「健康食品では病気は治らない、好転反応もない」消費者庁が断言!
2017年10月6日 WEDGE Infinity 松永和紀 (科学ジャーナリスト)
消費者庁が、健康食品に関する新しいパンフレットとQ&Aを公表しました。
消費者庁といえば、機能性表示食品の届出を受け付けたり、特定保健用食品(トクホ)の審査事務を担当したり、ともすると健康食品
を推進する役所と見られがちですが、今回の中身はまったく異なります。
とてもわかりやすく、単刀直入に健康食品の問題点を指摘しています。これを読んで青ざめている健康食品業者も多いのでは。紹介します。
5つの問題点を指摘
まずはパンフレット。A3に両面印刷して折って使うようになっています。健康食品の5つの問題点として挙げられているのは
次の通り(図1)。
2 天然・自然由来のものが原料なら安全?
3 専門家の研究結果と同じ効果がある?
4 体験談は信用できる?
5 一時的な体調不良は効果の証拠?
図1 健康食品 5つの問題
答えは全部「ノー」。それぞれについて、解説が書かれています。健康食品には病気を治す効果、防ぐ効果がないこと、体験談は
利用者の感想に過ぎず、宣伝のために都合の良い内容のみを編集しているケースもあること、健康食品のセールスでしばしば
用いられる“好転反応”、つまり、健康食品をとることによって体調が悪くなり(毒素を排出している、などと説明されます)、その後に
良くなるという反応など、実際には起こりえないことが説明されています。
ここで言う健康食品の中には、トクホや機能性表示食品等も含まれています。
このところ、トクホや機能性表示食品を食べて健康被害が出た、という事例を国民生活センターや東京都などが公表しています。
こうした事例も踏まえてのパンフレットの内容なのでしょう。
健康被害も出ている
健康食品による健康被害の内容も、詳しく説明されています。「健康食品は食品なので過剰摂取しても安全」という考えは
間違いです。粗悪製品、過剰摂取、アレルギー体質の人の利用、医薬品との相互作用等、さまざまな被害があると考えられており、
東京都の調査では、健康食品によって身体の不調を感じた人は利用者の4%程度。下痢や腹痛、発赤や発疹、身体のかゆみ
などのアレルギーと思われる症状が多いと報告されています。しかし、消費者の自己判断で利用され、健康被害の正確な実態は
わかっていません。
医薬品は、病気の人を対象にして有効性や安全性が検討されて医師や薬剤師の管理の下に用いられ、
もし副作用等の健康被害が出た時には救済する仕組み(医薬品副作用被害救済制度)もあります。
一方、健康食品にはそのような制度がありません。
私の取材でも、健康被害は結構出ており、泣き寝入りしている人も少なくない、と思われます。
飲み始めの体重減少は、健康を害している!?
Q&Aも、計20の質問と回答で、健康食品を解説しています。最初のQが「栄養の偏りや運動不足があるので、健康食品でカバー
したいです」。アンサーは、『健康維持の基本は「栄養バランスのとれた食事、適度な運動、十分な休養」です。この3つに代わる健康食
品はありません』
「簡単に痩せるために健康食品を利用したいです」という問いに対しては、「食事のコントロールも運動もせず、健康食品だけで
安全に、楽に痩せることはありません」という回答。解説の中では、次のように説明されています。
「下痢を起こして栄養不足により筋肉も減ること」、「利尿作用で水分を減らすこと」などによって、飲み始めに体重を減少させる
製品もあります。これは健康を害しているだけで、長い目で見るとダイエットにはなりません。
いやあ、身もふたもない回答が書かれているのです。でも、科学的にはまさにそのとおり。そのほか、多くの人が抱く疑問の数々が、
平易に回答・説明されています。
国立健康・栄養研究所のデータベースがお勧め
情報源としてとくに紹介されているのが、国立健康・栄養研究所のデータベース「健康食品」の安全性・有効性情報です。
このサイト、ご存知ですか。気になる健康食品について、成分名で検索できます。たとえば水素水なら、ヒトに対する安全性、
有効性の両方で「信頼できる十分なデータが見当たらない」が結論。ウコンに含まれるクルクミンであれば、『俗に、「抗酸化作用が
ある」「肝臓によい」「発がんを抑制する」などと言われているが、ヒトでの有効性・安全性については信頼できるデータは見当たらない』
と一刀両断。
このデータベースは、研究所の科学者が論文等を調べて、科学的な根拠があるかないか、信頼性が高いかどうかをていねいに
検討して書かれています。事業者の宣伝文句などは一切、考慮対象ではないので、信頼できます。
「この成分、飲んでみたいな」と思ったら、このデータベースでまずは調べてみるのがお勧めです。
消費者庁は、健康食品の規制に関しては一時、「消費者庁という名前であっても、もう消費者の味方ではないのだな」と思わされ
ました。でも、このところ、景品表示法に基づく規制強化を図っており、消費者への注意喚起も熱心です。
健康食品は、年間に2兆円を売り上げるという一大産業になっていますが、その陰で泣いている人が少なくありません。
健康被害だけでなく、経済的な被害もあります。また、がん患者などで、健康食品の方が食品だから、医薬品、抗がん剤より
マイルドでよい、などと信じ込み、標準的な治療から遠ざかってしまう問題も軽視できません。
ぜひ、パンフレットやQ&Aをチェックしてみてください。
【参考文献】
・国民生活センター・健康食品の摂取により薬物性肝障害を発症することがあります-「医師からの事故情報受付窓口」から-
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20170803_1.html
・東京都くらしWEB・テーマ別分析平成28年度「危害」
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/sodan/tokei/theme.html
健康食品に関する新しいパンフレット
健康食品に関するQ&A