防衛白書 「新たな脅威」へ対処力高めよ
増大する北朝鮮の脅威に備えるには、それに応じた防衛装備を導入し、対処能力を着実に高めることが大切である。
2017年版防衛白書が公表された。北朝鮮の核・ミサイル開発について「新たな段階の脅威」と位置づけた。大陸間弾道ミサイル
(ICBM)発射などを踏まえて、評価を引き上げた。
北朝鮮の弾道ミサイル発射は、今年に入って既に10回を超えた。3月には4発を同時発射し、うち3発を日本の排他的経済水域
(EEZ)内に落下させている。
多数のミサイルを同時発射し、相手国の防御網を破る「飽和攻撃」に必要な「正確性及び運用能力の向上」に、白書は初めて言及
し、警鐘を鳴らした。
通常より高く打ち上げる「ロフテッド軌道」での発射を繰り返すことで、「長射程化」への懸念も示している。北朝鮮の技術力の急速な
進展は疑う余地がない。
北朝鮮が再三、日本攻撃を公言する中、防衛省は、迎撃ミサイルSM3搭載のイージス艦の8隻体制の実現と、地上配備型誘導弾
PAC3などの改良を急ぐべきだ。陸上配備型イージスシステムの新規導入も決断する必要がある。
敵基地攻撃能力の保有も前向きに検討する時期ではないか。
北朝鮮の核開発については、昨年9月の5回目の核実験などで、「計画が相当に進み、小型化・弾頭化の実現に至っている可能性
が考えられる」としている。
米紙も、北朝鮮が核弾頭を小型化し、ICBMへの搭載が可能になったとする米国防情報局の分析を伝えた。事実なら、日米両国に
とって深刻な事態と言えよう。
中国がアジアの安全保障環境に与える影響について、白書は「強く懸念される」と前年より踏み込んだ。東・南シナ海での「力を背景
とした現状変更」の試みなど、「高圧的とも言える対応」を継続させているとも強調した。
警戒すべきは、中国軍艦艇や航空機の活動範囲の拡大である。
東シナ海に加え、日本海での中国軍の活動が「活発化する可能性」を指摘した。「外洋への展開能力の向上」が狙いとされる。
自衛隊は、海上保安庁とより緊密に連携し、警戒・監視活動に万全を期すことが求められる。
ロシア軍を巡って白書は、昨年11月の択捉、国後島への地対艦ミサイル配備を問題視している。
日露両政府の北方領土交渉が続く中で、一方的な軍備増強は看過できない。強く抗議し、自制を粘り強く促すことが欠かせない。
2017年版防衛白書の要旨
<安全保障環境>
▽国際社会の動向 わが国を取り巻く安保環境は、さまざまな課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきており、一層厳しさを増している。
<北朝鮮>
▽全般情勢 軍事を重視し、依存する状況は、今後も継続すると考えられる。核・弾道ミサイルの開発や運用能力の向上は新たな段階の脅威となっている。
▽大量破壊兵器・弾道ミサイル 体制を維持する上での不可欠な抑止力として核兵器開発を推進している。既に5回の核実験を行ったこと
などを踏まえれば、核兵器計画が相当に進んでいる。小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる。17年7月4日に発射された
弾道ミサイルは飛行高度や距離などを踏まえれば、最大射程が少なくとも5500キロを超えるとみられ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級だと
考えられる。北朝鮮は弾頭の大気圏再突入技術を実証したと発表しており、長射程の弾道ミサイルの実用化を目指していると考えられる。
弾道ミサイル開発に高い優先度を与えている。16年は20発以上という過去に例を見ない頻度で発射した。発射台付き車両や潜水艦発射弾
道ミサイル(SLBM)の発射を繰り返している。固体燃料化を進めている可能性がある。発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性
を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っている。「ロフテッド軌道」で発射された場合、迎撃がより困難になる。
▽内政 幹部の頻繁な処刑や降格・解任に伴う萎縮効果により、十分な外交的勘案がなされないまま、北朝鮮が軍事的挑発行動に走る
可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる。
<中国>
▽全般情勢 既存の国際秩序とは相いれない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させ
ており、その中には不測の事態を招きかねない危険な行為もみられる。
▽海洋における活動 航空自衛隊による中国機に対する緊急発進(スクランブル)の回数も急激な増加傾向にあり、16年度には851回と
過去最多を更新した。16年12月には、空母「遼寧」の西太平洋進出が初めて確認され、海上戦力の能力向上や、より遠方への戦力投射能
力の向上を示すものとして注目される。海上戦力の日本海での活動も、今後活発化する可能性がある。海軍艦艇は東シナ海でも継続的かつ
活発に活動している。近年、活動海域は南方向に拡大する傾向にある。
▽国防費 1989年度から毎年速いペースで増加している。名目上の規模は07年度から10年間で約3倍となった。
<ロシア>
▽全般情勢 プーチン大統領がいかに権力基盤を維持しつつ、欧米などとの外交的孤立状態や経済的状況に対処し、経済構造改革や
軍事力の近代化、国際的影響力拡大に向けた取り組みなどを推進していくか注目されている。
▽北方領土におけるロシア軍 北方領土での軍事施設地区の整備を進め、地対艦ミサイル配備を発表しており、事実上の占拠の下で、
活動をより活発化させている。
<日米同盟>
▽日米同盟の強化 わが国の安全の確保にとってこれまで以上に重要だ。日米安保条約に基づくわが国への米軍の駐留は、単にわが国の
利益につながるだけでなく、この地域に利益を有する米国自身の利益につながる。
▽普天間飛行場の移設・返還 普天間飛行場の固定化は絶対に避けなければならない。政府としては、一日も早い移設・返還を実現し、
沖縄の負担を早期に軽減していくよう努力する。
▽米軍オスプレイの事故 16年12月13日の事故は沖縄や全国の関係自治体、住民に大きな不安を与える結果となった。米軍機の飛行に
際しては、安全の確保が大前提と考えており、米側に対し、引き続き安全面に最大限配慮するとともに、地域住民に与える影響を最小限に
とどめるよう求めていく。
<安保関連法>
▽南スーダン国連平和維持活動(PKO) 政府として現地情勢や訓練の状況を踏まえて総合的に検討した結果、派遣施設隊第11次要員
から駆け付け警護の任務を付与するとともに、宿営地の共同防護を行わせることとした。16年11月15日、国家安全保障会議(NSC)の
審議・決定を経て「南スーダン国際平和協力業務実施計画」の変更を閣議決定した。自衛隊が担当する首都ジュバでの施設活動には、
一定の区切りを付けることができた。17年5月末で、自衛隊の施設部隊の活動を終了した。
<領土・領海・領空を守り抜くための取り組み>
▽緊急発進 16年度の空自機による緊急発進回数は1168回で、前年度と比べて295回増加し、過去最多となった。
▽弾道ミサイル防衛 米国や韓国とも緊密に連携しつつ、いかなる事態にも対応できるよう、情報収集や警戒監視などに万全を期している。
16年11月23日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が発効し、日米韓のさらなる関係強化が期待される。
<防衛力を支える人的基盤>
▽女性の活躍推進 17年4月「女性自衛官活躍推進イニシアチブ」を策定した。陸上自衛隊の普通科中隊や戦車中隊など一部の部隊では
女性自衛官の配置を制限していたが、全自衛隊で配置制限を実質的に撤廃することとした。