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「無添加」「不使用」に安易に飛びついてはいけない. 山崎製パンが実証、「強調表示」を巡る知られざる真実とは

2019-06-23 09:42:39 | 食べ物・食の安全

 「無添加」「不使用」に安易に飛びついてはいけない

山崎製パンが実証、「強調表示」を巡る知られざる真実とは

2019.06.21(Fri)   佐々 義子

 「イーストフード、乳化剤不使用」を強調表示するパンも見られるが、それは消費者への適切な情報提供といえるだろうか。(写真はイメージ)


 

 2019年3月26日、山崎製パンは

『イーストフード、乳化剤不使用』等の強調表示に関する当社の見解」を発表し、不使用表示を

行っている食パンメーカーに対し、このような強調表示を即刻やめるように呼びかけた。

 


 本見解は、山崎製パンと他社のパンの分析結果だけでなく、表示の消費者に対する影響力の大きさ、

表示がビジネスの手法のひとつになっていること、その背景にある消費者の認識など、多くの重要な

課題を投げかけている。

 


強調表示は、安全に関わらない任意の表示

 

 食品の表示には保存方法やアレルギーなどの安全に関わる情報と、原料原産地、栄養成分、

遺伝子組換えかどうかなどの消費者の商品選択に資する情報を提供する表示がある。

また、表示には「義務表示」と「任意表示」があり、食品表示法に従って表示されている。

 


 極端な言い方をすれば、消費者の健康被害に直結するのは、アレルギー、それに食中毒に関わる

表示だけともいえる。

 


 これに対して強調表示は、不足しがちな栄養成分について、たとえば「高タンパク質」のように

示して摂取を促したり、摂りすぎない方がいい栄養成分について、たとえば「塩分控えめ」のように

含有量の低減を示したりすることを目的に実施される。強調表示は安全に関わるものではなく、

任意に行われている。

 

 

イーストフード・乳化剤とも国に安全性が認められた食品添加物

 

「イーストフード、乳化剤不使用」という強調表示における「イーストフード」と「乳化剤」は、

それぞれどんな機能を担っているのか。

 


 まず、乳化剤は、水と油をうまく混ぜ合わせる働きをするものであり、安全で有効な食品添加物

として厚生労働大臣に認められている。

たとえば、マヨネーズの材料の酢とサラダ油は、正に“水と油”で混ざりあわないもの同士だが、

卵が乳化剤として働き、なめらかなマヨネーズとなる。このとき、私たちは「乳化」を実感する。

このように乳化剤は「余計なもの」ではない。パン製造においては、その保水性を高め、長い間、

パンを柔らかく保つ役割を乳化剤は担っている。

 

では次に、イーストフードはなぜ使うのか。パンを膨らませるのは、イースト菌が糖分を分解して

発生させる炭酸ガスによる。イーストフードは、イースト菌の生育に必要な栄養素である窒素、

リン、カリウムのうち、パン生地に十分含まれていない窒素源となるものである。

同時に、水質改善やpH調整作用により、パンの骨格をつくるグルテンの形成を進め、パンの風味や香り、

食感、ボリューム感、ソフトさなどを向上させ、安定して品質のよいパンをつくる働きをする。

これも厚生労働大臣に認められた食品添加物である。


 イーストフードと乳化剤は、消費者に安全でおいしいパンを届けるために必要であると認められた

食品添加物であり、これらが添加された食品では、商品選択に資する情報としてその使用が

表示されている。

一方、これらが使われていないことを強調する表示が「イーストフード、乳化剤不使用」である。

 

消費者の食品添加物への不安視、減少傾向も

 日本の消費者には「自然であること」や「天然であること」に価値を見出す人が多く、

「無添加、無農薬、非組換え」と表示された食品を好む傾向がある。近年の傾向はどうだろう。


 2004年度の食品安全委員会「食品安全モニター・アンケート調査」の結果によると、食品添加物

に対して「とても不安を感じる」「ある程度不安を感じる」と回答した人の合計は76.4%で、

リスクを感じるものの順位としては5位だった。その後2009年までの間、順位は5位から7位にあり、

不安を感じる人の率も徐々に減っていき、最新の2017年度は39.6%、順位は12位となっている。


 また、2017年11月、日本食品添加物協会が公表した「食品添加物認識・意識消費者基本調査

では、「“○○○無添加”・“○○○不使用”が表示された食品は、食品添加物○○○を使用した食品より

安全であると思いますか?」の問いに、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人は約50%という

結果であった。

 

「“○○○無添加”・“○○○不使用”が表示された食品は、食品添加物○○○を使用した食品より安全であると思いますか?」への回答。男女15〜74歳の食品購入経験者計1600人を対象に、2017年10月31日〜11月2日に実施したウェブアンケート調査による(次のグラフも同様)。(参考:日本食品添加物協会「食品添加物認識・意識消費者基本調査」より作成)

 

 さらに同調査では、食品添加物は国に認められていることと、食品添加物不使用と表示した食品には

同一の成分や同じ機能を持つ成分が含まれていることをアンケート回答者に伝えた後、

「優良誤認を招くような無添加や不使用表示をもっと規制すべきと思いますか?」と問うたところ、

「そう思う」「ややそう思う」と答えた人は60%だった。

 

「優良誤認を招くような無添加や不使用表示をもっと規制すべきと思いますか?」への回答。(参考:日本食品添加物協会「食品添加物認識・意識消費者基本調査」より作成)

 

 

 しかし、食品添加物は国が許可していることを知っている人は48%で、

「“○○○無添加”・”○○○不使用”が表示された商品」を「とても良く買っている」「買うことがある」

人は合わせて59%もいる。


 無添加をセールスポイントとする企業の戦略は、ある程度、功を奏しているのかもしれない。

しかし、食品添加物というだけで不安視する傾向は減ってきており、無添加の表示によるミスリードを

正そうとする動きも出てきている。

実際に、5月30日、消費者庁で行われた食品添加物表示制度に関する検討会で意見を述べた5つの

消費者団体は、「無添加表示」に否定的であった。 

 

「代替物質の使用」を指摘する山崎製パン

 このような状況において、山崎製パンは「『イーストフード、乳化剤不使用』等の強調表示に

関する当社の見解」として、以下の2点を要点に挙げている。

 ひとつは、代替物質の使用という実態があることだ。

 品質のよい食パンづくりに欠かせないイーストフードや乳化剤を使わない代わりに、表示義務の

ある食品添加物以外で、同じ働きをする物質が使用されている実態があるという。

 

 たとえば、乳化剤(モノグリセライド、ジグリセライド)を使用せずに柔らかいパンをつくる

方法のひとつとして、パンの原料である油脂に脂質分解酵素(リパーゼ)を作用させて、

モノグリセライドやジグリセライドを生成させる方法がある。加えられたリパーゼなどの酵素は

(加熱して活性を失わせれば)食品添加物としての表示義務はない。最終製品にモノグリセライドや

ジグリセライドは検出されているが、「乳化剤不使用」と表示できるのだ。


 また、イーストフードを使用しない場合は、原料である小麦に含まれるタンパク質やペプチドに、

分解酵素(プロテアーゼ)を作用させることでできたアミノ酸を窒素源としている。

さらに、水の硬度調整やpH調整のため、炭酸カルシウムマグネシウムを含む天然鉱物のドロマイト、

また乳由来のタンパク質やペプチドが用いられている。


 このように、イーストフードや乳化剤と同等の成分は最終製品に含まれているのに、

食品添加物として加えていないからといって、「不使用表示」をするのは消費者への適切な

情報提供といえるだろうか。


 もうひとつは、消費者の誤認を拡げるおそれへの懸念だ。

 おいしいパンを消費に届けるために欠かせないイーストフードや乳化剤は、安全性・有効性が

国によって認められている。山崎製パンは、不使用表示を通して、イーストフード、乳化剤を

はじめとする食品添加物への誤解の広まりを抑えることも他社に呼びかけている。

 

事業者の毅然たる見解に意義

 山崎製パンはこの見解を「『イーストフード、乳化剤不使用』等の強調表示について」として

ウェブサイトのトップページでも示している。事業者が毅然として正しい科学を伝え、消費者と

ともに科学技術と健全につきあっていく方向性を示したことの意義は極めて深い。


 なお、日本食品添加物協会も、2018年1月に「『無添加』、『不使用』表示に対する見解」を

公表し、「無添加」「不使用」表示の自粛を要請しているので、参考にしていただきたい。

 

佐々 義子(さっさ・よしこ)のプロフィール NPO法人 くらしとバイオプラザ21 常務理事。博士(生物科学)。NPOでは、バイオテクノロジーと人々の暮らしを切り口にしたサイエンスコミュニケーションの実践と研究を行っている。ことに「バイオ」に特化したサイエンスカフェ「バイオカフェ」を企画、実施してきた。神奈川工科大学客員教授。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56756

 
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