気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘75) 8月26日 石垣空港へお出迎え

2022年08月26日 | 日記・エッセイ・コラム
昨日に続いて、今日も私は石垣空港へ来ていた。勿論、キヨコ姉さんを出迎える為である。朝から夕方の便迄待ったが、昨日は姿を見せなかった。もしかしたら今日も…と思いながらも私はここに来た。まるで『岸壁の母』みたいに。午前中の最後の便にも乗っていなかった。後になって考えてみれば、那覇に電話をして乗客リストを見てもらえば済んだものを、この時はそこ迄思い付く余裕は無かった。冷たいフルーツ・ジュースを飲んで落ち着こうと努めた。既に八月下旬というのにまだまだ陽は高く、一歩外に出ると途端に汗をかく様な陽気である。私にはこういう気候が自分に合っていると思う。他のどんな場所よりも。

やがて午後の第一便が着く時刻が近づいて来た。私は屋上にいち早く出た。どこ迄も青く澄みきった空には雲一つ無く、天上の彼方へと吸い込まれそうな気持ちになる。
微かにエンジンの音が聞こえてきた。しかし青い空の何処にも機影は見えない。不安高まる気持ちを落ち着かせる為に煙草に火を付けた。半分程吸ったところで気が付くと青空の中一点、はっきりと機体が見えた。不思議な予感がした。この機に彼女が乗っている…と。訳の解らぬ確信の中にそう思えば思う程、見える筈の無い機内のキヨコが見えてくる。

無事着陸を終えた飛行機がゆっくりとこちらに向かって来て、いつもの場所に停止した。移動タラップが掛けられ乗客が降り始める。しかしキヨコの姿は見当たらなかった。『見落としたのだろうか?』。たまにある事なので下のロビーへ急いだ。『やっぱり…』と思い肩を落としたその刹那、私のこの目は確かにキヨコを捕えた。彼女も私に気が付き、こちらへ歩いて来た。
「おかえり」
「アナタ、来てくれていたの?   …いつから?」
「昨日から」
「そう…ありがとう、嬉しい事する人ね。サア、行きましょうか」
私は一時里帰りをしていた那覇でのキヨコに付いては、何も触れないでおいた。出来る事なら過去の嫌な思い出にまつわる事に付いては、一切触れない様にと思っている。

キヨコの部屋。若い女の娘の部屋とは当然イメージが異う。この部屋では安堵感の様なものを感じた。が、今は何故か岸壁の上の安らぎ的な、不安定さも感じないではいられない。
私は昨日からの気配りの疲れや、それ以上に一安心した心の緩みからか、ついつい転た寝をしてしまった。とても気持ち良く眠っていた。私が部屋を後にして歩き始めた時、一瞬、爽やかな風が通り抜けた様な気がした。

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