【寄稿】世界はアサドを制止せよ=トルコ大統領
2018 年 9 月 11 日 09:57 JST THE WALL STREET JOURNAL By Recep Tayyip Erdoğan
シリアのバッシャール・アサド大統領の犯罪者政権は過去7年間にわたり、トルコ南部の国境地域で
シリア市民をターゲットとし、恣意的な逮捕や組織的な拷問、即決の処刑を行い、たる型爆弾や化学兵器、
通常兵器で攻撃してきた。
国連人権理事会が「第2次大戦以来最悪の人災」と呼ぶシリア内戦により、何百万もの罪なき人々が、
難民となったり国内で居住地からの退去を強いられたりしている。
トルコは、シリア国民の苦しみを和らげるため、非常に大きな貢献を果たしてきた。
例えば、約350万人の難民を受け入れているが、これは世界のどの国よりも多い。同時にトルコは、
すぐ隣で活動するテロリスト組織、つまり「イスラム国(IS)」や「クルド労働者党(PKK)」の
標的となっている。こうした人道的支援の多大なコストや安全保障上の懸念も、われわれの決意を
弱めてはいない。
こうした課題に直面しながら、トルコは政治的解決に向けた外交努力を行った。シリアの反政府勢力を
ジュネーブでの交渉の場に出席させ、ロシアやイランとともに、カザフスタンのアスタナでの
和平協議を緒に就かせた。それによってトルコは休戦を仲介し、緩衝地帯を創設し、政府軍の攻撃を
受けている地域から民間人を避難させることができた。
現在トルコは、再び重大な岐路に立たされている。アサド政権は仲間の力を借り、イドリブへの
大規模攻撃を準備しているのだ。イドリブは家を追われたシリア人に残された数少ない安全地帯であり、
300万人近い人々が暮らしている。攻撃を阻止するため、トルコ政府は戦闘を禁止した安全地帯の設置や、
停戦違反を記録・報告するための12カ所の監視所の設置を支援した。
アサド政権は、テロ対策の観点から差し迫った攻撃を正当化しようとしている。間違わないで欲しい。
トルコほど、テロと戦う必要性を強く認識している国は他にない。トルコはシリア内戦によって
地域一帯に危険が広がり始めて以降、テロ攻撃にひどく苦しめられてきた。
だが、バッシャール・アサドの解決策は間違っている。テロとの戦いという名目で罪なき人々が
犠牲になることは、あってはならない。それは、テロリズムと過激主義の新たな温床を生み出すだけだ。
ISの台頭は、シリアで起きていたことの原因ではなく、結果だったのだ。国際社会は、こうした暴力を
封じ込め、テロリズムが根付くのを阻止しなくてはならない。
われわれはイドリブで、同じような困難に直面している。
この地域では「ハヤート・タハリール・アルシャーム(旧ヌスラ戦線」)など、テロ組織に指定された
団体が活動を続けている。だが、こうした組織の戦闘員は、イドリブの人口のわずかを占めるに過ぎない。
テロリストと過激分子をイドリブから排除するためには、より包括的で国際的な対テロ作戦が必要だ。
トルコがシリア北部で展開した対テロ作戦では、穏健な反政府勢力が主要な役割を担った。
彼らによる支援と指導は、イドリブにおいても不可欠であろう。
イドリブへの攻撃阻止は、テロ対策の取り組みが後退することを意味しない。トルコは民間人を
傷つけたり、居住地から退去させたりすることなく、ISやPKKなどのテロリスト集団との戦いに
成功している。紛争地域の治安を回復させようとして、これまでに何十人ものトルコの軍人が命を落とした。
トルコはシリア北部で治安を維持できているが、これはテロ対策の責任あるアプローチが人心を
つかめることを示す証拠だ。
イドリブへの攻撃が切迫しているなか、国際社会のすべてのメンバーは自分たちの責任を
理解しなければならない。行動しないことは、途方もなく大きな結末をもたらす。
われわれはシリアの人々をバシャール・アサドのなすがままにはできない。アサド政権のイドリブ攻撃の
目的は、反対勢力を一掃する無差別攻撃だろう。テロ撲滅への純粋な、あるいは効果的な作戦ではないのだ。
アサド政権の攻撃はまた、トルコのみならず、欧州や欧州以外の地域にも人道上、安全保障上の
重大なリスクを生み出すだろう。
米国はこれまで、化学兵器による攻撃に関心を集中してきた。そうした米国にとって、死の恣意的な
序列化を拒否することが決定的に重要だ。はるかに多くの死は、通常兵器による攻撃でもたらされている。
しかし、次の流血を阻止する義務は西側のみにあるのではない。アスタナ和平プロセスにおける
われわれのパートナーであるロシアやイランも同様に、この人道危機を阻止する責任がある。
イドリブは代償を支払わないで済む最後の出口だ。欧州や米国を含む国際社会がいま行動しなければ、
罪のないシリア人だけではく、全世界も代償を支払うことになる。
トルコは最善の努力を払って隣国の流血を阻止しようとしてきた。われわれの成功を確実なものにするには、
国際社会のメンバーは狭量な利己心を脇に置き、政治的解決を全力で支援しなければならない。