018年の北朝鮮の食料生産量は、この10年で最も急激な落ち込みを記録し、
前年比9%減となった。熱波、洪水や台風による影響を受けた。しかし、昨年の収穫不足によって
食料供給が劇的に落ち込むかどうかは数カ月を経なければ分からない。
ワシントンに本拠を置く韓国経済研究所(KEI)でシニアディレクターを務めるトロイ・
スタンガロン氏は「今年は幾分悪化する可能性はあるが、それが危機的な状況かは分からない」
と話し、「北朝鮮は常に食料に困っている国だ」と指摘した。
エコノミストや最近北朝鮮を訪問した人々によると、北朝鮮の国内経済は、制裁が強化されて
いるにもかかわらず、驚異的な粘りをみせており、違法取引やその他の闇市場での取引によって、
人々が食卓に食料を並べるのに十分な商取引が行われているという。
実際、コメの相場はここ数週間下がっており、供給が引き続き堅調であることをうかがわせる。
ウェブサイト「ノース・コリアン・エコノミー・ウオッチ」の共同編集者を務めるベンジャミン・
カツェフ・シルバースタイン氏によると、北朝鮮の食料輸入は、2017年9月の制裁強化の
対象外であり、おおむね横ばいに推移しているという。大豆とトウモロコシの生産量は近年より
少ないものの、2012年ないし13年と同程度とみられる。
脱北者で現在は韓国の北朝鮮専門ネット新聞「デーリーNK」で働いているカン・ミジン氏は
「北朝鮮の人々は食料不足で苦労しているものの、通常の状態にすぎない」と指摘。カン氏は
北朝鮮経済の動向を追っており、北朝鮮関係者と定期的に接触している。
北朝鮮は国営メディアを通じ外国からの援助について、国内向けには異なったメッセージを
発している。朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は今月初め、同国への制裁措置について、他国の主権を
奪おうとしている「帝国主義者」によって行使された制裁だと非難した。
したがって諸外国への過度の依存は「自分の指で自分の目を刺すのも同然である」と同紙は警告した。
ホワイトハウスは先週、韓国が北朝鮮に対し何百万ドルもの食料支援を計画していることに
ついて介入しないと述べた。韓国統一省は14日、国連世界食糧計画(WFP)が9月までに食料援助を
行うよう要請してきたことを明らかにした。
人道的支援団体は北朝鮮の食料生産の落ち込みは、このところの干ばつによりさらに深刻化する
恐れがあり、これに対処するために食料援助の拡大が必要だとしている。
北朝鮮での支援活動を行っているスウェーデン赤十字社のマーガレッタ・ワールストロム社長は
「昨年時点で食料生産と食料供給に明確な落ち込みがあった」と指摘、
「北朝鮮の人々は常に脆弱(ぜいじゃく)な状態に置かれており、わずかなことで危うい状況に陥る」
と述べた。