[ワシントン 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関で、
最高裁の判事に当たる上級委員会の委員任命を米国が拒否していることに伴い、来年は上級委が機能不全に
陥ってしまうかもしれない。
それでも米国や中国、欧州連合(EU)などは貿易上の紛争を巡って、WTOに申し立てなくても、
お互いに譲歩を引き出せる。しかしパナマやモルドバなどの小国は、WTOに頼る以外に解決策を
持ち合わせていない。
WTOの上級委は7人の定員から3人が選ばれて審理を行う。ただ米国が2016年以降任命を
拒んでいるため、現在は委員が3人しかいない。このうち2人の任期は来年12月までだ。
もし中国出身のHong Zhao氏が、中国が関係する案件について審理担当を辞退せざるを得なくなると、
上級委は審理に必要な人数を欠いてしまう。
一方で紛争案件は増加の一途をたどっている。中国、カナダ、EUなどは今年、米国を相次いで提訴した
。米政府が輸入関税を導入したからだ。トランプ大統領はWTOの枠組みを批判しているものの、
米国も報復関税を打ち出した国・地域を提訴している。
もっともこうした大国やEUには、WTOとは別のルートで影響力を行使する手段がある。
例えば輸入税や外国投資規制、ビザ発給制限などだ。
対照的に小国は貿易紛争に有効な手は打てない。これらの国にとっては、WTOだけが事態を収拾できる。
パナマの例を見ると、同国は2007年にEUがバナナ輸入に関してアフリカ諸国などに有利な関税・
割当制度を設定していると提訴した。WTOは以前に似たようなケースでEUを処分している。
EUはその後、中南米諸国向けの関税を段階的に引き下げることに合意している。
そうした中で上級委の機能がまひし、ルール無視で何でもありの貿易となれば、小国は一段と苦境に
立たされるだろう。小国は、差別的措置を禁止するWTOの規定に守られており、WTOが推進する
透明性の高い貿易構造がもたらすメリットを享受している。加盟国はお互いに提訴し合える状態に
あることで、ルール違反を抑制しているのだ。このシステムがなくなってしまえば、小国が最も貧乏くじを
引く形となり、特に最貧国は一番大きな痛手を受けることになる。
●背景となるニュース
・WTO上級委員会はメンバーが3人にまで減っている。米国が9月、4人目の委員の再任を拒否したからだ。本来の定員は7人で、そのうち3人が選ばれて審理を行う。
・現在の委員のうち米国出身のトーマス・グラハム氏とインド出身のUjal Singh Bhatia氏の任期は来年12月まで、中国出身のHong Zhao氏は2020年11月までとなっている。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。