幼い心むしばむ「原発いじめ」、被災者のケアに重い課題
[東京 10日 ロイター] - 2011年3月の東日本大震災と原発事故の災禍を逃れ、福島県から東京に家族で避難してきた少女は、新しく入った学校で「放射能」と呼ばれ続けた。
「放射能だ!バンバン!」。2人の少年が、登校してきた少女にピストルを撃つまねを繰り返した。自分と家族を故郷から追いやった放射能。そのせいで予想もしなかった差別を受けた少女は、頭痛と体重低下で学校を休むようになり、最後は転校に追い込まれた。
少女の母親は言う。「放射能のことで避難しているのにもかかわらず、自分が放射能と言われ辛かったと思う」。
<避難民の6割以上が被害>
震災から6年が経った今、広島・長崎の被爆者たちへの差別をほうふつとさせる陰湿な「原発いじめ」の実態が相次いで表面化している。
政府のいじめ防止対策協議会は先月、いじめに対処する基本方針の中に、被災者に関する記述を加えた。了承された改訂案では、東日本大震災の被災児童・生徒について「心のケアを適切に行い、細心の注意を払いながら、当該児童生徒に対するいじめの未然防止・早期発見に取り組む」との項目が盛り込まれた。
しかし、現実は大きな改善をみせていない。朝日新聞などが1─2月に行った共同調査では、福島から避難している人の62%が、避難先でいじめや差別を受けたり、被害を見聞きしたりしたことがあると答えた。
福島県から横浜市に自主避難した男子生徒が小学校で何年にもわたっていじめを受けていたことが昨年秋に明らかになった。そのケースでは、加害者が少年を「菌」と呼び、殴る、蹴るなどの暴行を続け、少年は暴力から逃れるため、現金150万円を加害者の生徒らに払っていた。
「いままでなんかいもしのうと思った。でも、しんさいでいっぱい死んだから、つらいけどぼくはいきるときめた」(原文のまま)。少年は手記にそう書いた。
いじめの増加は、子どもたちが直面する深刻な問題だ。文科省の調査(2015年度)によると、小・中・高等学校および特別支援学校におけるいじめの認知件数は22万4540件と、前年度より3万6468件増加した。児童生徒1000人当たりの件数は16.4件(前年度13.7件)となっている。
<つかみづらい実態>
ただ、「原発いじめ」の実態はつかみづらい。被害を受けた子どもが声を上げることは少ないからだ。
被災者の1人で「ひなん生活をまもる会」会長の鴨下裕也氏は、避難者の子どもの半数以上が何らかの形のいじめにあっているのではないかと指摘する。「避難者っていうこと自体、差別的な印象があるんでしょうね。だから、いじめられやすい」。
ひぐらし法律事務所の山川幸生弁護士も「かなりの確率で避難者はいじめの対象になっているのではないか」とみている。
広島・長崎の原爆被爆者は、結婚や仕事を巡る嫌がらせ、生まれてくる子どもに障害が出るのではないかという偏見などに悩まされてきた。その同じ苦しみが福島の被災者たちにもふりかかっている。
「子どもが成長した時に、あの時に福島にいた子は結婚できないかもしれないとか、元気な赤ちゃんが生まれるかどうか分からないとか、そういう不安を自分の中に持ってしまう」。福島県いわき市から避難してきた母親は、そう語り、自分の娘の将来への不安を隠さない。
多くの被災者を診察し、放射能に関する正しい知識の普及に努めている相馬中央病院の坪倉正治医師は、いじめが与ええるダメージは少しずつ心をむしばむ、と指摘する。「いじめに抵抗できる子もいるが、抵抗できずに自分を隠してしまう子もいる。そして自身と自尊心を失ってしまう」。
写真は被災者の1人で「ひなん生活をまもる会」会長の鴨下裕也氏。8日に都内でロイターのインタビューに応じた際撮影(2017年 ロイター)