あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
関連アイテムや書籍の読書記録も紹介中

合田さんのヴァイオリン

2005-01-03 01:15:12 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
12/31から1/1にかけては、第五章 のp307から 終章 のp443まで読了。つまり下巻読了。
しかし一気に感想は綴れないので、3、4回に分けてアップします。まずは、第五章 p307からp348まで。

倉田副社長の背信を知る城山社長は、白井副社長の家で面会。白井さんから、ライムライト社が倉田さんを引き抜きにかかっていること、そして内部告発文書を倉田さんに頼まれてワープロで作成したのは城山社長の妹・晴子さんだろうと聞かされて、仰天する城山社長。倉田さんと晴子さんは、二十年以上の男女の関係にあったのだ。
半田さんの尾行を終えた合田さんは、義兄から電話を受ける。警察が動けない今、別のルートで地検が動くのかと思う合田さん。
倉田さんの背信を何とか思いとどめようとする城山社長。しかし倉田さんの答えは「否」だった。
久保っちは根来さん失踪の件で何とか手がかりを掴もうと、根来さんが親しくしていた合田さんの知人に連絡を取ってもらうように、合田さんに頼む。
毎日ビールのビール瓶から、青酸入りのビールが出た。本家本元(?)と関係ない、別の悪党の仕業に呆れる、物井さんや半田さんたち。
警視庁捜査一課長・神崎さんは業を煮やし、城山社長にLJの声を録音したテープを提出するように求め、結局城山社長は折れた。
久保っちは合田さんの知人・自称株屋の加納さんと面会し、相身互いでいこうと協力を約束する。その矢先、第三強行犯の管理官・三好さんが焼身自殺をしたという一報が・・・。

***

えらく長くなってしまった(汗) いろいろ展開があって、内容が濃いんだもん。
今回のツボは、何といってもヴァイオリンを弾く合田さんでしょう!(『LJ』下巻p313~315) 個人的には、合田さんの名場面ベスト3に入るくらい、大好きな場面です。
BGMはもちろん、合田さんの奏でるモーツァルトのヴァイオリンソナタ第25番ト長調と、J.S.バッハのヴァイオリンソナタ ト短調を。・・・って、私はどちらも聴いたことありませんが(爆) バッハが「無伴奏ヴァイオリンのソナタ」であればCD持ってますが、文章からはっきりとは判らないんですよねー。バッハは曲数が多いから、こういう時困ります(苦笑) でも、いつかは買って聴きますとも! 『リヴィエラを撃て』(新潮社) に登場する、ブラームスのピアノ協奏曲第2番も買って聴いたんですから。

閑話休題。ヴァイオリンを弾いている合田さんのこの場面、実は合田さんにとっては○スター×ーション(←恥ずかしいので伏字・苦笑)に等しい行為ではないのか、というご意見を読んだことがあります。最初はさすがに「ええ~!?」と拒絶反応を示したのですが、今では「一理あるかもなあ」と微かに思うようにも(苦笑)
合田さん、恍惚としてヴァイオリンを弾いているようにも思えるんだもの。セレクトでも挙げますが、「半田さん三連発」と個人的に呼んでいる文章があるんですが、ぴたりと当てはまるんですよ。
男性の本能・生理についてはイマイチ理解しがたい女ですので、何とも言えないんですが・・・  ま、参考までに(?) これに関しては、ぜひ男性のご意見をお伺いしたいものですね。

久しぶりに白井さんが登場したので、嬉しい私 
もう、城山社長を驚かせて、反応を見て楽しむのが生きがいのような、今回の白井さんの言動(笑) 鯉の洗いと鯉こくを自らさばいてふるまって、倉田さんをライムライトが引き抜きにかかっていること、倉田さんと城山社長の妹で故・杉原さんの妻の晴子さんとは、二十年以上の不倫関係にあったことを暴露。
城山社長も辛いですよね。腹心中の腹心・倉田さんに裏切られて。LJに脅迫されたのは日之出ビールではなくて、事実上は城山社長の姪の一件であったことを倉田さんにだけ告白しても、倉田さんは頑として内部告発文書の撤回をしない。不本意にも総会屋の岡田経友会に弱みを握られて、刺し違えようと思ったという倉田さんの気持ち・・・辛くて痛いほど、ひしひし感じます。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回も多い&長いです。

★「大人の男女の話に、お互い野暮は言いますまいよ」 (『LJ』下巻p309)
ああ、この白井さんのこういう口調が好きや~  たまりませんわ。

★半田さん、あんたも同世代なら、だいたい想像はつくだろう? (・・・略・・・) 要は、母子それぞれに、豚小屋の檻から精いっぱい首を突き出して、未来の見通しも計算もない、何も生むものもない甘美な夢想に浸っていた。その時間こそが、自分と母親をいっとき現世から救い出していたということだ。あんたには分かるだろうか。 (『LJ』下巻p314~p315)

★半田さん、分かるか。俺は才能がないから十分な表現は出来ないが、この和声や旋律は、これ以上足すものも引くものもない、純粋な情熱に満ちた魂の詠嘆だ。この響きは、何千年来、死や貧困や像などを無数に通り抜けてきても、人間はまだ純粋でいられることの証だ、人間の魂を救う響きだ、生きる価値を人間に教える響きだ、と合田は語りかけた。 (『LJ』下巻p315)
合田さんが例えているのは、バッハのヴァイオリンソナタのこと。実はこれ、上巻で合田さんが教会で弾いているのを、半田さんが盗み見と盗み聞きした曲とイコール(のはず)なんですよね・・・。

★半田さん、これはあんたの知らない響きだろう。 (・・・略・・・) 未来のなさという意味ではまさに檻の中の檻に自分を追い込んで、あんたは今、何を思うのだ。
豚のような人生でも、人間が純粋でいられることを知っている俺の方が、あんたよりは少しは救われている。この先、あんたには間違いなく破綻しかないが、俺にはまだ少しは道が残っている。
 (『LJ』下巻p315)
以上、「半田さん三連発」でした。ああ私やっぱり、この辺りの合田さんが一番好きやわ~ 

★この世のどこかに純粋な情熱が存在すること、人がその前で純粋になれることを知っているというだけで、現実では、物心両面で常に、充足とはほど遠い自分しか知らなかったのだ。 (『LJ』下巻p315~p316)
この一文、後々の展開を知るとすっごいいろんな意味が含まれていることに、気付かされますよ・・・。

★「私は内部告発を決める前、ほんとうに田丸と刺し違えようと思ったことがあります。貴方には、私が田丸に懐いている憎悪は分からない。あの男の前で、畳に額をつけて土下座した自分を、悔やんでも悔やみ切れない気持ちです」 (『LJ』下巻p323)
倉田さん、一世一代(?)の名台詞。何をコメントすることがありましょう・・・。

★自分は悪鬼だと勝手に納得していたが、世の中には自分のこの黒い腹よりもはるかに黒い腹の持主たちがおり、はるかに大きい悪意をもって、社会を動かしていくのだ。 (『LJ』下巻p330)

★「学生時代から十八年間の付き合いです。水と油ですが、よくかき混ぜると混ざらないこともない。そういう間柄ですかね」 (『LJ』下巻p348)
合田さんと加納さんの関係を久保っちに聞かれて、答えた加納さんの台詞。・・・よく判るようで判らん・・・義兄の発言は意味が深すぎて(苦笑)

狼狽する人たち

2004-12-31 00:51:47 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
いつまで続くか、この「○○人たち」シリーズ。

昨日12/29は、第五章 のp276~307まで読了。残り約130ページ。読み終わりたいような、読み終わりたくないような。

城山社長は酒田泰一代議士と不快で無礼な対面を。そこで秘書の青野昭二から、警察に内部告発文書を送ったのが倉田副社長だとほのめかされ、衝撃を受ける。
東邦新聞社では、根来さんが行方不明に。会うと約束していたネタ元(と思われる人物)から捜索願を出すようにと言われ、騒然・茫然とする久保っちたち。
そのネタ元、加納さんは合田さんの部屋に駆け込み、根来さんの失踪とその経緯と結果を、涙ながらに語るのだった・・・。

***

さて、爆弾が3つ落とされました。

1.城山社長が衝撃受けた内部告発者が、よりにもよって腹心の倉田副社長。しかしまだまだ衝撃の事実が顕わになるのです。お気の毒です、城山社長。

2.根来さん、失踪。公安にもツテのある菅野キャップは、根来さんが危ない橋を渡っていることに気付いていたようですが、既に時遅し。

3.そして最も衝撃を受けたであろう、加納さん。何とか根来さんに報いてやりたかった。だが検察内部で相談した相手が、そのテの筋と繋がっていることが解らなかった。公私の「公」を抜いた付き合いが出来る、飲み友達・読み友達の根来さんとの関係、「公」を入れた途端、根来さん失踪という手痛いしっぺ返しが待っていたのは、皮肉といえば皮肉。
検事としての義兄の姿を、普段は窺い知ることが出来ない合田さんにとっても、うろたえ取り乱した義兄の姿を見て、初めて知ることが出来たのも、皮肉といえば皮肉。
そんな義兄を見ていても、「この男は何者なのか」という疑問は尽きない合田さん(苦笑) はふ~(ため息)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は義兄弟関連に絞ってみました。城山社長&根来さん、ごめんなさい。

★「こうして人ひとりの命が奪われていくのを、誰が止められると思う。末端から中央まで、金の動くところには必ず暴力がひそんでいる。裏が表に出るのを押さえる暴力だ。事情を知っている者が自殺したり、消されたりする。ジャーナリズムも脅かされる。警察や検察は、上の方で圧力がかかる。これも暴力だ。そうして守られる者たちがいる。守られるシステムや構造がある。一人や二人摘発しても、根が張り過ぎていてシステムはびくともしない」 (『LJ』下巻p290)

★「政治や経済の根幹に近いところで流れる不正な金については、それが表に出ることを阻む暴力が働くんだ。システムを守ろうとする暗黙の膨大な力だ。沈黙。自殺。スケープゴート。失踪。何でもありだ」 (『LJ』下巻p293)
入力してみて気付いたのだが、加納さんが説明してくれると良く解るなあ・・・。

★被疑者を恫喝することも見下すこともない冷静さを常に保ち、必要な礼節は欠かさず、話はよく聞き、なおかつ心にもない言葉は決して吐かない。そういう義兄は、検事という職業に就いて、せいぜい人を徹底的に疑うことを身上としてきたとはいえ、基本的には誠意の人なのだった。 (『LJ』下巻p295)

★他人ならば、相手の心情を思いやるだけで済む。しかし義兄については、思いやるだけでは済まない何者かだということを、合田は今、考えていた。(・・・略・・・) 自分の目の前で泣いている男一人はこの自分にとって何者なのかという唐突な疑問に駆られて、合田はしばし、知らない人間を前にしているような気分で、義兄の顔を眺めていたのだった。
(・・・略・・・) 
いや。知らない人間ではもちろんなかった。この一年余り、公園でヴァイオリンを弾きながら、ほとんど毎晩のように、無意識のうちに遠くの人影を眺めては義兄が訪ねてきたのかと思い、人影が他人だと分かったら分かったで、義兄は今ごろ何をしているだろうとぼんやり思い巡らせてきた、その当の人物を今、あらためて眺めながら、むしろそうして毎晩思い浮かべてきた男一人が自分にとって何者なのかと考えた、というのが正確なところだった。
 (『LJ』下巻p295)

★合田は、これが自分のエゴから出た発想だということは分かっていた。この義兄には出世してほしい、自分には望めない社会的地位を築いてほしい、いや、永遠に自分の精神的な拠りどころであってほしい、頼れる存在でいてほしい、この自分に弱みを見せないでほしいと、常に心の中で要求してきた、そうしたエゴが、思えば義兄に対する十八年の自分の思いの大半を占めていたのだということに、一方では思い至ると、合田はだめ押しの深い困惑を味わった。そうして先ほど答えの出なかった自問に立ち返り、<以前はそうだったが、今は少し違っているのだ>と思いながら、合田は、義兄を掴んでいた手を離した。 (『LJ』下巻p296)
「義兄・加納祐介とは一体何なのか、という問いかけ」第二弾? 今回読んだところだけでも、しつこいくらい出てきます(苦笑)

★「俺のために、行ってほしい」 (『LJ』下巻p296)
出ました、合田さんの殺し文句! こんなの言われたら、義兄は行くしかないでしょう~。ああ、お気の毒な加納さん・・・お辛いでしょうに・・・合田さんのために行くのですね・・・ 

★義兄は「俺は弱いな……」と独りごちた。「それも悪くない」と合田は応えた。舌足らずな返事になったが、合田としては、こうして人に頼られるのも悪くないとふと思ったのと、自らの弱さを認める義兄も悪くはないという思いから出た言葉であった。 (『LJ』下巻p297)
ああ・・・こんな義兄弟が好きやわ・・・ 

それでは今から続きを読んでから寝ます。 

壊れつつある人たち

2004-12-29 00:21:40 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
・・・昨日のタイトルと何がどう違うのかと聞かれると、話が長くなるので無視して下さい(笑)

本日は、第五章 のp256~276まで読了。今までの最低記録か。
いよいよ『LJ』中、最長のセクションで最大の展開と転回を見せる、「第五章の2」が始まりました。

ニセ新聞記者に陥れられ懲戒免職になった合田さんの同僚・安西さんの引越しの日、LJは今度は毎日ビールに狙いをつけ、赤いビールが発見された。「消エルコトニシタ」というLJからの手紙は嘘だったのかと困惑する城山社長。
合田さんは、「これは半田ではない」と確信。今なら状況証拠で落とせる、引っ張れる、と思うのだが、警察上部は動かない。いらだつ合田さん。
根来さんも同様に、LJ関連の記事に追われつつも、何をしているのだとイライラしている様子。仕手の秘密グループに興味を抱いている、検事の加納さんと会う約束を取り付けた。
城山社長は、総会屋絡みの一件で、民主党代議士・酒田健一に会おうとしている。

***

読んだ量が少ないが、内容は濃いのです。明日読むところから、ドッカン、ドッカンと爆弾が爆発するような感じですから。

今回のツボは、合田さんの読書についてでしょう。学生時代に読んだなるべく長い本を再読。合田さんが読んだ作品だけ挙げておきます。
 七月に読んだ作品 
『ブッテンブローク家の人々』 『ユリシーズ』 『大菩薩峠』
 八月に読んだ作品 
『カラマーゾフの兄弟』 『ジャン・クリストフ』 『チボー家の人々』 (以上、『LJ』下巻p264) 

ちなみに私はどれも読んでません(苦笑) 『ジャン・クリストフ』は中学生の時に挫折した。この中でとにかく読んでみたいのは、『ブッテンブローク家の人々』と『チボー家の人々』ですね。前者は 復刊ドットコム ブッテンブローク家の人々 で復刊受付中。読んでみたいと思われた方、ぜひ一票お願いします。

ところで、合田さんの半田さんへのしつこいくらいの思いを読むたびに、「合田さん、壊れたらあかんよ~」と胸が痛みます。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★「君って、最後はいつもこれなんだ。キレるのが、人より一分早いんだなあ」 (『LJ』下巻p259)
安西さんの、合田さん評。これが後々祟ってくるんですよね・・・。

★自分が正常であろうとなかろうと、そんなことはどうでもよかったが、ふと、自浄能力のない兜町のドブは二十一世紀には廃墟だな、と思ったりした。 (『LJ』下巻p273)
根来さん、相変わらずです。現在、二十一世紀に入りましたが・・・聞けるものなら、根来さんに感慨などを尋ねてみたいものですが・・・。うう~(←先がどうなるか知っているだけにジレンマ)

破綻しそうな人たち

2004-12-27 23:42:28 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日は、第五章 一九九五年秋--崩壊 のp229~p256まで。

二十億取ったとはいえ、LJの面々の生活はあまり変化はないが、問題も発生している。警察にマークされている物井さんの生活は変わらず、ヨウちゃんとのんびり(?)過ごしている。高克己は実家の会社を継ぐため、結婚することに。懲りずに(?)半田さんにまた一儲けしようと持ちかけるが、一蹴される。布川さんは、奥さんがレディの世話からくるノイローゼにかかり、現在、植物人間状態に。そのせいで布川さんは仕事をやめたと言う。
そして物井さん同様、警察の行確がついている半田さん。犯行直後についたことに驚嘆しつつも、証拠がないから逮捕はまずないと思う。そして、半田損を更にマークする、白いスニーカーの人物とは・・・。

***

一番最初に破綻しそうな不運な布川さんだが、誰にもどうすることは出来ない。レディは障害児だし、世話に疲れた奥さんは火事は起こすは、ガスを吸って自殺未遂の挙句、植物人間状態。
「気の毒だ」と同情はしても、それ限り。出来ることと出来ないこと。それにはどちらも限度がある。
・・・考え出すと、辛い。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★ は、本日はおやすみします。


もう一人のレディ・ジョーカー

2004-12-26 23:13:51 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
12/24(金)は、第四章 のp176~p226まで読了。つまり第四章、読了。

LJから本物の現金輸送の指示が来て、日之出ビールは発送。その後、城山社長の義弟・杉原武郎が電車に飛び込み、自殺。
根来さんが取材を頼んだフリージャーナリストの佐野さん、失踪。根来さん、警戒感を強める。
警察には、某人物からの内部告発文書が届く。しかしさまざまな事情を抱えるらしい幹部の反応に、合田さん不信感と孤独を抱く。
父を亡くした糸井(旧姓・杉原)佳子さんに事情を説明するために、城山社長は面会するが、結局は何も言うべきことはない、今回の事件の根源は自分かもしれないという考えに思い至ったのであった・・・。

***

しかし、事件は何一つ片付いてはいません。第五章、終章と進むうちに、ある人物には完結、ある人物には納得、ある人物には不本意な結末が待ち受けているから。・・・どれも暗いな(苦笑)

第四章を読了して、新たに判ったこと。レディ・ジョーカー って、もう一人いたんだ、と。布川さんの娘・レディだけがジョーカーだと思っていたが、佳子さんもジョーカーだ。
 以下、ネタバレあり。 
学生時代の恋人だった、秦野孝之の自殺同然の事故死。その父・秦野浩之の電車への飛び込み自殺。伯父の城山恭介の誘拐・監禁、加えて「人質」への身代金支払い。その後の父・杉原武郎の電車への飛び込み自殺。
佳子さん自身が無邪気にも不用意なひと言を言ったがために、傷つき、更に命を絶った男たち。

だけどその報いは、佳子さんにも当然あって・・・。
この五年の間に、佳子は五十年分の歳を取ったのだ (『LJ』下巻p225) と、城山社長は述懐しています。
そして佳子さんは、表舞台から消えていくのでした。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★亡くなったのが誰であれ、その死を悼むのは個々人であって会社ではないし、現実ではほとんどの個人も悼む理由を持たない。 (『LJ』下巻p205)
杉原さんの死後。それでも会社・組織は運営している。

★三月二十四日に始まった事件のすべてが、今は自分の中に新たに座り直したのが分かった。事件の細部という細部が、城山恭介が、半田修平が、今は自分の心臓のすぐ近くにあって、心臓を直にもみしだいているのを感じると、俺のレディ・ジョーカー、俺の獲物、という思いがやって来た。 (『LJ』下巻p221)
きたきたきたーっ! これでこそ合田さん!

★合田は深呼吸をし、最近あまり見ることもなかった夜空を仰いだ。星のない曇天だったが、人間一名を包み込む天空の大きさにかわりはなく、この空の下で人間は独りだ、自分の声を聞くのも独りなら、己の理性も感情も、種々の価値観も独りだという、いつもの単純な思いをもった。自分はいずれ半田修平を絞め殺すかもしれないと感じつつ、なぜだと自問することもなく、自分は精神の均衡を失っているかも知れないと感じつつ、義兄に助けを求めることも考えなかった。それほどに、その夜の合田は独りだった。 (『LJ』下巻p221~222)
その直後に急転回(?) しかしこういう一面も、合田さんが合田さんである所以なんですよね・・・。

★そうだ、俺は知りたいことがひとつもない。見たいものも聞きたいものもないのだ。そう思い至ったとたん、根来は自分の人生が今ある、その姿や中身や状態のすべてをすんなり呑み込み、これでいい、悪くない、と独りごちた。 (『LJ』下巻p224)
『LJ』全体で、最も悲しい文章の一つだと、私は思っている。

★君も変わっていく。ぼくも変わっていく。お互い、自分がどこへ向かっているかは未だ分からない。 (・・・略・・・) 「少しずつ生きていこう。ぼくも君も、今はそれしか出来ない」 (『LJ』下巻p226)
さまざまな事件や死を乗り越えて、ある種の境地に達することが出来た人間だけが放てる言葉だと思います・・・。

♪タカラヅカ オーレ!♪ (←違う)

2004-12-24 00:48:16 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
タイトルは宝塚歌劇団のショーの名前。確か天海祐希さん(愛称・ゆりちゃん)がトップの時の演目だったと・・・。

昨日(12/22)は、第四章 のp146~176まで読了。

LJから第三回目の現金輸送を命じられ、今度こそ犯人の身柄確保をと警察は躍起し、東邦新聞社も特ダネを逃さぬために、現場を探す。合田さんも配備され、LJと思われる車を阻止。ところがそれは、LJが仕立てたダミーの人物。つまり誤認逮捕という失態をしでかした警察だった・・・。しかしこの一件で、警察内部に犯人の一人がいることが、ますます確実に。

***

ああ、あらすじ書くのも難しい(苦笑)
今回のツボは、「闘牛場へ行け」 (『LJ』下巻p162) とイヤミ言われた合田さんですね。着ていたジャンパーを、突っ込んでくる車のフロントガラスに投げつけて。ひゃー、カッコイイ~! こういう合田さんも好きだ 

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★仕事だから、やる。要求されたら、やる。しかしそれは、一つは己の家族を養うため、もう一つは、今の形での全国紙から社会面の特ダネがなくなってしまったら、商品としての存在価値がなくなってしまうからやるのであって、特ダネを抜くことが、時代や社会や自分と言う個人にとって必要だからではなかった。 (『LJ』下巻p165~166)
久保っちの想いに共感するサラリーマンも、多いと思う・・・。

★組織では、失態の責任は誰かが取らなければ収まらないというだけのことだった。 (『LJ』下巻p173)
車を止めたのに、注意され叱られた合田さん。このことにも共感する社会人は多いと思う・・・。

それではおやすみなさい。 

「いただきます!」 「飢えてたのか」 「飢えてた」

2004-12-22 00:41:33 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日は、第四章 のp115~146まで読了。

今日は接続が非常に悪くて、こんな時間に。読んだ部分のあらすじと、本日の名文・名台詞  からなのセレクト は、明日にします。
タイトルの会話読んで、想像つく方はつくでしょう? 
ああ、義兄の手料理、食べてみたいなあ・・・。

映画を観た衝撃が大きすぎて

2004-12-20 22:10:32 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
昨日は読書せず。

本日は、第四章 のp85~115まで読了。普段はこんなペース。これだと読了は、マジで大晦日になるかもしれません・・・。

異物混入ビールが出たことで、株にも影響が。それを追っている根来さん、きな臭い匂いを感じる。それてはまた違うところで、城山社長の客・田丸善三に、合田さんも胡散臭いものを感じる。
城山社長は警視庁が提示した、LJがいるかもしれないと思われる重要参考人の声のテープを聞かされる。合田さんは社長の一挙手一投足を見つめつつ、テープを聞いて身内(=刑事)がいることに仰天。・・・あいつかもしれない、と思い至る。
久保っちは、物井さんの薬局に偶然を装った客として入り、何か怪しいことがないかと探りを入れるが、薬局出た後に、刑事が尾行&薬局の見張りをしていることに気付いて、混乱。

***

久しぶりに物井さん&ヨウちゃんが登場。第三章では、名前すら出てこなかった。でも、そこが秀逸なんですよね。誘拐の一件は城山さんの視点から描かれたので、誰と誰が誘拐を実行して見張りをしたのか、解らないようになっている部分が。(だいたいの推測は出来ますが)
ヨウちゃん、相変わらずなので微笑ましい。

合田さんは、「神はいるのか」と思うのと同じくらい、事件が起こるたびに「俺は刑事に向いているのか、刑事を続けられるのか」という気持ちを抱き続けている。警察という組織に属していながら、反感や嫌悪を感じる気持ち。それでも刑事という職務をこなさなければならない、矛盾を感じる想い。今回もそれが吐露されている。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★具体的な一つ一つの事柄ではなく、自分を包み込んでいる時代と社会のトンネルはどこまで続いているのか、もういい加減、空を見たいといった獏とした息苦しさだった。振り返っても後ろには何もなく、行く手にも何もない。 (『LJ』下巻p96)
どうして『LJ』の根来さんは、こんなにも暗いのか・・・。『マークスの山』 の根来さんは、合田さんの返答に苦笑程度に微笑んでいたぞ。『LJ』で笑っているところって、上巻で菅野キャップがトマトジュースにウォッカを加えた場面だけだと思う。

★「拾った子犬の名前が《犬っころ》。保健所の予防接種の登録も《犬っころ》。片仮名じゃない、ずばり漢字と平仮名で。どうしようもないやね……」 (『LJ』下巻p111)
と、ヨウちゃんに呆れる物井さん。
ホントに犬の名前に、犬っころ と名付けた方がいらしたら、ご報告お願いします~ 

明日は映画を観に行く

2004-12-18 23:52:48 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
ので、簡単に。そして支離滅裂。

本日は、第四章 のp46~p85まで読了。
合田さん、平瀬さんとの不快な打合わせ(?)の後、義兄とのつかの間のひととき。(←いきなりこれかい、あんた・・・) 城山社長、不慮の事故(?)で、LJからの目印に気付かず。代わりに合田さんが気付いてしまう。そして異物混入の瓶ビールが発見。対応に追われる日之出ビール。

今日の個人的なツボは、義兄弟。物語始まってから、やっとツーショットでご対面しての会話ですよ(笑) 電話でのやりとりはあったけどね。上巻での根来さんとのピクニック、根来さんが来る前はどんな会話をしてたんだろう? 二子玉川の高島屋で、大人の男二人の買い物・・・想像つかない(苦笑)

合田さんがLJからの合図に気付く場面。・・・あなた、人間ですか?(爆) かつて「ロボット」と称されたこともある合田さん。その謂れが解ったような気がしましたわ。

そんな合田さんだが、刑事に向いてないんじゃないかと迷う場面もあり。
いえ、あなたは骨の髄まで刑事です。刑事でいてくれなきゃ困ります。あなたが刑事でなかったら、私はあなたに興味を抱きはしない。だから求人広告の切り抜きは捨てましょう(笑)

今日読んだ部分、ヴァイオリンの話題が出ているのが、たまたまでしょうが、多い。
「チャイコフスキー、パガニーニ、ヴィエニャフスキ、ヴュータン以外でしたら、大抵のものは」 (『LJ』下巻p83) 弾けるんだそうです。スゴイですね、合田さん。 

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★人の衣類にアイロンをかけているこの男は何を考えているのか、自分にとって何者なのかと、そのときもまた、合田はちょっと考えざるを得なかった。 (『LJ』下巻p51)

★合田は義兄と過ごしている間にいつも、少し気分が落ち着いてくるのだった。同時に、その隣には、この義兄の妹との結婚生活がうまくいかなかったのはなぜだという思いが離れがたく張りついていて、それも、この男は自分にとって何者だと自問する一つの理由になっていた。 (『LJ』下巻p52)
合田さんにとって、義兄・加納祐介とは一体何なのか。この問いかけは、後々まで出てきます。

★警察には、具体的な脅迫や動きがない限り、将来起こるかも知れない個別の事態に備えるような余力はないのだ。 (『LJ』下巻p62)
と、合田さんは思っているそうですよ、皆さん! だから「未然に防ぐ」という言葉は白々しく聞こえるし、出来ない。悲惨な事件が起こってから、初めて動くことが出来る組織。それが警察というものなんですね・・・。

躾の行き届いた端整な近衛兵

2004-12-17 23:00:22 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
城山社長が内心で評した、合田さんのこと。

下巻に入った本日は、第四章 一九九五年夏--恐喝 のp46まで読了。

犯行グループ・レディ・ジョーカーに振り回される、日之出ビール、警察、報道陣たち。根来さんは知り合いのフリージャーナリストにある件の依頼をする。
合田さんは護衛兼スパイとして、城山社長に黙々と付き従う。その城山社長は合田さんに対して、護衛なのかスパイなのか、よく解らない複雑な心境に・・・。

しかしだんだんと合田さんへ好感を持ちつつあるんですよね。その最たる出来事が、ビール工場での出来たての日之出マイスターを勧めて、合田さんは断りもせず飲み干した場面でしょう。
アルコールを勧めて気持ちよく、応じ方も気持ちのいい男 (『LJ』下巻p40) と、城山社長も太鼓判。

合田さんのアルコールの嗜み方は恐らく、別れた妻の父親と、妻の双子の兄・加納さんから教わったものと推測されます。十中八九、間違いないでしょう。だって合田さんの父親はお酒の飲みすぎで、肝臓を悪くして早くに亡くなったから。当時学生だった合田さんが、気持ちいいお酒の飲み方なんて、教えてもらえるはずがない。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★「貴方、目が刑事になってますよ」 (『LJ』下巻p40)
個人的に思う、白井さんの名台詞の一つ。合田さんに対する皮肉です。

あなたにほの字

2004-12-17 00:37:03 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
・・・という料理雑誌(?)が、昔、ありましたよね・・・? 母が持っていたなと記憶していますが。

『LJ』とは無関係そうな前置きかもしれませんが、全然無関係ではありませんのよ。

本日は、第三章 のp391~p426まで読了。つまり上巻読了。明日から下巻です。

日之出ビールに、犯行グループ・レディ・ジョーカーから予告状が届く。取締役会議で再び話し合った結果、警察に届けることを決める。城山社長、ボディガードをつけるようにと神崎秀嗣・警視庁捜査一課長から要請され、渋々受諾。ボディガードに任命されたのは、合田さん。

・・・と、主要なあらすじはこんなもん。しかし個人的に嬉しいあらすじは、何てったって、加納祐介さん初登場! そして加納さん・合田さんの義兄弟と根来さんとの、多摩川ピクニック~♪(笑)

合田さんと電話している時や、合田さんがふと思い浮かべる時は、「義兄」と表現され、根来さんと電話している時は、「検事」と表現されていた加納さん。やっとお名前とお姿が登場したのは、p421でございます(これは特筆!) ここまで引っ張ってくれるとは~! さすが高村さんでございます。

***

高村薫読者はご存知でしょうが、高村作品には、特に最後の方にちょっとした「爆弾」があります。何の前触れもなく突拍子に仕掛けられた爆弾が爆発するので、読み手が受ける衝撃は大。
今回の『LJ』上巻の爆弾は、言わずもがなの多摩川ピクニック。根来さんの思考でしょう。
・・・結局は当たってるんだから、何をかいわんや。

ところで神崎さんが食べた「ラングスティーヌのソース・アメリケーヌ風」って、むっちゃおいしそう。食べてみたいなあ~って、ラングスティーヌって、何?

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★何が、と特定できない隠微な不安が警察組織のすみずみに満ちている。それが緊張の空気をつくり、ときにヒステリーやノイローゼとなって噴き出す仕組みは、こんなふうに出来ているのだった。 (『LJ』上巻p412~413)

★言葉の一つ一つ、ページの一行一行から溢れ出る一人の人間の、とてつもない息吹、信念、情熱、優しさ、脆さ、危うさ、美しさに打たれ、人間が物を考えることの偉大さに触れ、生きていてよかったと思わせる悦びに満ちているのだった。だから、開くのはどのページでもよく、ストライキの話であれ、神の話であれ、自分に書き送られてきた手紙のように数ページを読み、その真剣な眼差しを受け取って心が洗われ、半世紀も前に死んだ女性に感謝しつつ、それではおやすみと本を閉じるのだ。 (『LJ』上巻p420)
根来さんが無人島に持って行きたいほど愛読している、シモーヌ・ヴェーユとその作品に対して。これと同じ思いを、私は高村さんとその作品に対して抱いています。

★誰も飢えていないところへ流れるニュースに、痛みは伴わない。旗を振るような人類共通の関心事などこの世にはなく、全人類を包括するような万能の思想も体制もない。あるのは、人間の小さな群れとそれぞれの生活と、どうでもいいシステムと、物を作って消費する自動運動だけだ。 (『LJ』上巻p421)

★それでも、ごくわずかなやり取りの中に義弟に対する親密な情を覗かせるとき、この検事はたしかに生身の何者かになるのだった。無意識に人を庇護する立場に立ちたい男の本能。あるいは生来の世話好きな性向。あるいは、人知れず積み重なってきた人間関係の歴史。あるいは、ひょっとしたらそんなこともあるのかも知れない、一人の男に対する《ほ》の字。 (『LJ』上巻p422~423)
私は本を選ぶ時、必ずといっていいほどラスト辺りを読んで、購読するかどうかを決めます。これも例外なく上巻・下巻ともラスト辺りに目を通して、選びました。
・・・思いっきりのけぞりましたが(爆)


それではおやすみなさい~ 

根来史彰という男

2004-12-15 23:07:32 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日は、第三章 のp360~p391まで読了。明日には上巻読了できるでしょう。いや、読了します。

根来さん、危機一髪(?) 城山社長、事件後初めて家で一夜を過ごすものの、マスコミの攻勢の餌食に・・・? 合田さん、半田さんの意味ありげな視線に「気のせいか」と思いつつも不信感を抱く。再び城山社長、対応に追われる。
あらすじに無関係なことで個人的に嬉しいことは、根来さんが電話をかけたおかげで、義兄のお声が~♪ そして合田さんも電話で義兄とお話して、義兄は城山社長のことを《口は開いても心は開かない、確信犯のタイプに見える》 (『LJ』上巻p378) と仰せに。しかしそのお姿は未だ現れず。

***

今日は根来さんについてちょっと語ってみようか。
初登場は、『マークスの山』 で、捜査に行き詰まる合田さんに接触した記者さん、という役どころ。
ところが単行本版と文庫版では、受ける印象がえらく違う。簡単かつ極端に言えば、単行本=陰 文庫=陽 という感じ。
高村薫さんは単行本から文庫にする際は、とことん加筆修正することは再三述べましたが、まさか根来さんのキャラクターにまで手を加えるとは・・・。単行本から文庫になった 『マークスの山』 で、驚いたことの1つだ。
だから文庫版 『マークスの山』 を読んだ方で、『レディ・ジョーカー』 を読まれた方は、根来さんのキャラクターの違いにビックリされたのでは? と思う。

昨日今日読んだ部分の根来さんについて特に思うのが、合田さんは除いて、根来さんが高村さんの心情を吐露している、一番の代弁者になっているんじゃないかなあ、と。
ちょうどこれを「サンデー毎日」で連載されていた頃の高村さんの年齢と、根来さんが最も近いと思うから。まったくの同年代と言ってもいいだろう。
根来さんの懐疑は、高村さんの懐疑。根来さんの悲憤は、高村さんの悲憤。

以上は私が感じたことなので、決して正解(?)ではありませんからね。こういう感じ方を私はした、と綴っただけです。

ところでそういう根来さんを「史ちゃん」と呼ぶ、恐らく唯一の人間・警視庁キャップ・菅野哲夫さんって、一体どういう人物なのか・・・? ちょっと気になったりして。だって「史ちゃん」に対しては、言葉遣いがえらく柔らかいんだもん(笑)
(「すがの」「かんの」のどちらで読むのかは不明。ルビが振ってないから。私は「すがの」で読んでます)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回はちょっと皮肉めいたものばかりかも・・・。

★「評論家だって考えは変わるよ。考えが変わったということを白状せんだけだ」 (『LJ』上巻p361)

★経済情勢や金融市場の質がどんなに変わっても、金を動かす人間の中身は変わらないということだ。 (『LJ』上巻p365)

★上はこの国の存立からしたはインスタントラーメンの味まで、いったいこの国はどうしてこうなのかという、どうでもいい懐疑に取りつかれて、袋小路に迷い込んだのだ。(・・・略・・・) 右も左も上も下も、物と喧騒と欲望で溢れかえったこの社会と時代に対して、自分の心が動かなくなったことが、今ある一番大きな懐疑かも知れなかった。
(・・・略・・・)
悪で腐るのと、嫌悪と懐疑で腐るのとでは、はて、結果に差があるのか否か。時代と社会を汚して終える一生と、それを嫌悪しながら終える一生との間に、どんな差があるのか、等々。
 (『LJ』上巻p371)

★「貴方、今日から暴君になるおつもりですかな?」 (『LJ』上巻p387)
個人的には、これが白井副社長の名台詞の1つだと思っています(笑)

日之出麦酒取締役会議

2004-12-15 01:26:53 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日は、第三章 のp330~p360まで読了。
昼間録画予約していた、タカラヅカを観ていたので、こんな時間になってしまった(笑)

城山社長の葛藤と苦悩は、まだまだ続く。腹心中の腹心、倉田副社長の態度に疑問符。身代金は二十億、しかし警察には六億と言え、と犯人たちに言われたことを告げる城山社長。そして幹部たちのさまざまな反応・・・。

一方、東邦新聞社の警視庁詰めの記者・久保晴久は、ネタを取ろうと必死(?)の接待。遊軍長・根来さんも、そろそろ危ない橋を渡りかけつつある・・・?

***

日之出麦酒の首脳陣って、絶妙な配置だと思う。城山社長と倉田副社長は同じビール事業本部出身の営業マン。片や白井副社長は事業開発本部出身の経営&企画マン。
城山&倉田のご両人の、弛まぬ地道な努力で売りさばいてきた営業気質と、白井さんの先進的な考えは相容れないだろうけれど、いざ、重大な事が起こると、城山&倉田のご両人は、白井さんの的確な分析・判断と軽やかな物の見方に、助けられていると思うんだ。
それに城山社長の革新的な提案にも、他の取締役は難を示すのに、白井&倉田の両副社長は、それぞれの思惑があるとは言え、賛成・賛同しているしね。
特に白井さんは、一服の清涼剤の役割を果たしているものね。新製品の「日之出マイスター」の完成品、最初に「美味い」と口火を切ったのは白井さんだもん。その後に他の幹部も口々に褒めて。
難題抱えた今回の取締役会議も、絶妙な采配、そして口止めも忘れずに(笑)
ホンマに白井さんが出ると、ホッとします 

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★嘘と言っても、三百五十万キロリットルのビールと比べるまでもない小さな嘘に、どれほどの意味があるのか。姪一家のためというが、佳子と哲史は自分にとって何者なのか。自分が戻って来たのは、会社のためか、家族のためか。
最後の問いだけは、答えを知ってる、と城山は思った。誰のためでもなく、たんに死ぬ勇気がなかったのだ。
 (『LJ』下巻p344)

★根源も論理も必然も欠いたまま、天皇とか、民主主義とか、差別といったそれぞれの塊は今や、車の排気ガスやカラオケの騒音に混じって、時代の只なかに不可視の綿埃のように漂っている、と根来は思う。 (・・・略・・・) 成長も消滅もせず、誰も取り除かず、誰かが関わりをもっているのだが、すでに社会的合理性を失い、言葉の喚起力を失って、それでも現にたしかに在るのは間違いない民主主義の綿埃に、根来はなすすべもなく苛立つのだ。 (『LJ』下巻p359)

城山社長の屈辱、憤怒、嫌悪

2004-12-13 20:33:09 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日は、第三章 のp303~p330まで読了。
根来さんは謎のタレコミ電話を受けて。城山社長は警視庁の事情聴取を受けて。胡散臭い、きな臭い匂いがプンプンと。

城山社長、お気の毒だ~。誘拐された被害者なのに、根掘り葉掘りと、まるで重箱の隅を爪楊枝でつつかれるように。
警察の取調べって、まあ凄いよ。私もとある出来事の被害者として、取調室に入った体験があるから、よく判る(しみじみ) こっちは被害者なのに、段々と加害者のような気分を味わわされているような・・・。ホンマに、今思い出しても腹が立つわ 

しかし城山社長の抱えてしまった出来事の問題の恐怖は、これからが本番に。


***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★警察署というのは、明らかに一般社会とは違う時間が流れ、違う言葉が話されているだけでなく、いったん入ったが最後、外からは完全に遮断され、閉じ込められたような閉塞感を覚える場所だと、城山は再々考えた。犯罪者はもちろん、被害者も、一般市民も、ここではまず謂われのない孤独感にさいなまれるように出来ているのだ。 (『LJ』上巻p308)

★敗北するときには敗北するしかないにしても、敗北の仕方というのがある。 (『LJ』上巻p326)

誘拐、解放、そして・・・

2004-12-13 01:10:49 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
外出したので、本日は、第三章 p226~p303まで読了。その内の半分は、約50分待たされたレストランで読了。寒くて寒くて、現在頭痛がひどくて・・・。(その詳細はHPの戯言で書きます)
だから今日も思いっきり手抜き。接続も悪いから、こんな時間になってしまった。

誘拐された城山社長の葛藤が延々と描写されているのが、すごい。死のうと思って、死ねなかったところも。

そして、やっとこさ義兄のお声が~。根来さんとの電話でなので、その麗しいお姿はまだ現れてはおりません。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
城山社長の名台詞以外は、新規追加です。

★「男の三十代半ばは難しいですね」 (『LJ』上巻p253)
そういう義兄も、三十代半ばの男。微笑ましいな、加納さん。

★『ビールの味に限界があると思う人は、試作品作りに加わるな』 (『LJ』上巻p263)

★不本意な現場で不本意なミスをしでかして、これ以上組織の中で自分を貶めるのは、自尊心が許さなかった。だいいち、四月には三十六になる男一人、刑事をやめて、ほかに何で出来るというのか。  (『LJ』上巻p278)
ああ、これが合田雄一郎の合田雄一郎たる所以ですね・・・。こういう合田さん、好きなんです。惚れ惚れします