NHKで「Bizスポ」のキャスターを務めていた、堀潤アナウンサーを御記憶だろうか。Twitterで原発について積極的に発言し、多くのフォロワーが付いていた。だが突然、アカウントを閉鎖。ニューヨークに留学してしまった。
上層部に睨まれて左遷されたとの、もっぱらの噂だった。当時、局内ではテロリスト扱いだったらしい。その堀アナウンサーが日本に戻ってくる。ただし、用意された仕事は「今日の料理」の司会だという。もう決して政治的な発言はしないと、約束させられているとのことである。
「そんなことなら、NHKなんか止めてしまえ」という声が上がりそうだ。だが、そういう言い方はちょっと無責任ではないか。私あたりはどの組織にも関わっておらず、何の力もない代わりに失うものも何もないから、ここで正論を吐き続けることができるのだ。
NHKのような、マスコミの頂点に位置する組織にいて正論を言うことの難しさは、私などの想像を超えるものがあるはずだ。だからみんな黙っているのである。誰にでも生活があるし、できればいい仕事もしたい。
戦前の日本で、ある程度の地位にあって戦争に反対する人間に軍部が行なった弾圧は、仕事を奪うことだった。地位と仕事と生活の糧を奪って、沈黙させることだったのだ。そしてたいていの人間は、それで参ってしまった。
実際、生活が成り立たなくなると戦争に反対することもできない。家族を養っていけないし、子どもに食べさせることもできない。かくして逮捕されると、面会に来た家族が泣きながら、転向することを求めたのである。軍部はそれを利用した。
山本太郎もそうだが、私たちがいくら賞讃しても仕事を斡旋できるわけではない。忘れられたらおしまいだ。堀アナウンサーも、フリーになってやっていけるかどうかわからない。私たちが、仕事や生活の面倒を見られるわけではないのだ。
「だから、組織にいる人間が沈黙するのは仕方がない」と言っているわけではない。そういう沈黙を強いている組織の在り方を、徹底的に批判しなければいけないし、既得権益に胡座をかいて、不正義に目をつぶり楽に生きている上層部の実態を、とことん暴露する必要がある。
戦前の日本でも、大組織に守られている者たちの沈黙が、戦争に暗黙の支持を与えた。いやむしろ、組織ごと戦争に加担したのだ。特にマスコミは恥を知るべきだ。戦争責任に向き合わず、GHQ日本占領軍と取引して生き残った醜態が、今も続いているのである。
人間としての、やむにやまれぬ正義感から発言した堀アナウンサーは、難しい道を歩むことになった。私は今後「今日の料理」を観て、視聴率向上に貢献したいと思う。もともと料理が下手だから、ちょうどいい。基礎から勉強しよう。