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日韓関係よりも気になる急速な「ウォン安」。1か月で5%以上下落 人民元と同調安に「なぜ?」の声

2019-08-15 09:29:57 | 韓国経済

 日韓関係よりも気になる急速な「ウォン安」

1か月で5%以上下落 人民元と同調安に「なぜ?」の声
 
2019.8.14(水) JBpress 玉置 直司
 
韓国では企業の労働組合も反日姿勢を強めている。写真は日本製品のボイコットを呼びかけるデモに参加した韓国企業の労働組合員(AP/アフロ)

 

 2019年7月1日に日本政府が韓国向けの輸出規制強化策を発表して以来、韓国では日韓関係をめぐる

ニュースがあふれ返った。

 経済ニュースでも、日本政府の措置が韓国経済や韓国企業のどれほどの打撃を与えるのかを重点的に

報じてきた。

 その一方で、産業界では「もっと気になるのが為替の変動だ。ウォン安ペースが速すぎる」との

声が出ている。


 米中通商摩擦の激化やFRB(米連邦準備理事会)による利下げなどで主要国の通貨や株価はかなりの

幅で変動した。それにしても、ウォンの変動幅も大きかった。

 韓国銀行(中央銀行)のデータによると、対ドルレートは、5月1日には1ドル=1163ウォンだった。

それが、1か月後の6月2日、1191ウォン、7月1日1156ウォンと一定の幅で収まっていた。

 だが、8月1日に1181ウォンになり、8月6日には1211ウォンとなり、さらに13日には1223ウォンと

なった。


7月後半から急ピッチでウォン安

 1か月間で5%も「ウォン安」になってしまった。ここ数週間、円高が進んだため、ウォンの対円

レートもかなり変動した。


 韓国では、100円が何ウォンかで表示する。

 5月1日には100円=1044ウォンだったが、7月1日1066ウォン、8月1日1086ウォン。

2日1106ウォン、6日1146ウォン、13日1160ウォンとなった。

 円とウォンのレートはだいたい1対10だったが、1対11を超えてしまった。

 日本の観光客にとってはありがたい話だが、韓国からの観光客にとっては逆風だ。

 韓国の観光業界関係者の間では、「夏の旅行に日本を避ける傾向がかなり出たのは確かだ。不買運動の

せいだという見方が多いし、もちろん影響はかなりあったと見ている。だが、ウォン安円高の影響も

無視できないのではないか」という分析もある。


ウォン安は経済にプラスだったが・・・

 ウォン安はこれまで一般的には韓国経済全体にとっては「プラス」との見方が強かった。

 輸出立国、それも対米輸出依存度が高かった頃は、ウォン安によって韓国製品の輸出競争力が高まる

ことはプラスだったのだ。

 ところが、今回のウォン安には不安の声の方が多い。まずは、ペースが速いことだ。

 韓国メディアによると、6月末からの1か月間で対ドルレートが下がったペースとしては、

アルゼンチン・ペソと南アフリカ・ランドにつぐ3番目。アルゼンチンや南アの経済状況を考えれば、

不安になるのも当然だ。


 さらにいえば、ウォン安になっても以前のように輸出が伸びないのだ。

 韓国の輸出金額は、2018年12月から8か月連続で前年同月比でマイナスが続いている。

 造船、自動車、鉄鋼、石油化学・・・以前は韓国の看板輸出製品が何枚もあった。

だが、何年か前から、半導体が韓国輸出品目の一枚看板になってしまった。

 2018年には全輸出金額6000億ドルのうち、半導体が1000億ドルを占めた。


看板の半導体輸出が不振では・・・

 半導体市況が調整期に入ったことで、この輸出増に歯止めがかかっているのだ。

 造船は長引く不況から脱却できず、自動車産業にはかつての勢いがない。米中通商摩擦の激化で、

ただでさえ輸出環境が良くないのだ。

 韓国の関税庁は8月12日、8月1~10日までの輸出速報値をまとめた。輸出額は115億ドルで前年同期比

で22.1%減だった。特に半導体輸出はマイナスが止まらず、同34.2%減となってしまった。


 また、相手国別でも、中国向けが同28.3%、日本向けが同32.3%減となった。わずか10日間の

速報値だが、ウォン安でも輸出減が止まらないのだ。

 輸出減に加えて、設備投資や建設投資も不振で、韓国経済全体の成長率が2017年の3.2%、

2018年の2.7%から2019年には1%台に下落するのではないかとの見方も出ている。


輸出と成長率が鈍化する中でのウォン安

 輸出や成長率が低下する中でウォン安が進むことに産業界の一部では懸念の声が出ている。

「経済のファンダメンタルズからみて、外国資金の流出がさらに一気に進むなどとは考えにくい。

だが、株価もじわじわと下がっており、経済の先行きに明るい展望が見えない」との声は少なくない。


 ウォン安が進む中で最近、メディアの関心を集めているのが、ウォンと人民元との連動性だ。

 対ドルレートで、人民元の動きとウォンの動きが連動する傾向がここ数年出ていたが、最近、さらに

強まっている。


人民元とウォンとの連動

 最近のウォン安も人民元の動きと歩調を合わせている。韓国紙デスクは次のように話す。

「人民元とウォンが歩調を合わせたような動きをしていることが韓国経済に中長期にどういう影響が

あるのか、まだはっきりとは言えない」

「韓国の全輸出額に占める中国向け輸出額の比率が25%を超えるなど中国依存度が高まっている

ことがその原因だろう。ウォンと人民元が同じような動きをするので、短期的には対中輸出にも

プラスにはならない」


 米中通商摩擦の出口が見えない中で、ウォンと人民元の連動性が高まっていることは、

今後の為替レートの行方を考える際に、不安要素でもある。

 景気後退局面でじわじわと進むウォン安。韓国の産業界は、米中通商摩擦、日韓対立とともに、

重大な関心を寄せている。

 

玉置 直司のプロフィール

日本経済新聞記者として長年、企業取材を続けた。ヒューストン支局勤務を経て、ソウル支局長も歴任。主な著書に『韓国はなぜ改革できたのか』『インテルとともに―ゴードン・ムーア 私の履歴書』(取材・構成)、『韓国財閥はどこへ行く』など。2011年8月に退社。現在は、韓国在住。



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