ハイテク株総崩れ、IPOの宴が早々に終わる恐れ
市場全体のムードの反映か、ハイテク業界の時代の変化の前兆か?
あれは、つい5週間前の話だ。その後、アマゾンの時価総額は1500億ドル近く吹き飛んでしまった。
1500億ドルと言えば、米国で最も成功している小売業者2社――ターゲットとコストコ――の時価総額の
合計をも上回る金額だ。
これは強気相場を長い間続けてきたハイテク株に値下がり余地がどれほどあるかを示す格好の事例だ。
市場全体を押し上げてきたこれまでとまさに同じように、10月10日のハイテク株の総崩れは株式市場全体を
押し下げた。
大型ハイテク株のファンダメンタルズは依然盤石に見える。少なくとも、厳格な新規制の脅威が目立たずに
いる限りはそうだ。
しかし、市場のムードが変われば、大幅な下落が生じる余地も大きい。
大半のバリュエーション指標で見る限り、恐ろしいほど割高になっているという雰囲気はハイテク株には
うかがえない。前回のハイテクバブルとの比較も、明らかに成り立たない。
しかし、株価収益率(PER)は10倍台の後半で、調整の余地が残る。実際に調整すれば、その波紋は
株式市場全体に及ぶだろう。
比較的小幅な価格変動でも大規模な影響がもたらされる恐れがある。
まだ市場時価総額が5000億ドルを上回っている大型ハイテク株4銘柄――アップル、アマゾン、
マイクロソフト、アルファベット――が10日に失った時価総額は、計2000億ドルにも及ぶ。
それ以上に際立った値下がりにすでに襲われてしまっているのが、著しく割高だった中国のインターネット
関連株だ。
アリババ集団は今年の高値から35%下げており、騰訊控股(テンセント)は42%安くなっている。
「中国株式会社」の止めることのできない台頭のシンボルとして、アリババが時価総額でアマゾンを
上回りそうに見えたのは、それほど昔の話ではない。
この中国の電子商取引の雄は今日、アマゾンの40%程度の時価総額にとどまっている。
10月第2週にウォール街を襲ったようなショックが観察されたら、次のような問いを避けて通ることは
できない。
この現象は、一体どれほどが市場全体のムードを反映しているのか、そして、どれほどがハイテクセクター
自体の時代の変遷の前兆なのか、という問いである。
金利の上昇と貿易摩擦の激化という不安材料は、今年に入って何度か市場を襲っており、ハイテク株は
真っ先にその矢面に立たされてきた。
だが、このセクターが相場の主役を降りるという予言は時期尚早だったことが明らかになっている。
先の相場下落は、意外な展開とともにやって来た。
米国政府が、米国ハイテクセクターへの中国の投資に新たな制限を設けるという発表と重なったのだ。
米国の知的財産の保護が貿易摩擦の中核であるのなら――そして、対立を正当化するために米政府が
持ち出した単なる言い訳でないのなら――ハイテク企業は報復に対して最も脆弱な企業の仲間に
なるかもしれない。
だが、昨今の相場の動きが、中国リスクに対する直接的な反応だとは考えにくい。
例えばアップルは売上高の20%を中国で計上しており、中国のサプライチェーン(供給網)への依存度も
高い。
その意味では、中国リスクに最もさらされている企業の1社に見えるかもしれない。
ところがピーク時からの株価の下落率は、中国での出来事に比較的影響されないアマゾンや
アルファベットの半分にすぎないのだ。
一方、もし大型ハイテク株が先の相場変動で最も目立つ犠牲者だったとするなら、それ以上に大きな
ショックを受けているのは、このセクターのPERがもっと高い銘柄や、利益が全く出ていない銘柄だ。
電気自動車製造のテスラと映像配信大手のネットフリックスは、10日に約10%値を下げた。
それぞれの高値からの下落率も大きくなっている。
事業拡大の資金調達を、好意的に接してくれる資本市場に頼り切りになることが、これらのような
企業のリスクを高めている。
その点に照らせば、資金調達への依存を止めて持続可能な企業になる能力がテスラにあることを
示そうとしているイーロン・マスク氏の取り組みは、時宜を得たものだと思われる。
もっとも、テスラの事業がその段階にもう到達しているのか、という重大な問題はあるが。
市場のボラティリティーが高まっていることで、新規株式公開(IPO)を視野に入れている他の
ハイテク企業は、雲行きが怪しくなってきたと感じ始めるかもしれない。
今年は株式未公開のハイテク企業に資金が大量に流れ込んでおり、1回の資金調達で1億ドル以上の資金が
投じられることもほぼ普通になっている。
米国では、ベンチャーキャピタルの投資額が、ドット・コム・バブルのピークだった2000年に記録された
1000億ドルを超える勢いで伸びている。
こうしたレイトステージの未公開企業に資金を注ぎ込む投資家の多くは、IPOで投資を現金化することを
当て込んでおり、2019年が大型IPOの当たり年になろうとしていた。
前回のハイテクバブルの終わりは、未公開株には投資できない一般の投資家がパンチボウルの酒を
しこたま飲むチャンスを得た後に、ようやくやって来た。
今回については、パーティーがそこまで長続きするかどうか分からなくなり始めている。