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映画 君たちはどう生きるか(宮﨑監督作品)

2023-08-01 11:32:38 | 日記

 映画 君たちはどう生きるか(宮﨑監督作品)

ぎょっとする題に驚くのと、五十年ほど前同名の書籍を是非読まねばいかんと思い立ったが最初の二ページくらいで放り出した経験があるので、映画なら嫌でも最後まで見るだろうと思い「どう生きるか」を考えるために見に行った。

 これは黄泉の国に行く話を現代風に膨らませた映画で、どう生きるかについて一緒に考えましょうとか、こうしたらいいですよとかの内容ではない。そもそもどう生きるかは、完全に個人に帰属する問題ですべての条件が異なるから他人には教えようがないし討論して決める問題でもなかろう。しかし、何となく一定のガイドラインが無いと決められそうにない。決めないと個人も不安定だし、決まらない人間ばっかり右往左往していると社会も不安定になる。だからと言って全体主義みたいになると息が詰まる人が多数出るし、硬直化して社会が丸ごと破滅するのは歴史に見る通りである。古くはスパルタの例がある。

 その緩やかな「一定のガイドライン」を提示してある映画かと思いきや全くそんなことない。現実離れしたお話が続いていくだけである。この映画の題名にあるものは、この映画の奥の方に深く隠されていてそれを引っ張り出すことが観客の務めであると思いながら見ていくが遺憾ながらそれは奥の方にも無いようである。今までの宮崎作品と寸毫変わらない造りになって居る。

 この映画の値打ちは、多分非常に古くからある日本文化(今回は黄泉の国)の情感を意識することで外国から入ってきて今自分たちが困っているまたは結構だ迷惑だなどの感情をしばらく忘れることで、本来の自分の感情は何であったかが仄かに意識に登ってくるところにあるとみる。

 古い日本の情感を感じることによって、どう生きるかを決めるのではない。「時々でいいから」古い日本の情感を感じる生き方をすることが、あなたのこれからの生き方にするべきですよと言っているように見える。

 

 私どもが、外国の荒唐無稽な映画(例えばミッキーマウス)を見てもしっくりこないが、宮﨑作品の同じく荒唐無稽なアニメを見てしっくりくるにはそれだけの理由が我々の側にあるからである。時々はしっくりする情感を味わいながらおカネや会社での出世でないものに触れておかねばいけないであろう。脳細胞に酸素が供給された(田畑が耕かされた)気分になった映画である。

 六本木ヒルズ(または同等のところ)に住んでいる人々に是非見てもらいたい作品である