ショック・ドクトリン (NHKテキスト 100分DE名著テキスト)③フリードマンさんに対する提言
私はなぜ新自由主義を無理して世界に広めるのかを不思議に思っている。広めるにはコストも危険もある。自分のところが繁栄しているだけで、世界の他のところからは貿易お願いしますと言ってくるはずだからなにも無理する必要はない。他国に自国の文化を押し売りする必要があるのか?世界中を自国と同じ文化にしてしまうと退職後に世界旅行をする楽しみがなくなってしまうとフリードマンの弟子であるシカゴボーイズ(シカゴ大学卒業生だからこの名がある)に言ってやりたい。
三蔵法師そのほかがわざわざインドまで出向いたには仏教に魅力ありと認めたからであろう。そのようにして思想が広まるのならまだいいけど、フリードマンさんは新自由主義の思想を押し売りしている。思想は押し売りするものではない、例えば私は「なるたけぐうたらにしてお気楽に生きていく」主義を標榜していてなかなかいいものだと思っているが、これを世間に広めようとは思わないしましてや押し売りしようとは絶対思わない。自分だけの楽しみである。
どうやら思想というのは、静かに発見されるのを待つというけなげなところが無いようである。自分の方から盛んに売り込みに行く。伊藤若冲さんは自分の絵を評価してくれる人を「百年具眼の士を待つ」と言ったそうである、フリードマンさんも若冲に習えばどうか。そんなにいいものなら自然と広まるんではないのか。
もう一度あの何でもありの初期資本主義の精神に立ち戻れというのが新自由主義で日本人とこれとが相性が悪いのはこんなことが理由と考えられる。本郷和人さんの説によると、鎌倉武士団の発祥は共同して各人の土地を守るために始まったという。その場合のトップは皆が推戴した人物であり無能とか自分たちのことから遊離したとかとなると容赦ない仕打ちをしたが、一方仲間の土地を守るためには命懸けの戦いもした。源実朝は都の文化に心惹かれたので容赦ない仕打ちにあったし、おとーさんの頼朝はそれを知っているので都には近づかなかった。(気の毒に都の美女に心惹かれていたであろうに、北条政子のみであったらしい。美女と命とが引き換えになっているとたいていの人は命の方とりますから。)
この仲間のために命懸けで働くという精神が今の日本人に受け継がれているようにみえる。つい最近まで日本人の会社に対する忠誠心はモノ凄いものがあった。その忠誠心はトップに対するものではなく仲間に対するものであった。それには弊害も大きかったがおかげで高度経済成長したところもある。日本人は、仲間に忠誠を尽くす時に快感を感じる文化を持っているのである。(危ない面もおおきいから少しづつでも変えていかねばいけないけど)
一方西洋は、古代に奴隷制であった。(ソクラテスもプラトンも奴隷に生産を任せて自分たちは気ままな議論にふけっていた。)いかにして奴隷を効率的に働かせるかが西洋で磨かれてきた政策であろう。もちろん新自由主義はこの系譜の一番最後に乗っかっている。仲間に忠誠する快感を持っている社会(それはそれで欠点も多いが)に、そんな古代西洋から伝わる政策から出てきた智慧が根付くはずがない。竹の根に檜の苗木を接ぎ木するようなもので両者とも一気に枯れてしまう。
そこでフリードマンさんに言いたい。よその国にご自分の思想を広めたいなら、よほどその国の人々の心的傾向を理解して、こちらの売り込みたい思想をそれに適合するように変形してからしないと両方ともダメになってしまいますぞ。最近の日本人の引きこもりの増加にダメの兆しがある。または「働いたら負け」という標語にもそれは感じられる。日本のシカゴボーイズの皆さん、ここが考えどころですぞ。枯れた国からは利益が上がらないことに早くお気づきになるように。