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世界銀行はまだ中国に融資すべきなのか?

2019-12-18 21:27:43 | 国連・国際機関・機構

世界銀行はまだ中国に融資すべきなのか?

米国vs中国、「もうかる学生」の卒業をめぐるバトル
 
2019.12.18(水)   JBpress  (The Economist 12月14日号
 
上海市

 

中国が深刻な貧困を脱して久しい。だが、中国に対する融資は世銀に大きな利益をもたらしている。

 カリブ海に浮かぶ島国のセントキッツ・ネービスは、ぜいたくな旅が楽しめる観光地であること

(メリル・ストリープやオプラ・ウィンフリーも訪れる)、市民権が高額であること

(1口15万ドルで売られている)、陸上短距離走の世界チャンピオンを輩出したこと

(キム・コリンズ氏)で知られる。

 

 しかし、数多くの資産(1人当たり国民所得が1万8000ドルを超えることもその1つ)にもかかわらず、

極度の貧困の撲滅を目標とする世界銀行から資金を借りる資格を持っている。

 非常に小さな島国の話だから、この指摘にコメントが集まることはほとんどない。

 中国はそうはいかない。

 中国の1人当たり国民所得はセントキッツ・ネービスの半分で、世銀から融資を受けられる

ポーランド、マレーシア、トルコその他15カ国のそれを下回る。

 だが、多くの米国人にしてみると、中国が世銀から資金を借りる資格を持つという事実は

異常なことで、スキャンダルですらある。

 ドナルド・トランプ大統領もその1人だ。

 

 12月6日には「どうして世界銀行が中国にカネを貸しているんだ?そんなことがあり得るのか?」

とツイートした。

 

 米国のライバルに対する期間5年の新しい融資枠組みを世銀が検討した後の発言だ。

 その世銀のデビッド・マルパス総裁も、米国財務省の高官を務めていた2017年には「米国政府の

保証を使って借り入れられた資金が中国への貸し出しに回されることは理にかなわない」と述べていた。

 

 スティーブン・ムニューシン財務長官も、12月5日に連邦議会で開かれた公聴会で、同様な感情の

こもった発言を聞かされた。

 ある民主党議員からは「(中国への)融資を止めるためにどんな手を打っているのか」と問われ、

ある共和党議員からは「我が国の納税者が中国の成長モデルに補助金を出すなんて、とんでもない

ことだと思える」との嘆きが漏れた。

 米連邦議会の議員たちは、少なくともこの問題については、中国側と同じくらい意見がまとまって

いた。

 

 米国もこの新しい枠組みには反対だった、とムニューシン氏は答えた。しかし、同氏がこれに

驚いていたはずはない。

 何しろ昨年まとまった合意で、米国は世銀が

1)比較的豊かな借り手への貸付金利を引き上げる、

(2)そのような借り手への融資回数を減らす、

(3)もっと多くの国に「卒業」(世銀の融資を受ける資格の停止)を促すことを条件に、世銀の

  増資に同意している。

 

 だが、世銀からの卒業はドイツの大学からの卒業に似ている。誰もが一様に短い年数で卒業して

いくわけではなく、なかなか卒業しないダワーシュトゥデンテン(「永遠の学生たち」の意)が

数多く残っているのだ。

 1人当たり国民所得が6975ドルを超えると、卒業に向けた「議論」が始まる。

 世銀はまた、その国が資本市場を利用できるか、金融機関の質は十分かといったことも吟味する。

 

 モロッコのシンクタンク、ニューサウス・ポリシー・センターの研究によれば、1973年以降に

卒業した17カ国のうち、5カ国は融資を受ける資格を再び手にしている。

 

 韓国は1995年に卒業したものの、その後のアジア金融危機で世銀の支援が必要になった。

 2016年までは追加融資を受けることができたが、同年の1人当たり国民所得は現在の中国のほぼ

3倍にのぼっていた。

 

 しかし、世銀は中国への融資案件をこれまでよりも入念に選ぶ方針でいる。

 中国への現時点での融資残高は約147億ドルで、今後5年間には、年年間10億~15億ドルの

融資実行を見込んでいる。

 2015~19年の平均を10~15%下回る金額だ。使途としては財政改革、民間企業、社会支出

(福祉関連の支出)、環境改善などの促進を想定している。

 世銀の融資が、中国をよりクリーンな成長に向かうよう促すことの一助になるなら、それは誰に

とっても――中国の地政学上のライバルにとっても――利益になるだろう。

 また世銀は、より貧しい国々が学ぶ機会となるパイロット・プロジェクトへの資金融通も

行いたいとしている。

 すでに、中国の灌漑事業を研究する資金をエチオピア政府当局に提供したり、中国の鉄道を

研究する資金をインド政府に支給したりしている。

 

 だが、そういう資金は貧しい国々で直接使う方が有意義ではないだろうか。

 世銀に理解を示す人々はこの疑問について、中国への融資はもうけが大きいと指摘している

(昨年の実績はざっと1億ドル)。

 中国への融資には世銀自体の借入金利よりも高い金利を課している。これが、ほかの国々に

暮らす貧しい人々の支援に使えるお金になる、というわけだ。

 理屈の上では、世銀のドナー国(援助資金を拠出する国)の政府の方が同じことを安価かつ

シンプルに行える。

 世銀への拠出額と同額の国債を低利で発行し、そこで調達した資金で高利回りの新興国国債を

購入し、その差額の利益を低所得国に寄付すればいい。

 

 しかし、中国への融資に批判的な人々が提案しているのは、そういうことではない。

 利益が得られることから、世銀は中国への融資継続を切望している。それより説明が難しいのは、

中国側も世銀からの借り入れを続けたがっているのはなぜか、ということだ。

 世銀からの融資は、金額が小さい(国内総生産=GDP=の0.01%相当)うえに、手続きが煩雑に

なることもある。

 中国は、世銀の専門性を評価しているのかもしれない。だが、もしそうだとしても、借り入れなど

せず助言だけ買ってしまえば済む話だ。

 

 中国がまさにそうしたことをした事例はある。

 世銀による「ビジネスのしやすさ」の評価でランキングを上げる方法について、中国はアドバイスを

有償で得ていた。しかし中国は、借り入れを行う方が世銀に直接関与させられると思っているの

かもしれない。

 残念な結果になった場合、アドバイスだけで報酬を得るコンサルタントは常に、しっかりした

処方箋を書いたのに実行の仕方が悪かったと言えるが、貸し手であれば、困難の解決に対する

利害が大きくなるからだ。

 

 世銀や国際通貨基金(IMF)のような金融機関は、改革プログラムについて借り手が

「オーナーシップ(自分のことだという意識)」を感じることの重要性を強調している。

 中国も融資を請う先の金融機関について同じように感じているのかもしれない。



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