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『一週間』 井上ひさし

2023年02月11日 13時46分57秒 | ■読書
井上ひさしの長篇小説『一週間』を読みました。
『東慶寺花だより』、『モッキンポット師の後始末』、『イソップ株式会社』に続き、井上ひさしの作品です。

-----story-------------
最後の長編小説。
昭和21年、ハバロフスクの収容所。
ある日本人捕虜の、いちばん長い一週間。
『吉里吉里人』に比肩する面白さ!

昭和21年早春、満洲の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。
脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。
それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、爆弾のような手紙だった……。
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2010年(平成22年)に刊行された井上ひさしの遺作長篇です。

 ■月曜日
  1 ハバロフスクへ
  2 日本新聞社
  3 食堂の賄い主任
  4 哲学者撲殺事件
  5 正午
  6 昼休み
  7 午後の試験
  8 Mの噂
  9 セザンヌ大画集
  10 徐波という店員
  11 二つの大事件
 ■火曜日
  1 出張聴取
  2 脱走計画
  3 スープをすする廃帝
  4 入江軍医中尉の脱走談
  5 入江軍医の回心
  6 痒みの原因
  7 レーニンの背信
  8 楽園駅で
 ■水曜日
  1 偽脱走記
  2 春がきた ヴィスナー・プリシュラー
  3 恋文
  4 自画像
  5 裁判
  6 先生の手帳
  7 賭け
 ■木曜日
  1 取引き
  2 鏡の架かった壁
  3 ソーニャ
  4 集団銃殺刑
  5 賭ける
  6 オロチ人の看守
 ■金曜日
  1 ザイツェフ閣下
  2 街で一番の仕立屋
  3 旧友交歓
  4 のこる理由
  5 この世でもっとも恐ろしい拷問
  6 レーニンの手紙は破かれた
  7 逆戻り
 ■土曜日
  1 手紙の値打ち
  2 オロチ人の立場
  3 待ってるわ ジャッタンドレ
  4 屋上楽園
  5 剃刀の刃渡り
 ■日曜日
 ■小説家井上ひさし最後の傑作 大江健三郎

スパイMの奸計により逮捕され共産党から転向した小松修吉は、Mを追って満洲に渡り、終戦後、捕虜となる… 昭和21年早春、ハバロフスクの日本新聞社に移送された修吉は、脱走に失敗した軍医の手記を書くよう命じられた、、、

面談した軍医は、レーニンの裏切と革命の堕落を明かす手紙を彼に託した… 修吉はこれを切り札にしてたった一人の反乱を始める……。

シベリア抑留の苛酷な現実… 奇想天外な大脱走… スパイMの正体… そして、レーニンの秘密、、、

昭和21年早春の月曜日から日曜日までの一週間の小松修吉の滑稽で奇想天外な権力との闘いを描いた著者の集大成… 遺作にして最高傑作。

面白くてページを捲る手が止まらず、650ページを超える大作でしたが長くは感じなかったですね、、、

入江軍医の脱走劇やレーニンの秘密を巡る攻防等、冒険小説としての愉しさやワクワク感を持ったエンターテイメント要素と史実に基づいたシベリア抑留者の辛く厳しい生活の悲壮感が伝わるノンフィクション要素の両面を併せ持つ作品でした。

印象に残ったのは、シベリア抑留の問題を改めて考えさせられたノンフィクション要素の方かな、、、

多くの兵士たちが酷寒の地で飢えて凍えて死んでいった悲劇の原因は、戦後復興に向けた無償の労働力を得るための無法なソ連の蛮行としか認識してませんでしたが… 食糧難や住宅事情から国内の人口を増やしたくないという背景もあり、ソ連の要求にやすやすと応じた大日本帝国の無責任さや、収容所に軍隊の秩序を持ち込んで自分たちの優位的な立場を継続するだけでなく兵士の食料を巻き上げていた関東軍の参謀や上級将校(しかも彼らは強制労働の対象外…)の身勝手さなど、日本側にも多くの問題があったことに気付かされ、悲しみや怒りを感じましたね。

戦争に負けることや捕虜になることを想定していなかった日本軍が戦時国際法に関して無知だったことも状況を悪化させた要因だったんでしょうね… 井上やすしは、本作品を通じて、それらのことを告発したかったのかもしれませんね、、、

エンターテイメント要素の方は、終盤までハラハラドキドキさせられましたが… 最後は現実的で哀しい結末でした。

この締めくくり方には賛否両論あると思いますが… 個人的には受け入れられる内容だったかな、、、

たった一人でも無慈悲な権力と闘う強さ… 自分も、そんな力を持ちたいと思いました。

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