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「扉をたたく人」 (2008年 アメリカ)
監督・脚本 トム・マッカーシー
出 演 リチャード・ジェンキンス/ハーズ・スレイマン/ヒアム・アッバス/ダナイ・グリラ
■地味だけど…、地味だから?いい
映画評とか、ネットなどでまったく情報を得ず、店でたまたま「タイトル」が気に入って選んだ、私にしては珍しい新着DVD(たいてい、「見たい」と思ってから数年して見るケース多し)。
アメリカで最初に4館でのみ上映されたが、口コミで広がり、270館にまで拡大したという映画。ストーリーも登場人物も地味で、カタルシスを期待する内容でもない、こういう映画が受け入れられる土壌ってちょっといいなと思う。
見ている人にあえて何も押しつけず、求めないところが心地よい。
派手な宣伝やこざかしいタイアップでちょっと辟易な最近のある日本映画(天の邪鬼な私は、それがなかったら「見たい」と思ったのになあ)には、それなりの意味と使命があってのことなんだろうけど。ま、関係ないけど。
■目で伝え合えること
妻の亡きあと、コネチカットの大学で教鞭をとりながらさびしく暮らす初老の男ウォルター(リチャード・ジェンキンス)。画面はさりげなく彼の日常を追う。
大学の教室には力のない退屈な話がむなしく響く。一年の講義概要は昨年のものとまったく同じ。彼は西暦の末尾の数字を一桁だけ訂正する。妻の残したピアノを練習してはいるが個人教授を今までに4回もかえ、上達どころか大した興味も抱いていないようだ。学会の出席要請にもいろいろ理由をつけて断ろうとする。
そんな彼が学会のために訪れたニューヨークで出会うのがシリア出身の青年タレク(ハーズ・スレイマン)とその恋人ゼイナブ(ダナイ・グリラ)。ひょんなことからウォルターのアパートメントでタレクとの共同生活が始まる。タレクの優しく深い目の表情がいい。最初なかなか心を開こうとしないゼイナブの目もいい。
タレクは公園やストリート、バーなどでジャンベを演奏して生計を立てているのだが、ウォルターがジャンベに興味をもったことから、二人の心が通じ合っていく。少ない会話、視線が語る心の高揚。
学会のあいまに、ウォルターが公園のタレクの仲間たちに交じってジャンベを演奏するシーンが温かい。「それでいいんだ」と目で伝えるタレクと、恥ずかしそうに目で笑うウォルター。
だけど、悲劇が訪れる。グリーンカードをもたないタレクが逮捕され、入国管理局に収容されてしまい、それから毎日のようにウォルターは面会に行く。大学の講義を休講させても、彼はタレクのために奔走する。
心配して訪ねてきたタレクの母親との間にも淡い大人の恋(といえるかどうか)が生まれるけれど、結局タレクはシリアに強制送還され、その母も息子を追って旅立ってしまう。
■ラストシーンのウォルター
忙しいはずなのに、なんでタルクのためにそんなに一生懸命になるのか、という問いかけに答えるウォルターの表情。「忙しくなんかない。全部“ふり”なんだ。もう何十年の仕事らしい仕事はしていない」
タレクの強制送還を知らされたとき、入局管理局の待合室で叫ぶ、「あんなにいい青年を! この国は何をしているんだ!」
でも彼は何か見つけたんだね。自分の「やるべきこと」、いや「やりたいこと」か?
タレクを救えず、その母親も旅立ったあとの最後のシーンで、彼はニューヨークのストリートを歩く、タレクから譲り受けたジャンベを抱えて颯爽と足早に歩く。もう以前の猫背の男じゃない。
地下鉄の改札で大きなジャンベを持て余したりはしない(タレクはウォルターの不手際で誤解されて警官に問いつめられ収容されてしまったのだ)。
地下鉄のホームのベンチでジャンベを叩くウォルター。以前よりずっと力強く、周囲の目なんか気にせずに叩く。
タレクを救えなかった自分へのはがゆさ、9.11以来異国の人間に対して不寛容になってしまった母国へのやりきれなさ。
だけど負の感情だけではない何かが、ウォルターのジャンベのリズムにはこめられている。
タレクという青年と、そしてジャンベと出会った彼は、きっとこれからの老いへの時間をちゃんと歩きだすのだろう。若くなくても、そして強くなくても、人は変われるのかもしれない…、そんな予感を見せてくれるラストシーン、ジャンベのリズム。
原題は “Visitor”。シンプルでいいタイトルだけど、今回は珍しく(笑)邦題も気に入りました。
Visitor=扉をたたく人
はわかりやすいけれど、「たたく」からは二人を結びつけたジャンベが浮かび上がってくる。
そうそう、役者がみんないいです。
スピッツのシングル「春の歌」のカップリング「テクテク」やアルバム『さざなみCD』の収録曲「P」では、ドラマー崎ちゃんがジャンベを優しくたたいています。
昨夜、仕事で恵比寿のウェスティンホテルを訪れたら、ホテル内にはクリスマスツリーが随所に、そして外はすでにイリュミネーション、という感じで。
きれいだったけれど、ああ、ちょっと早くはないですか?
まだそんな気分じゃないぞ。
監督・脚本 トム・マッカーシー
出 演 リチャード・ジェンキンス/ハーズ・スレイマン/ヒアム・アッバス/ダナイ・グリラ
■地味だけど…、地味だから?いい
映画評とか、ネットなどでまったく情報を得ず、店でたまたま「タイトル」が気に入って選んだ、私にしては珍しい新着DVD(たいてい、「見たい」と思ってから数年して見るケース多し)。
アメリカで最初に4館でのみ上映されたが、口コミで広がり、270館にまで拡大したという映画。ストーリーも登場人物も地味で、カタルシスを期待する内容でもない、こういう映画が受け入れられる土壌ってちょっといいなと思う。
見ている人にあえて何も押しつけず、求めないところが心地よい。
派手な宣伝やこざかしいタイアップでちょっと辟易な最近のある日本映画(天の邪鬼な私は、それがなかったら「見たい」と思ったのになあ)には、それなりの意味と使命があってのことなんだろうけど。ま、関係ないけど。
■目で伝え合えること
妻の亡きあと、コネチカットの大学で教鞭をとりながらさびしく暮らす初老の男ウォルター(リチャード・ジェンキンス)。画面はさりげなく彼の日常を追う。
大学の教室には力のない退屈な話がむなしく響く。一年の講義概要は昨年のものとまったく同じ。彼は西暦の末尾の数字を一桁だけ訂正する。妻の残したピアノを練習してはいるが個人教授を今までに4回もかえ、上達どころか大した興味も抱いていないようだ。学会の出席要請にもいろいろ理由をつけて断ろうとする。
そんな彼が学会のために訪れたニューヨークで出会うのがシリア出身の青年タレク(ハーズ・スレイマン)とその恋人ゼイナブ(ダナイ・グリラ)。ひょんなことからウォルターのアパートメントでタレクとの共同生活が始まる。タレクの優しく深い目の表情がいい。最初なかなか心を開こうとしないゼイナブの目もいい。
タレクは公園やストリート、バーなどでジャンベを演奏して生計を立てているのだが、ウォルターがジャンベに興味をもったことから、二人の心が通じ合っていく。少ない会話、視線が語る心の高揚。
学会のあいまに、ウォルターが公園のタレクの仲間たちに交じってジャンベを演奏するシーンが温かい。「それでいいんだ」と目で伝えるタレクと、恥ずかしそうに目で笑うウォルター。
だけど、悲劇が訪れる。グリーンカードをもたないタレクが逮捕され、入国管理局に収容されてしまい、それから毎日のようにウォルターは面会に行く。大学の講義を休講させても、彼はタレクのために奔走する。
心配して訪ねてきたタレクの母親との間にも淡い大人の恋(といえるかどうか)が生まれるけれど、結局タレクはシリアに強制送還され、その母も息子を追って旅立ってしまう。
■ラストシーンのウォルター
忙しいはずなのに、なんでタルクのためにそんなに一生懸命になるのか、という問いかけに答えるウォルターの表情。「忙しくなんかない。全部“ふり”なんだ。もう何十年の仕事らしい仕事はしていない」
タレクの強制送還を知らされたとき、入局管理局の待合室で叫ぶ、「あんなにいい青年を! この国は何をしているんだ!」
でも彼は何か見つけたんだね。自分の「やるべきこと」、いや「やりたいこと」か?
タレクを救えず、その母親も旅立ったあとの最後のシーンで、彼はニューヨークのストリートを歩く、タレクから譲り受けたジャンベを抱えて颯爽と足早に歩く。もう以前の猫背の男じゃない。
地下鉄の改札で大きなジャンベを持て余したりはしない(タレクはウォルターの不手際で誤解されて警官に問いつめられ収容されてしまったのだ)。
地下鉄のホームのベンチでジャンベを叩くウォルター。以前よりずっと力強く、周囲の目なんか気にせずに叩く。
タレクを救えなかった自分へのはがゆさ、9.11以来異国の人間に対して不寛容になってしまった母国へのやりきれなさ。
だけど負の感情だけではない何かが、ウォルターのジャンベのリズムにはこめられている。
タレクという青年と、そしてジャンベと出会った彼は、きっとこれからの老いへの時間をちゃんと歩きだすのだろう。若くなくても、そして強くなくても、人は変われるのかもしれない…、そんな予感を見せてくれるラストシーン、ジャンベのリズム。
原題は “Visitor”。シンプルでいいタイトルだけど、今回は珍しく(笑)邦題も気に入りました。
Visitor=扉をたたく人
はわかりやすいけれど、「たたく」からは二人を結びつけたジャンベが浮かび上がってくる。
そうそう、役者がみんないいです。
スピッツのシングル「春の歌」のカップリング「テクテク」やアルバム『さざなみCD』の収録曲「P」では、ドラマー崎ちゃんがジャンベを優しくたたいています。
昨夜、仕事で恵比寿のウェスティンホテルを訪れたら、ホテル内にはクリスマスツリーが随所に、そして外はすでにイリュミネーション、という感じで。
きれいだったけれど、ああ、ちょっと早くはないですか?
まだそんな気分じゃないぞ。