実際に、中国人民解放軍は、中国本土内から発射する多種多様の地上発射型対艦ミサイル(地対艦ミサイル)や、

敵の攻撃を受けることのない中国本土上空の航空機から発射する対艦ミサイル(空対艦ミサイル)、

それにやはり敵の攻撃を受けることのない中国本土沿海域の軍艦から発射する対艦ミサイル(艦対艦ミサイル)を

ずらりと取り揃えている。そのため、第一列島線を超えて中国沿岸に接近を企てる敵艦艇は、多数の対艦ミサイルによる

集中攻撃を被る恐れが極めて高い状況になっている。そして、対艦ミサイルとともに、接近してくる航空機を

撃破するための各種防空ミサイルの配備も伸展している。

 

アメリカ側にも必要となった「接近阻止戦略」

 このような中国軍の「積極防衛戦略」に立脚した接近阻止態勢に対して、アメリカ海軍(そしてその同盟軍)

としては、正面切って空母艦隊をはじめとする艦艇や航空機を突っ込ませるのは自殺行為に近い。

そこで、アメリカ軍やシンクタンクの戦略家の間で、別の方法が真剣に検討され始めているのだ。


 それは、こちらから中国沿海に接近して攻撃するというアメリカの伝統的な「攻撃による防御」戦略ではなく、

中国海軍が設定した第一列島線上で中国海洋戦力の接近を待ち構え、中国軍艦艇や航空機の第一列島線への接近を

阻止する方法だ。いわば、中国の戦略を真逆にした「接近阻止戦略」を実施しようというアイデアである。


アメリカ軍が評価する日本の地対艦ミサイル能力

 では、アメリカ軍は第一列島線でどのような戦力で待ち受けるのか。

 まずは、第一列島線周辺海域に様々な軍艦を展開させ、第一列島線上にいくつかの航空拠点を確保して

航空戦力を配備し、第一列島線周辺海域に空母艦隊を展開させて航空打撃力を準備する、といった

伝統的海軍戦略にのっとった方策が考えられる。

 

一方、中国の戦略を真逆にした「接近阻止戦略」では、第一列島線上に地対艦ミサイル部隊を展開させて、

接近してくる中国艦艇を地上部隊が撃破するというオプションが加わることになる。


 ところが、このような「敵をじっと待ち受ける」受動的な、すなわち専守防衛的な戦略はアメリカ軍は伝統的に

取ってこなかった。そのため、専守防衛的な兵器である地対艦ミサイルシステムをアメリカ軍は保有していない。


 地対艦ミサイルを投入しての「接近阻止戦略」が必要であると考え始めたアメリカ海軍や海兵隊それに

陸軍の戦略家たちは、地対艦ミサイルの威力を目に見える形でペンタゴンやホワイトハウスに提示する必要に

迫られている。そこで登場したのが、陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊である。かねてより地対艦ミサイルに特化した

部隊を運用している世界でも稀な陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊に、日本が独自に開発し製造している高性能12式

地対艦ミサイルシステムをRIMPAC-2018に持ち込んでもらい、大型艦を撃沈するパフォーマンスを実施して

もらったというわけだ。


 おそらく、今回のSINKEXを皮切りに、アメリカ陸軍でも、アメリカ海兵隊でも、地対艦ミサイル部隊の創設へと

舵を切っていくことになるものと思われる。それに対して、陸上自衛隊は四半世紀前から地対艦ミサイル運用に

特化した地対艦ミサイル連隊を保有しているし、日本独自に開発製造している地対艦ミサイルシステムを手にしている。

そのため、現在アメリカ軍戦略家たちが検討している中国に対する「接近阻止戦略」

(拙著『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』参照)を推進して行くに当たって、日本の地対艦ミサイル技術や

ノウハウは、アメリカにとっても大いに有益なものとなることは必至だ。