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【WSJオピニオン】ナチズムの恐怖がよみがえる2017年 数で圧倒する群衆はイデオロギーに関係なく危険

2017-08-27 14:15:29 | USA

【オピニオン】ナチズムの恐怖がよみがえる2017年

数で圧倒する群衆はイデオロギーに関係なく危険

――筆者のホルマン・ジェンキンス・ジュニアはWSJ論説委員で「ビジネスワールド」欄担当コラムニスト

ボストンで開かれた「フリースピーチ集会」に集う大勢の群衆(8月19日)

 

 あれはちょっと困惑する事態だった。反ファシストのリベラル派が週末の間じゅう、ナチズムの脅威に反対する抗議集会を全米

各地で開いた。だが結局、その脅威は存在しないか、または弱々しいものだった。左派は現代版の「プラハの春」やワルシャワ

蜂起を思い描いたが、ふたを開けてみると、数を頼みとする群衆が少数の負け犬をやじり倒しただけだった。

われわれの大半が記憶する限り、嫌悪すべきではあるが、米国の壮大な歴史ショーのごく一部でしかない負け犬である。


 ボストンで19日に開かれた「フリースピーチ(言論の自由)」集会で、どのような演説が行われたのかは分からない。

地元各紙によると、大学の言論統制に抗議する自由至上主義者が呼びかけた集会だったという。だが、右派や左派の誰にでも

演壇を開放していた。どの演説者の声も抗議の嵐にかき消され、集会は早々に終わった。ナチス主義者や白人至上主義者が

参加していたとしても、そうした主義を否定する米国人が圧倒的に数で上回ることを実感したはずだ。 


 もう一点明確にしておこう。われわれ市民の自由は、不人気な意見を保護しなければ意味がないということだ。保護すべきは

この群衆ではない。群衆がターゲットとする側だ。


 念のために言うと、20世紀の有害なイデオロギーの中でも、誰をどんな理由で殺害するべきかというナチスの考え方は、

誰をどんな理由で殺害するべきかという毛沢東主義者やスターリン主義者の考え方よりも、少しばかり憎むべきで恐ろしいと

筆者は思う。ただ、米国でいま起きている出来事に当てはまるかというと、その根拠は弱い。


 それより関連性が高いのは、多数で構成される群衆は少数の群衆よりも危険で、反社会的なサイコパスを生みやすいという原則だ。

抗議すべきナチス主義者が明らかに不足する中、ボストンのデモ参加者は石や尿入りボトルを警察に投げつけた。

白人至上主義者が足りなければ、その定義を拡大するのが常道だ。最低賃金15ドルに反対するだけで人種差別主義者となり、

気候変動の危機に懐疑的な向きも人種差別主義者となる。

南軍の古い銅像を撤去する意味に疑問を呈すれば、もう人種差別主義者だ。


 毒舌をふるう左派メンバーが口を開くたび、「公民権」が危険な坂道を転げ落ちていくのが明白となる。


 見逃してはならないのは動機に関する教訓だ。多数派の暴力は、たとえその標的が共感できない人々だとしても、顕著なリスクと

なる。


 ここでバージニア州シャーロッツビルに立ち返ろう。どの分野のプロフェッショナルも、第一報が信用できないことを知っている。

もちろん、一部のニュースサイトは当てにならない。彼らの仕事は自分たちの読者を喜ばせるために、浮かんでは消えるニュース

関連のシンボルをうまく操作することだ。いわばバンドワゴン(パレードなどの先頭を行く楽隊車)が彼らの職業だ。


 念のために言うと、ドナルド・トランプ米大統領の記者会見はオンラインで視聴できる。完全版は23分かかる。トランプ氏は

ナチス主義者と人種差別主義者を非難するのを忘れなかった。


 シャーロッツビルの出来事の全体像が明らかになりつつある。トランプ氏は自分が不当な扱いを受けたと言う。なぜそうなったのか。

それが政治だからだ。敵にはあなたを大目に見る義務はない。それなら敵を出し抜くことだ。バラク・オバマ前大統領ならば、

注意深く言葉を選び、こんなふうに話し始めるだろう。すべての事実が分かったわけではないが、米国人が意見を同じくできる点は、

ナチスの信念と人種的憎悪は米国の理想を侮辱しているということだ――。


 たとえオバマ前政権の司法省の下でも、法的に認められた集会が大勢の群衆に包囲され、警察が秩序を維持できなくなる

可能性はあっただろう。ワシントン・ポスト紙は、現代の若い白人ナショナリストの興味深い社会的特徴を論じるとともに、

彼らのワゴン車にボトルなどが投げつけられ、攻撃される様子も伝えた。


 シャーロッツビルの地元紙デーリープログレスによると、12日のデモ参加者に武装民兵が2人混じっていた。1人は護憲グループ、

もう1人は左翼グループのメンバーだった。手にした銃は発射されておらず、2人は衝突をやめさせようとしたという。

どちらもナチ信奉者ではなく、州知事が「違法な集会だ」と宣言した後、即座に立ち去った。


 ニューヨーク・タイムズ紙のシェリル・ゲイ・ストルバーグ記者はツイートでこう伝えた。「極左はオルトライトと同じくらい憎悪に

満ちているようだ。こん棒を振り回す『反ファシズム主義者』が、公園から連れ出される白人ナショナリストたちを殴るのを私は見た」


 これに関し米連邦捜査局(FBI)は、(群衆に車で突っ込み1人を殺害したとされる)ジェームズ・アレックス・フィールズ・ジュニア

容疑者が車に乗り込む前の目撃情報や動画の提供を呼びかけている。


 トランプ氏とオバマ氏のイデオロギー的な傾向は異なるが、つかの間の政治的な怒りに振り回されたい米大統領はいないだろう。

同時にわれわれが半ば自信を持って想定するのは、いつの時代の大統領も、国を預かる者として真実を解き明かし、

それによってさまざまな出来事への人々の認識を埋めるのをいとわないだろうことだ。


 今のところ多くの評価は、トランプ氏が語ったとされる誤った内容と結びついている。伝えられているシャーロッツビルの出来事は、

慎重に証拠を調べた結果、その内容がそのまま残るのかどうかは分からない。道徳的勇気や何らかの謝罪を期待してはいけない。

しょせん群衆は群衆だ。あらゆる非難されるべき考え方を掲げたナチスでさえ、無法状態の群衆の前ではおじけづくだろう。

上場企業の最高経営責任者(CEO)は勇敢であることを職務としていないが、それでも自然の秩序は保たれている。

ネオナチと白人至上主義者は今後も米国で困惑を引き起こす目障りな存在であり続けるだろう。

しかし彼らはわれわれ市民の自由にとって、いま最も切迫した脅威ではない。