あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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♪人には終わりがあるように 花さえいつかは散ってゆく♪

2005-08-08 23:38:57 | 照柿(単行本版) 再読日記
8日(月)の 『照柿』(講談社) は、第四章 燃える雨 p435からラストまで読了。

今回のタイトルは、「ヅカの女帝」こと、ハナ(花總まり)ちゃんの歌声でどうぞ♪

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
最終回なので、出来るだけネタバレしないように、ツッコミもほどほどに、なおかつ張り切って参りましょう~!

★大阪の食い物屋で昼どきに空いているといえば、高いか不味いかのどちらかしかないのに。 (p443)
はい皆さん、大阪へ来て食事をする時は、この一文を思い出して下さいね(笑) 私見ですが、大阪のキタよりはミナミの方が、安くて美味しいお店が多いと思う。(そうでないお店もありますけど)
これは推測ですが、達夫さんは阪急×番街で食事したんじゃないかなあ・・・? 違うかな。

★自分のほんとうに望むことをする心地よさなど、所詮は大したものではないが、達夫は今、かつてない身軽さをたしかに感じていた。重かったものを全部東京へ置いてきてしまったからというのではない。これは何かをなし遂げた末の身の軽さだった。あるいは、最後の札一枚をめくってしまったときのような、つなぎとめられていた綱一本からやっと外されたような身軽さだった。 (p448)

★俺は殺した。俺が今いるのは《ここ》だ。
しかし、この先どこへ行くのだろう。自分の行き先に一点の光明も見えないのは、昨日までと大して変わったようにも思えない。《殺した》という実感や罪の重さの認識は、いつ、どんな形でやってくるのだろう。ここから何が始まるのだろう。無限に続く暗夜だろうか。
 (p448)
上記二つの引用は、一線を越えてしまった達夫さんの心境のピックアップ。

★そして、自分は、達夫には何ひとつ与えもしなかったし、与えるものも持たなかったのだった。加納貴代子に、加納祐介に何ひとつ与えなかったように。
そして、自分という池に注ぎ込んでくれた達夫の源流は、自分の知らない十八年の間にどこをどう流れていたのか、今は氾濫してめちゃくちゃになっているのだった。
 (p454)

★「達夫と俺の関係は、いつも抽象的だった。……具体的なものは何もなかった」 (p473)
上記二つの引用。『マークスの山』 でも 『レディ・ジョーカー』 でも、合田さんは「対極の位置」にいる人物に、シンクロに近い状態になってしまいます。刑事としての習性なのかもしれませんが、今回は幼馴染み相手だから、さぞやり辛かろう・・・。

★「俺は……たいていの人間に不快感を感じるからな。しかし、それと悪意は別だ」 (p475)
「合田さん、自らを語る」・その1。クライマックスを飾る、八係の主任・辻村さんとの対話の中で、達夫さんのことを語ろうとすると、いやでも自分自陣のことを語らざるを得ない状況に陥っている合田さん。そうですか、《不快感》を感じることが多いんですか。逆に、感じなかった人間は誰なのか、教えていただきたいものですわ。

★「合田さん。あんたは普段なら絶対やらないようなことをやったんだ……。分かるか?」
「……ああ。分かる」
 (中略)
「合田さん、しっかりしてくれ。あんたらしくないぞ……」 (p478)
『照柿』 を端的に表すと、この辻村さんの台詞が最もふさわしいでしょうね。刑事として、やってはいけないことをやって、身動きも取れずに、がんじがらめになって「暗い森」へ迷い込んでしまった合田さん・・・。

★開けっ放しの窓から入ってくる夜風のわずかな涼しさで、雄一郎はときどき東京を感じることがある。盆前の盛夏、大阪の熱帯夜にこの風はない。 (p479)
もう一つの主人公・「東京」と「大阪」の比較。「大阪」に住んでいる私にはリアルに感じられる描写ですが、「東京」にお住まいの方は、いかがてしょうか・・・?

★「俺は、自分の感情に名前をつけるのに時間がかかるんだ」 (p484)
「合田さん、自らを語る」・その2。美保子さんへ対する想いを「恋」と認識したのも、遅かったものね。

★灼熱の臙脂色を放って燃えているという雨が、雄一郎の脳裏にも降り注ぐ。照柿の雨が、カラス一羽に油絵の具を塗りたくって殺した男の魂を包み、人ひとりを未来の人殺しだと断罪した男の魂を包み込む。 (p494)
ここまできたら、ノーコメントを貫きましょう。

★美保子の姿は、それを見て恐怖を感じる醜悪な人間の鏡だった。つい二ヵ月前に一目惚れしながら、顔貌ひとつ失われただけで逃げ出す人間の鏡だった。 (p497)
合田さんが加納さんに宛てた手紙から引用。

★今、もう一度『神曲』を読み返しているのだが、ふと考えた。ダンテを導くのはヴェルギリウスだが、君が暗い森で目覚めたときに出会った人は誰だろう。
ダンテが《あなたが人であれ影であれ、私を助けて下さい》とヴェルギリウスに呼びかけたように、君が夢中で声をかけたのが
佐野美保子だった。恐れおののきつつ彷徨してきた君が今、浄化の意志の始まりとしての痛恨や恐怖の段階まで来たのだとしたら、そこまで導いてくれたのは佐野美保子であり、野田達夫だったことになる。そう思えばどうだろう。
ところで、小生も人生の道半ばでとうの昔に暗い森に迷い込んでいるらしいが、小生の方はまだ呼び止めるべき人の影も見えないぞ。
 (p497~498)
合田さんの手紙に対する加納さんの返信から引用。義兄はいつもラストを締めくくるなあ。

ラストといえば、高村薫さんの作品を、初めて本屋さんで手にしてパラパラと読んだのは、実は 『照柿』 でした。(初めて買ったのは 『李歐』(講談社文庫) ですけど)

これは私の本を選ぶ時の癖なんですが、「最後の方を読んで、それが私の琴線に触れたら、買って読む」 という、世間一般の読書人にあるまじき行為を、平然とします(笑) だから例のラストの合田さんの台詞にも目をひんむきましたし(当然、合田さんが言った真意は解らず)、この義兄の手紙なんて、とても三十代の男性が書く手紙とも思えず、「えらい老けた人やな~、きっと五十代やろな~」と勝手に思い込んでました。(ああっ、義兄ファンの方、石は投げないで~! )
この後に 『レディ・ジョーカー』 を手に取り、上巻での根来さんの独白と、下巻での加納さんの発言と合田さんの手紙でのけぞりましたけどね(笑)

そして、「読みたい! 読まなきゃ! 読もう!」 と固い決意をしたのだから、人生って分からんもんだ。(←大げさ?) こうやってブログ運営もやってるくらいだもの。
だから私にとって「暗い森」で声をかけてくれたのは、加納さんであり、高村さんの作品であるかもしれません。

衝撃の告白をして、ラストは綺麗にまとめることが出来ました♪ (←・・・どこが・・・?)

***

再読に約2週間かかりました。お疲れ様でした。

次の再読日記は、何にしましょうね。やるとしたら、秋か冬になるかと思うので・・・。秋冬の新刊の出版状況にも、左右されますけどね(笑)
ただし、『新リア王』 が出版されるなら、その前に 『晴子情歌』(新潮社) を再読する予定です。

♪面影を慕い続け あてどなくさまよう♪

2005-08-07 22:55:14 | 照柿(単行本版) 再読日記
6日(土)の 『照柿』(講談社) は、第三章 転変 のp379から 第四章 燃える雨 p435まで読了。

今回分を読んで再確認。『照柿』 は、8月2日から8月8日までの物語なのですね。読んでいるうちに「この展開では、どうもおかしい」と思ってたの。他のブログ記事で、「6日まで」とか「7日まで」とか書かれてあったので、混乱してしまった。(←他人のせいにするな)

『照柿』 の記事をアップした方で、たまたまこの記事を読んで、日にちが間違っていた方は、こっそり記事を訂正しておきましょう(笑)

今回のタイトルは、なつめ(大浦みずき)さんか、たかこ(和央ようか)さんの歌声でどうぞ♪

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
「合田さんも達夫さんも荒れてます」特集。

★階段を上がりながら、この右足は憎悪、左足は未練だ、などと雄一郎は考えた。一段ごとに入れ替わる。憎悪、未練、憎悪、未練。 (p380)
ドラマ版「照柿」 ではこの場面、実際に「憎悪、未練、憎悪、未練」と口にしながら、三浦友和さんが演じられてました。階段上る時に、皆さんもやってみましょう。(私はやらんけど)

★『某所より入手。問答無用。君の罪を、小生が代わりに負うことがかなうものなら』 (p380)
義兄、久々の存在感の示し方は、メモ用紙で。(ネタバレ) 
合田さんの不正を知った、 加納さんの心境。これを記しておかないと、以下の引用が要領得ないと思います。

★雄一郎は続いて《問答無用》の一語を咀嚼した。普段の中傷には耳を貸さずとも、たまたま目の当たりにさせられた義弟の不実に驚き、憤った男の一語だという気がした。遵法の精神と、社会に対する清廉潔白だけは守りぬくことを肝に銘じ、義弟も然りと信じてきた男の驚愕と動揺が伝わってくる。不正に大小はなく、身内の感情もないと言い切る男が、実は個人的な感情に駆られて、雄一郎の不実を激しく責めている一語でもあった。 (中略)
《問答無用》はむしろ、なぜなのだ、なぜなのだと自問し、うろたえ、思い余った末の一語かもしれない。 (p380~381)

★そして、最後の一文。雄一郎はそれを長い間見つめ、何なのだこれはと独りごちた。義兄の言う《罪》は、職権濫用そのことより、不実に落ちて生きている人間の弱さを指していた。あえて悪事と言わずに《罪》と言い、事を抜き差しならないところまで突き詰めて、あんたは何が言いたいのだと、雄一郎は虚空に呟く。人を罪人と断罪しておいて、その罪を自分が代わりに負うことが出来たらというのは、いったいどういう了見なのだ。何の権利があって、そんなことが言えるのだ。罪といえば、どちらも腐るほど背負っている者同士、誰が誰の罪を贖うというのだ。 (p381)
上記二つの引用。わずかな語句の書置きで、加納さんがこれほどまでに怒りを表明していることに、驚愕する合田さんと、私。ここまで「怒り」を読み取るのは、さすが合田さんですよ、と感心もする私。音信不通に近い状態もあったとはいえ、十六年の付き合いは伊達ではないな、と変に納得する私。
義兄の言動は、たとえわずかでも見逃せないですよ!

★雄一郎は今、ふいに自分を池だと思った。自ら自然に湧き出す泉ではなく、どこからか流れ込む水で潤ったり溢れたりするだけの池は、流れ込む源流を潤すことはない。細々とさまざまな人間の流れが注ぎ込み、退いていくだけで、何ひとつ与えることのない貧しい池だった。義兄が何と言おうと、人に何ひとつ与えることなく生きていること、そのことが自分の罪だった。
貴代子に限らず、すべての人間に対して、自分という男はそういう在り方しかできなかったのだった。
 (中略) 昔から、自分には何か欠けていると感じ続けたその正体を、雄一郎は自ら戦慄しながら見ていた。誰もほんとうには慈しむことのない人間がここにいる。 (中略) 人なみの常識と欲情だけはあって、心のない男がここにいる。自意識の塊だけの、化けもののような男が。 (p384~385)
ああ、やっと気付きましたよ、合田さん! 幼馴染みの達夫さんが、刑事の一線を越えさせようと画策していた秦野組長が、そして大学時代からの付き合いで、一時は「義兄弟」でもあった加納さんが、手段は違えども、合田さんの作り出した強固な「壁」を壊そうとしていたことに。
『照柿』 の隠れたテーマの一つが、ここにあります。

★女の孤独は相手に向かって爆発するが、男の孤独は相手からの逃避になる。暴力をふるう女は、満たされないことで愛を知るという矛盾を生きているのかも知れないが、暴力をふるわれる男は、それを受け止める懐の深さはない。 (p390)
これも「男と女」の在り方の一つですね・・・。これも、「純愛物の美しさ」に涙している人たちに読ませてやりたいわ~(苦笑)

★「美の世界と言うのは、突き詰めると悪趣味に行きつくもんだよ」 (p413)
笹井画廊店主の「美談義」。それはいやだなあ。こうならないように、肝を銘じておこう・・・。

★この三十数年で初めて得た身軽さ。初めて感じる身体の解放感。東京へ出て十七年、迂回に迂回を重ねた末に、遂に元の場所に戻ったというのではない。不快が不快の形をしていた、情念が情念の形をしていた時代の、己の居場所に戻ったのでもない。人一人殺すことで、それよりはるかに遡った無明長夜のどこかに、いや、原始のどこかにまで戻ったのか。壮大な身軽さ。そこからすべてが始まり、この先の未来しかない身軽さ。 (p423~424)
高村さんの文体の特徴が良く出ている箇所ですね。

明日は8日。残り約60ページ。いよいよクライマックス。明日には読了します!


♪かなわぬ恋とは 知りながら♪

2005-08-07 17:45:46 | 照柿(単行本版) 再読日記
5日(金)の 『照柿』(講談社) は、第三章 転変 のp333からp379まで読了。

前回紹介した達夫さんの、お前は今はどこにおり、これからどこへ行くのだ。 の一文は、今回と次回の読書分にも(多少はヴァリエーションを変えて)、さんざん出てきます。なので、ピックアップは省略。

ここまで来ると、あらすじ書くのも余計なネタバレになってしまう恐れが・・・。セレクトでとっくにしてますね(苦笑) ああ、矛盾。

そうそう、今回のタイトルもタカラヅカの歌です。出来れば、とうこ(安蘭けい)さんの歌声でどうぞ♪ いっそのこと、最終回までタカラヅカの歌でタイトルを統一しようか・・・(それほど知っているわけではないけどね)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
「合田さんも達夫さんも壊れそうです」特集。

★女も女なら、こんなふうにしか女に相対してもらえない男も男だった。せめてキスぐらいしよう。せめて、それぐらいさせてほしい。 (p354)
これを引用するのは、さんざん迷ったのだけど・・・。だけど合田さん、かわいそうやん。前回分で、一度でいいから会いたい。 と泣いたんだもの。合田さんの切なくて拙い気持ちが、美保子さんの思いもよらない行動で、踏みにじられそうになるかもしれなかったしね。
・・・さて、キスは出来たのでしょうか?(笑) (それはご自分でお読み下さい)

★同情。憐憫。当惑。責任。慈愛。欲情。 (中略) 美保子に対して、たった今、自分の胸にあるのは何だろうか。言葉は混沌と入れ代わり、最後に一つ、《畏怖》という言葉がぽつんと浮かんだ。 (p355)
恋に目が眩んでいた合田さんですが、ようやくというか、改めてというか、感じたようです。美保子さんという女の本性を・・・。

★一人一人が与えられた仕事を充分にこなせばそれでよく、誰にもそれ以上の義務がないとはいえ、たとえば炉が一つ壊れたとき、不良品が出たとき、責任を取らされる者とそうでない者との差は大きい。 (p356)
「これが労働社会」・その1。これが達夫さんの場合。
高村さんの作品が「労働者」に人気が高いのは、こういうことをきちんと書かれているからだと思う。「労働社会」ではどうしようもない理不尽なことがあったり、割り切れない思いのまま、うやむやのままであっても、折れなきゃならない時や場合もある。そんなところが共感を呼ぶんでしょう。

★男の顔の凹凸と身体のすべてが、一つ一つ達夫の目にそうと分かる不快さの形になっていく。ありとあらゆる不快なものが身体にうずまき情念と結びついていた時代の、自分の存在にもっとも逼迫した不快な手応えがあった時代の、さまざまな形が目の前の男一人の向こうに甦ってくる。
そうた、これだと達夫を独りごちる。目の前にいる人間の眼球を二つ抉り、喉から腹へ縦一文字に切り裂きたい衝動。そういう衝動にさらされた神経の不快さ、臓腑の不快さ、筋肉の不快さ。それらの不快さが身体に張りついていた時代の自分が、またここにいる。
 (p359~360)
・・・ここまで「不快」を描写しきった作家は、高村さん以外に私は知らない。

★拝島駅で一人の女に出会ったことが、俺の人生の分かれ目か。一目惚れなど、誰の人生にでも一度や二度はあるだろうに、この俺の一目惚れの中身たるや。 (p363)
自嘲気味の合田さん。だけどあなたの「人生の分かれ目」は、以前(『マークスの山』)にもあったし、これから(『レディ・ジョーカー』)もありますよ・・・?

★ある種の内部情報はいつも、恐ろしい早さでしかるべきところへ降りてくる。普通なら、問題になるはずのない小さな事柄が、こんなふうな形で降りてくる。 (p375)
「これが労働社会」・その2。これは合田さんの場合。(ネタバレ)  不正したのがばれました。  ま、自業自得だけどねえ・・・。そこまで狂ってしまうんだから、夏の暑さと恋は怖い(笑)

★「君は、俺の目には片輪走行の車のように見える。タイヤの一対はたしかに警察のレールの上にあるが、もう一対がどこに浮いているのが、俺には分からんのだ。しかし片輪走行は早晩、転倒か衝突か自爆だからな」 (p377)
合田さん直属の上司、七係の係長・林さんの合田さん評。確かに「人を見る目はある」 (p377) かもしれない・・・。


まるでゴーギャンの絵のような

2005-08-05 00:12:45 | 照柿(単行本版) 再読日記
4日(木)の 『照柿』(講談社) は、第三章 転変 のp303からp332まで読了。

合田さんも達夫さんも、悩んで迷って、それでも後戻りせずに突き進んでいます。
行動や立場こそ違え、まるで鏡を見ているかのように、二人は良く似た感慨を吐露しています。

<合田シリーズ> では、合田さんと対極の位置にいるのに、実は最も魂が近いのではないか、と思わざるを得ないような人物が登場しています。
『マークスの山』 では、《マークス》。『レディ・ジョーカー』 では、半田修平。そして『照柿』 では、野田達夫。

「それじゃ加納さんは?」・・・という問いもあるでしょうが、私見では「違う」と敢えて言おう。(その理由は別の機会にでも)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
秦野組長の登場は今回限りなので、名残を惜しみつつ・・・。

★だらしなさや気の緩みが事故につながるという単純な信念だけは、どんな事情があっても曲げようがない。 (p310)
最近、あちこちの企業で事故や不祥事が多いので、いやでも目についた一文。

★女は自らの宇宙を裂いて、逃げる男に見せつける。それでも男は逃げ、女は追う。 (p316)
これも「男と女」の一つの在り方か・・・。「純愛物の美しさ」に涙している人たちに読ませて、このドロドロさ加減を分からせてやりたいわ(苦笑) 

★いや、そもそも無理だったのだ。もともと持っていたものを投げすてて、お前はいったいどこまで来たのだ。青い色が好きだったのに無理に赤い色を着て、無理を重ねて、どこまで来たのだ。これからどこへ行くのだ。それが分からない。持っていたものとは違う方向へ走り続けた今、自分はほんとうは何が好きだったのか、何が心地よかったのか、何が欲しかったのかも分からなくなっている。これがお前だ。
お前は今はどこにおり、これからどこへ行くのだ。
 (p317)
タイトルの意味が分かったでしょ? その1。これは達夫さんの場合。

★雄一郎はぼんやりと呼吸し、 (中略) 意味もなく一つひとつ思い出したりした。そしてふと、俺は今どこにいるのだろう、と思う。どこで正道を逸れたのかもう分からず、この先どこへ行くのかもわからない。 (p319)
タイトルの意味が分かったでしょ? その2。これは合田さんの場合。

さて次は秦野組長に、最後の大輪の花を咲かせてもらいましょうか。

★構成員二千人の組を背負っている男の、どこから切っても一般人とは目つきも風貌も違う三十八歳の男の顔がそこにあった。修羅場の上に純白の布を広げたような、残忍な感じのする折り目正しさだった。 (p319~320)
テホンビキの場の、秦野組長の描写。ちなみに服装は紬の着流し。水戸の家にいた義兄もそうだった・・・。色柄は違うと思うけどね(苦笑)

★秦野は「まだまだ」と笑った。ああ、そうだろう。当然そういうことだろうと思いながら、雄一郎は、この秦野耕三がこれまでずっと執拗に伸ばし続けてきた食指に、自分が応えるか応えないかの瀬戸際だと悟った。
暴力団とお上の世界を分ける不動の壁には、お上の方から入る扉しかない。その扉から入って来る者を待つことしか出来ないという事実に、若い秦野が激しい苛立ちを覚えるのはよく分かるし、ましてや壁越しに手だけ伸ばしてくる輩には更に憎悪を覚えるのも分かる。だからこそ、秦野はしきりに一介の刑事にちょっかいを出して来たのだが、その甲斐あって、やっと雄一郎が扉の入り口に立ったというところだった。
ここで逃がしてなるものか、さあ入ってこい、扉を開けて入ってこい、と秦野の目は誘っていた。
 (p325~326)
長い引用になりましたが、「秦野組六代目組長・秦野耕三」がどれだけ「刑事・合田雄一郎」に執着している理由が、これで分かると思う。
合田さんは決して与しやすい人ではないと、秦野組長も重々分かっているはず。そういう人をねじふせ、たとえ小さな穴でも「警察」へ穿つことが出来たら・・・と考えるのも当然。

★「限界というのは何ですか。良くも悪くも、現役である限りは前進しなければ潰される。あなたは潰されて黙ってる人には見えませんよ。なけなしの貯金をはたいても、捜査のためにこの私に何かを言うためにやってくる人だ。そうでしょう? ……というわけで、もっとあがきなさい。地獄の手前ぐらいまで行ったらよろしい」 (p326)
「秦野組長、合田さんを知る」・その1。(←相変わらずネーミングセンスは皆無) おまけに組長、まったく容赦がない・・・。

★「女房」
「いません」
「車」
「ない」
「じゃあ、あなたの身体」
冗談とも思えない秦野の目つきに無様に臓腑が縮んだ。
「三十半ば近くまで生きてきて身体しか持ってないというなら、それ、もらいましょう」と秦野はくりかえした。
 (p327)
出ました、秦野組長の最大・最強の名台詞!
ここで腐女子の皆さんは、すっ転んだはずですが(苦笑) 私も最初は「何でこんな言葉が出てくるんやろう」と思いましたよ。

でもね、これで三回目の再読ですし、ここで敢えて腐女子の発想を抹消して、ちょっと離れた地点から考察してみましょうか。
これは「刑事である合田雄一郎が欲しい」ということではないかしら? 秦野組組長を仕切る身では、警察との関係と対策が必至。甘い汁を吸わせる代わりに、有利な情報が欲しいもの。
そのためには「絆」を結んだり、「杯」を交わしたりすることもあるでしょう。特に秦野組長の生きている世界では、一番手っ取り早いのは「兄弟」になっちゃうことでしょうかねえ。
・・・となると、ひょっとして、やっぱり、これって・・・。墓穴掘ったかも、私・・・

★苦笑しつつ肩でため息をついてみせた。刑事一人に扉を開けさせるのを、とりあえず今日のところは諦めたらしい表情だった。
「まったくあなたという人は……」
 (中略)
「あなたは腐っても刑事だな……」 (p327~328)
「秦野組長、合田さんを知る」・その2。そして秦野組長、(とりあえず)合田さんを諦める(苦笑)
いや、ここで秦野組長に屈服していたら、私はホンマに合田さんを見限りますとも! この潔さに、秦野組長も感服したと思うのですよ。

★「合田さん、ホシを取るか、あなた自身が潰されるかの話でしょう。だから言うのだが、中途半端は、お互い命取りになりますよ。話は了解しました。合田さん、ホシだけは取んなさい。あなたにはそれしかないのだから」 (p330)
「秦野組長、合田さんを知る」・その3。これが秦野組長、最後の台詞になりました。

★一度でいいから会いたい。そう呟く自分の声が今度ははっきり聞こえた。そのとたんに、雄一郎は背中にのしかかる重力に押しつぶされるように、その場に座り込んでしまった。困難や絶望とかいった感じではない、臓腑が絞られるようなその重力の下で背を丸め、うずくまる。
雄一郎は、自分の臓腑を抉りださんばかりに、これでもかと自分の胸のうちを探った。
 (中略) どうにもならなくなってから、初めて感じたあの重力と似ている。山のような後悔と、二度と満たされることのない欲望の残土の重さに似ている。そうか、俺は要するに、手に入らないものを欲しがり嘆くだけの人間なのか。初めから無いもの、すでに失ったものの重力に押しつぶされて泣くだけの卑劣漢か。 (p332)
『照柿』 の中で、個人的には最も好きな合田さんの場面。義兄との「邪悪の手か」「痛恨の手」のやり取りを押しのけて、ここの合田さんが一番好き。私の臓腑も、抉り取られるような感覚が残ります。合田さんの抱えている痛みも、止められない想いも、何もかもが伝わってきて、ギューッと抱きしめてやりたくなります(笑)
これを「母性本能」というのかなあ・・・。


うわ、ログインしてから3時間も経ってる。再ログインしないと、この記事パーになっちゃうわ。

♪これが恋なのね 胸が痛い♪

2005-08-03 22:59:40 | 照柿(単行本版) 再読日記
3日(水)の 『照柿』(講談社) は、第三章 転変 に入りました。p261からp303まで読了。

タイトルは、タカラヅカの雪組の「再会」というお芝居で、当時の娘役トップ・月影瞳さん(愛称・グンちゃん)が歌った一節。今回読んだところが、この歌に当てはまるな~と思ったのです。

しかし毎回タイトルをつけるのは苦労する・・・(苦笑)

前回と今回の再発見。
1.七係の新任の管理官・木崎さんは、かつては大森署の副署長だった。
ちょっと過剰な想像をしてみると、合田さんが 『レディ・ジョーカー』 で大森署所属だったのは、木崎さんが何かの口利きをしたからかしらん? (ネタバレに近いので、曖昧にぼかしてます。分かる方だけ分かってね)

2.美保子さんの実家の工場が全焼した事件の所轄は、蒲田署だった。
もちろん、『レディ・ジョーカー』 の半田修平さんはいませんよ(笑)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回の特集名はありません。バラエティに富んでいるので。

★こうしてこんなところにいる一人の男は、他界した父母も、貴代子も義兄も知らない何者かなのだと雄一郎は思った。
ついこの間まで、合田雄一郎と呼ばれていた人物とは違う、得体の知れない一人の男がここにいる。三日前に佐野美保子が拝島駅でみたのは、この男だ。
 (p269)
達夫さんの勤める工場へ出向いた合田さん。知らず知らずそういう行動を起こさずにはいられないほど、どうすることも出来ないその想いは、何と言うの、合田さん?

★お前、恋をしているのか。初めてそんなことを考えた。
よりにもよって、今ごろ恋をしているのか。
 (p278~279)
そう、「恋」なんですよ、合田さん! やっとここにきて、思い至ったようです(苦笑)
だけど、「恋をしている」なんですね。「恋に落ちている」ではないのですね。延々と述べる時間も気力も今はないし、それほど分かっているわけでもないし、経験不足もあるけれど、「恋をしている」と「恋に落ちている」では、かなり違うと私は思う。

★「ほんとうの美を知らない人間が洒落のめして、効能書きを垂れてる街や」
「ほんとうの美って」
「自分の五感で触れて、背筋が震えるようなもの。茫然と立ち尽くすようなもの。要は何でもええんや。言葉は要らん」
 (p281)
原宿・表参道を後にした、達夫さんと美保子さんの会話。
私の経験では、坂東玉三郎さんの舞台を生で観た時がそれに当てはまるかな。あまりの美しさに、恐怖を感じたほどでした。
お気づきの方も多いでしょうか、「都市」「街」「町」などの描写も、高村さんは優れています。鋭い眼差しと筆の冴えは、他の追随を許さないと思います。

★「美というのは、進化するのかしら……」
「進化って」
「深くなったり、うつろったり」
「そういう過程も含めて、動いている時空が一瞬一瞬に固定していくのが美や。固定する一瞬に後も先もない。そういう一瞬一瞬の集合が絵とか彫刻とか……」
「男と女みたいね……」
 (p282)
達夫さんの美保子さんの「美」談義・その2。最後のシメは美保子さんらしいなあ・・・。

★「亭主は亭主。自分が住む家みたいなものかしら。古くても汚くても、家は家よ」 (p301)

★「自分の家はよその女には渡せないでしょ」 (p301)
「これこそが、佐野美保子という女」その4と5。「女」である前に「妻」なのか、「妻」である前に「女」なのか・・・。相反するような心境が窺えます。この矛盾が、後の悲劇に繋がるのですね・・・。

・・・このペースで、7日までに読了できるんでしょうか? 

隠微なやりとり あるいは 名言(又は迷言)満載

2005-08-03 01:15:24 | 照柿(単行本版) 再読日記
2日(火)の 『照柿』(講談社) は、p220からp260まで読了。つまり、第二章 帰郷 を読了。ホントはもう3ページほど進んだのだが、第二章が終わって区切りがいいので、ここまでということで。

あ、そういえば今回の再読日記、各章とそのタイトルを添えるのを忘れてる~。(『黄金を抱いて翔べ』(単行本、文庫ともに新潮社) には、章タイトルはない) 明日以降に手直ししておこう。

さて今回のタイトルの意味は、以下の理由から。まずは「隠微」。
1.《又三郎》こと有田三郎さんと合田さんのトイレでのやりとり。
2.公私混同の脱線した行動をとってしまった合田さん。
3.秦野組長と合田さんとの秘密の電話のやりとり。
4.水戸の加納家で七回忌の法要が営まれた後、訪ねていった合田さんと加納さんとのやりとり。

「名言or迷言」は、いつものセレクトでご紹介します。

今回は心のオアシスの二人が登場なので、読んでいて楽しかったわ♪ 特に義兄は、この水戸の場面でしかお姿を現していないので、じっくり堪能、たっぷり満喫。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は義兄弟、特に加納さんに力を入れてます。だってしばらく出てこないんだもん。隠れた特集は「義兄弟、名言・迷言てんこ盛り」(←期せずして五七五に)

★加納祐介は、紬の着流し姿で広い玄関の上がり框に立っていた。雄一郎が「遅くなって……」と詫びると、「どうせ、何もかも世間の常識を越えている」と義兄はのたもうた。 (p246)
まずは加納さんの台詞。これ、名言と迷言の紙一重のような気がする。いろいろ深い意味が含まれているような、あるいは何気ない天然ボケ気味の言葉のような・・・。
どっちとも想像できて、解釈できるから、高村作品は面白いんですよ。

★愚かだと気付いても、自分の道を曲げることはない。それが祐介という男だ。 (p247)
この部分は、義兄ファンにはたまりませんね。合田さん、ちゃんと解ってるやん♪

★何ひとつ減りもせず、前進もなく、解消の道も見えない。合理主義とは裏腹もいいところだが、それに毅然と耐えているところを見ると、祐介という男の中身は先代とはかなり違う、前世紀のロマン主義に毒された夢想家なのかも知れなかった。 (p248)
「前世紀のロマン主義に毒された夢想家」・・・と思われるのは、今のうちだけ。『レディ・ジョーカー』 では、もう・・・。(分からない方でネタバレOKな方は、レディ・ジョーカー再読日記を参照)

★「また増えたな」先をゆく義兄の後ろ髪を見ながら、雄一郎がそう言うと、「春から十二本増えた。ちゃんと数えてる」という几帳面な返事があった。 (p248)
加納さんの迷言・その1。これは真面目に答えているのか、あるいは冗談なのか、未だに私には判りません~(苦笑)

★「物事には引き際というのもある。登攀と一緒だ」
「それは違う。登山は、退いても何も減らんやないか。刑事の仕事は、一つ退くたびに、確実に何かが減っていく」
「何か、というのは」
「地歩みたいなもの……かな。手柄や地位の話やない。休みなく一歩一歩固めていかないと、己が立つ場所もないような感じだ。事件というのは、毎日毎日起こるからな……。退きたくても退く場所もない。せめてホシを追うことで、自分がやっとどこかに立っているという感じだ……」
 (p252~253)
真剣な義兄弟の会話も紹介しておきましょう。この合田さんの台詞、私は大好き。何だか久しぶりに「刑事・合田雄一郎」らしき名言が出てきたわ。

★「雄一郎。身体だけは壊すな。身体さえあれば、人生はどんなふうにでももっていけるんだから」
「そうかな……。多分、そういう時期なのかも知れへんが、俺はいったい悩んだり恨んだりするために、生きてるのかと思うことがある」
「猿でも悩むそうだ」
義兄はさらりとかわして、微笑む。
「俺は猿よりは邪悪だぞ。邪悪に悩んでる」と雄一郎は言い返す。
 (p253)
加納さんの名言と迷言が続けて出てきました(苦笑) むきになっているような、合田さんも可愛いなあ 

★義兄は俺の邪悪な心根を分かっているのだろうかと訝りながら、雄一郎は義兄の清涼な顔を眺めた。義兄はこちらを見ていた。高潔そのものの精神の上に、貴代子とほぼ同じ造形の顔がのっているというのは偶然だとしても、何よりその目の表情が貴代子と同じなのだ。 (中略)
ああ、この男は分かっているのだなと雄一郎は思う。 (中略) 憐れみと懐疑と愛憎が分かちがたくなっている男の目だ。その目に、理性の靄がかかっている。 (p253~254)
義兄なら、分かっていると思う合田さん。たとえ合田さんであっても、理解はしても、全てをさらけ出さない義兄・・・。対照的だなあ。

★雄一郎は、際限なく自己嫌悪と悪意の螺旋階段を下りながら自分の片手を伸ばし、テーブルの上にのっていた義兄の片手の甲に触れた。ちょっと撫でた。
「邪悪の手か」と義兄は微笑む。「痛恨の手」と雄一郎は応え、手を引っ込めた。そのとたん、何かを引きちぎりたいような衝動に駆られる。
 (p254)
『照柿』 中、義兄弟屈指の名場面! ここまで男の持つ危うい官能と色気を感じさせる場面は、他にはなかなかありませんよ!

義兄弟関連はここまで。

★「忘れたわ、もう……。遠い人よ。刑事なんか、遠い人よ……」 (p260)
「これこそが、佐野美保子という女」その3。
達夫さんに抱かれてる時、「あいつと寝たんか……」 (p259) と問われた美保子さんの返答が、これ。ネタバレすると、美保子さんは合田さんとはそういう関係にはありません。ウソついてます。自分を抱いている男の嫉妬心をあおっているかのようですね。

★焼けついてくる額の奥で、達夫は、雄一郎は男としてはそんなに感度のいい方ではなかったはずだと思いつつ、この美保子が雄一郎の鈍い心身をどんなふうに包んだのだろうと想像したりしながら、嫉妬と興奮のお定まりのコースを登り始めた。 (p260)
達夫さんによる合田さん評・その9。「男としては」というのがミソですね(苦笑) 前日の大阪での夜、合田さんと一緒に飛田新地を歩いていた時も、「興味ない」 (p260) と言い切っていた合田さんですからね。
でもこの時は美保子さんのことで頭がいっぱいだったので、その分を差し引いたとしても、合田さんは女性に対しては淡白というか、ストイックというか、いやらしくないというか・・・。

やっと再読日記が追いつきました。残り半分です。

青また青 (獣木野生(伸たまき)さんの作品にあらず)

2005-08-02 21:37:45 | 照柿(単行本版) 再読日記
8月1日(月)の 『照柿』(講談社) は、第二章 帰郷 のp192からp220まで読了。

前々回分、前回分、今回分と読んでいると、野田達夫さんの父親・泰三さんは、 『晴子情歌』(新潮社) の晴子さんの夫・淳三さんに繋がっていくんだな~、と感じられずにはいられません。
この二人の共通点は、良家の坊ちゃんで、女遊びが激しく、甲斐性なし。売れない画家で、青を基調とした絵を描くのが多い。

「照柿」という色の対照・対称・対極にある色が、野田泰三さんや福澤淳三さんの作り出した「青い色」ではないでしょうか。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は「特集」のタイトルはありません。ネタ切れで、おまけに数も少ないので。

★来る日も来る日も地を這いずり、狡知を巡らせ、脅しすかしてカモを追い込んでいく刑事がここにおり、その男には確かに合田雄一郎という名がついていたが、それはこの生まれ育ったこの土地からも遠く、今はない父母の世界からも、別れた妻とその兄の世界からも遠く、あの野田達夫の無頼の世界すら遠い、自分自身でもときどき何者なのか分からなくなるような冷血と倣岸の他人だった。 (p218)
「合田さん、自分で自分を卑下する」・その2。(その1は初回に挙げてます。「石、冷血動物、豚」のところ)

・・・腐女子向け(苦笑)の《お蘭》の名台詞(?)は、無視させていただきます。
(・・・腐女子にとっては「名台詞」かもしれませんが、一般的、又は個人的にはそうは思わない。それに、そこまで曲解したくない・苦笑)

危険な男・合田雄一郎

2005-08-02 01:20:11 | 照柿(単行本版) 再読日記
30日(土)の 『照柿』(講談社) は、第二章 帰郷 のp150からp192まで読了。

主人公二人はまだまだ大阪にいるので、有名無名の大阪の地名がポンポン出てきます。
「住道矢田」なんて、一発で読めた方は地元の方でしょうねえ。大方の大阪府民は、まず読めない地名だ(断言)
ちなみにここは合田さん、達夫さん、並びに高村さんの生まれ育ったところ。「すんじやた」と読む。

私は大学生時代にこの沿線(近鉄南大阪線)を利用していたのだが、気付いたのは 『照柿』 と 『レディ・ジョーカー』 を読んでから。・・・何か悔しい。
「住道矢田」への最寄の駅名は「矢田」。各駅停車しかしません。大学生時代は、専ら準急利用だったので、余計に気付くのが遅かった。ああ、悔しいぞ(苦笑)

『照柿』 には登場しませんが、ここで大阪の地名テスト実施。地元の方もそうでない方も、おヒマならやってみて下さい。全問正解であっても、賞品はありません。
   1.河堀口  こぼれぐち
   2.杭全  くまた
   3.放出  はなてん
   4.立売堀  いたちぼり

回答はこの記事をドラックしたら、どこかに出ています。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は「合田さんの(危ない)魅力」特集。(どう「危ない」のかは読めば分かる) 合田さんファンは性根据えて読んで下さいね。今回もかなり力入れて選びました。

★グラスの氷を噛み砕き、最後の一滴を水のように飲み干すと、「もう一杯」とカウンターにグラスを置く。飲むことが好きなのか、アルコールそのものが心地好いのか、それは人に自分も飲みたいという気持ちを起こさせ、アルコールへの飢えをくすぐり、誘惑する飲み方だった。 (p168)
合田さんの「お酒の嗜み方」は、誰に教わったんだろう? 合田さんが高校生の時に、父親は肝硬変で死亡。(『照柿』 p186参照) だから推測と想像を働かせてみると、加納家と付き合いだしてからかなあ、と思う。加納家は「良家」ですし、躾もきっちりしてそうだし・・・。義父や義兄から「正しいお酒の嗜み方」を仕込まれたのでは? 『レディ・ジョーカー』 でも、城山社長が合田さんの飲みっぷりを絶賛していましたしね。(レディ・ジョーカー再読日記を参照)

高村さんご自身もかなりの酒豪だそうで、お酒を飲む場面を描く上手さには定評がありますね。残念ながら私は下戸なので、高村作品に出てくるお酒を飲んで、感想等を述べることは出来ません・・・。

★ともあれ、淡々とアルコールを呷り続ける表皮の下に、びっしり張り詰めた無数の神経が透けて見えるような男を、達夫は十八年ぶりに目の当たりにしていた。雄一郎の後にも先にも、こういう男はいなかった。 (p170)
達夫さんによる合田さん評・その3。そりゃ、こんな男はそうは身近にいないでしょうよ。いたら怖いよ(苦笑)

★雄一郎はおそらく生来、人を観察するタイプの人間だった。人から得たものを租借して自分の血肉にすることはあっても、決して当事者になって自分の身を削ることはない、冷静で狡猾な第三者だったのだ。
しかし、今はどうだろうか。
 (中略) 目の前にいるのは、今の今、一人の女と一対一で向かい合っているに違いない男だった。美保子に惚れることで一人称になり、達夫の前に一人称のわが身をさらしていた。表皮の下に、おそろしいほどの自制心と爆発力の双方が透けて見える、生まれ変わったような合田雄一郎だった。 (p171)
達夫さんによる合田さん評・その4。すごい。これはすごい細かい観察と分析だ。幼馴染みで付き合い、培っていた年月がしのばれますね・・・。

★雄一郎の仮面は、いつでもひっくり返る程度の危ういものだし、自分は言うまでもない。俺は未来の人殺しだが、雄一郎もきっとそうに違いない。 (p179)
達夫さんによる合田さん評・その5。ヘタにコメントすると自爆しそうなので、ノーコメント(苦笑)

★達夫を睨みつける目は表情がなく、ただ暗く潤んでいた。達夫は思い出す。そうだ、これが雄一郎の目だ、と。深すぎて足の届かない湯船の縁にしがみつき、身じろぎもしない子供の目。深い湯船に満ちているのは、感情という名の煮え湯だ。 (p181)
達夫さんによる合田さん評・その6。これが 『レディ・ジョーカー』 (上巻p336) で根来さんが評していた、こんな微妙な目で見つめられたら、理屈抜きに殴りつけたくなるか、魅入られるかどちらかだ。 の目なのですね。

★人一倍激しい感情はすべて、雄一郎という一人の人間の中で煮えたぎるだけで、外に溢れることも人を押し流すこともないのだ。外目に見える表情、言葉、仕種は全て、雄一郎という名の壁の姿であって、誰もその内側は覗けないのだが、だからこそ達夫はその壁をぶち壊すことに子供らしい快感を覚えたのだった。 (p183)

★雄一郎は壁の向こうから片手一本を差し延べ、女はおろか、あらゆる人間をつかみそこねて、ひとり壁の内側で悶々としつつ自壊していく。 (p192)
達夫さんによる合田さん評・その7と8。「合田さんの壁」関連は、後の場面にも出てきます。

うーん、義兄よりも合田さんのことを知り尽くしているぞ、達夫さん・・・。

十数年ぶりの再会

2005-07-31 21:24:55 | 照柿(単行本版) 再読日記
28日(木)は祖母のお葬式だったので、読書は出来ず。

29日(金)の『照柿』(講談社) は、p118から・・・えーっと、どこまで読んだんだっけ はっきり覚えてへんわ・・・。ええい、キリのいいところで、p150まで読了、ということにしておこう(笑) 第一章 女 を終え、第二章 帰郷 に入りました。

ついに合田さんと達夫さんが再会。ようやく一本の糸がはっきりと見えてきました。
そして合田さんと《お蘭》こと森義孝の大阪出張。地どりポイント満載ですね♪

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は、高村作品キャラクターの「いい男の表現」特集・・・ということで。

★人間は、楽な姿勢をとると身体の節々が緩み始めるものだ。 (p118)
・・・私も気をつけようっと・・・。

★上背があり、涼しげで無駄のない夏の身なりをし、習慣のように真っ直ぐに伸びた背筋から下半身への線は、爽快そのものだった。木を掘るとき、上から下へ、ノミを一気に打ち込むことの出来る線だ。そういう線を持つ人間は、現実にめったにいるものではない。  (p119)
達夫さんによる合田さん評・その1。手放しですなあ、達夫さん・・・。

★男はそれまでのいっさいの表情を手品のようにかき消した。唇が左右に開き、白い歯の花が咲いた。 (p119)
前回の秦野組長の表現に続いて、今回は合田さんの「白い歯」。思わず某CMの歌を口ずさんでみたくなりません?

★達夫が片手を出すと、相手はためらう様子もなくそれを握り返して、血走った赤い目でにっこりした。笑うと華がある。いかにも怜悧な感じに整った目鼻立ちが、笑うと突然弾けるような弾力に富む。 (p125)
達夫さんによる合田さん評・その2。しっかり握手できて良かったね。
しかし前回の秦野組長とはえらい違いだ。まあ、あっちは役者が上だから・・・。


心のオアシス、その2・秦野耕三さん♪

2005-07-31 17:03:28 | 照柿(単行本版) 再読日記
「照柿再読日記」、サボっていたわけではなく、ネット落ちにならざるをえない状況でした。3日連続でお通夜とお葬式が2回続いたのです。
一人は、父方の伯父(父の生き残っている内で一番上の姉の旦那さん)。
もう一人は、母方の祖母。

『照柿』(講談社) でも、野田達夫さんの父が亡くなった、という場面とシンクロしていたので・・・何だかシャレにならないんで、イヤなんですが(苦笑) 偶然であっても、気分的には読み辛いものですよ・・・。

しかし、読まなきゃならん。「再読日記」も綴らなアカン。

***

27日(水)の、『照柿』(講談社) は、第一章 女 のp88からp118まで読了。先日が中途半端だったので、キリの良かったp88に後戻りして、もう一度読みました。

前回の予告通り、『照柿』 の「心のオアシス」であるもう一人の人物、「組長」こと秦野耕三さんが初登場。
高村薫作品のキャラクターでは、「東の秦野、西の原口」 と謳われる、二大組長の一人です。
(原口達郎組長は、『わが手に拳銃を』(単行本のみ講談社) 『李歐』(講談社文庫) に登場) 

何で高村さんの描かれる「組長」ってのは、こんなに男気に溢れてて、カッコいいんだか・・・(ため息)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は秦野組長登場部分だけを取り上げようかと思ったが、そればかりというわけにも・・・。期待していた方、すみません。

★謎のように美しい。美保子こそが謎だ。 (p88)
これは達夫さんの述懐だけど、合田さんから見たとしても、当てはまるんだろうなあ。
「これこそが、佐野美保子という女」その1の部分。(←ネーミングセンスなし)

★嫌悪はそれ自体存在意味があり、なくなるよりはあった方がいいと思うようになったのは、達夫独特の複雑な自己評価と内省の結果だった。 (p89)

★「私ね……」 (中略)
「もう我慢ならないのよ」 (中略)
「私の人生……」 (中略)
「こんな人生……」 (p93)
あえて美保子さんの台詞だけ抜き出してみました。この方が、美保子さんの抱えている深くて暗い情念が、くっきり浮かび上がると思うので。
この拙くも、身体の奥から搾り出したような言葉。「これこそが、佐野美保子という女」その2の部分。

さて、この後は秦野組長絡みの場面を取り上げましょう~  ここはかなり力入れてご紹介(笑) だって登場場面が少ないもん。なのにこれほど強烈な印象を残すってのは・・・秦野組長、侮り難し。

★とたんに、粘りつくような鋭い眼光を放って、男はカッと白い歯を見せた。 (p105)
秦野組長、初登場~。
高村キャラクターの「いい男」の条件の一つは、「白い歯」がポイントかもしれませんね。(後の場面でも出てきます。もちろん他の作品にも)

★男は握手を求めて片手を差し出してきた。そして、雄一郎が片手を出すやいなや、男はすかさず、差し出した自分の手をかわして雄一郎の手首をがっしりと掴んだ。そういう大胆な所業に出てはばかるところもない一種独特の男の威風は、秦野組六代目組長を襲名する前から備っていた。 (p105)
もう、ここらへんで「只者でない」という雰囲気が、プンプン匂ってますね~。

★「下っぱのお上相手に、何をおっしゃる」
「そう言って、あなたはまた逃げる」
「何から」
「この秦野耕三の食指から」
 (p106)
秦野組長の名台詞、その1! いや~ん、シビレます~ 

★刑事一人の手首を掴んだまま、男は直截な物言いをしてにやにやした。金と組織の力をもってしても、こちら側へなびいてこないお上に対してはとりあえず無力だと知っている渡世人の鋭利な自嘲が、その眼光に浮かんでいる。同時に、一介の刑事一人をからかう口の下には、すきあらばと狙っている蛇の舌も光っている。 (p106)
こんな狩人に狙われたら・・・。合田さん、ようかわしきれたなあ・・・(感心&安堵) しかしこれでかわしきれなかったら、私は合田さんを見限っている(苦笑)


心のオアシス、その1・加納祐介さん♪

2005-07-26 22:09:56 | 照柿(単行本版) 再読日記
本日の、『照柿』(講談社) は、第一章 女 のp40からp89まで読了。中途半端だが仕方がない。

『照柿』 を読み進めている最中で、私にとっての「心のオアシス」である、「義兄」こと加納祐介さんが出てまいりました。といっても、お姿は見せずお声だけで、合田さんとの短い電話でのやりとりの場面だけ。

合田さんや達夫さんのどす黒い心の内をさらけ出している描写を読んでいると、こちらまでドーンと落ち込んでしまいたくなるので、加納さんがちょっとだけでも出てくると、ホッとします。「義兄」という文字だけでも、充分です(笑)

オアシスその2は、明日に登場。

本日の再発見。美保子さん、三十五歳。合田さん、三十四歳。美保子さんの方が年上だったのか・・・! すっかり忘れていたわ。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回も合田さんと達夫さんの描写ばかりに・・・。

★見るという行為は、達夫には麻薬だった。見るとき頭は空っぽになり、見ている理由も、何を見ているのかも実はどうでもよくなっていく。代わりに見ている対象が空っぽになった頭に忍び込み、それが空洞を満たしていく。多分、解脱とか無我の境地とはこんなものだろうと、それなりの勝手な解釈をして、これまで常に見ることに身を委ねてきた。 (p48)

★動き回っている間はいいが、立ちどまると居場所がない。そんな感じは、もうずっと前から始まっていた。だからといって、達夫はそこから物を考え始めるような男ではなかった。だから立ちどまることもなく、生きてきたのだ。 (p49~50)
上記2つを引用してみて、『黄金を抱いて翔べ』(単行本、文庫ともに新潮社) の幸田弘之さんに似ているかなあ、と感じた。「なぜ?」と思った人は、カテゴリの 黄金を抱いて翔べ再読日記 をご覧あれ。

★大学時代から十六年の親交だから、互いに心のうちはいやというほど読めるのだが、それも最近は、何を分かるとも分からないとも言わず、互いの感情に触れ合うことも少なくなった。 (p75)
合田さんによる、加納さんと合田さんの関係についてを引用してみました。しかし改訂された 『マークスの山』(講談社文庫) では、関係の修復がかなりされていたので、もしも改訂文庫版 『照柿』 が上梓されたら、この辺りの部分は変更されるか、カットされるか・・・ドキドキ。

★昼間の炎天の熱を含む闇は、あらたな薪をくべればぼうと燃え上がる燠火のようだった。自分の心身がそれに包まれているのを感じ、熱と悪寒に身震いした。骨が熱いと、また思う。それは間違いなく、女を自分の下に横たえ、足を開かせ、その間に自分の身を下ろしていくときの感じだった。 (p76)

★しかし現実には、雄一郎は、そうして心身の不安定と変調がますます抜き差しならなくなっていく自分を恐れ、怒り、嫌悪のあまりに膝を震わせただけだった。貴代子への後ろめたさではなく、職業上の自制心でもなく、ただ三十年来さまざまな形で身にしみついた、自分自身に対する有形無形の不信に膝が震えたのだ。
そして、嫌悪に身震いする自分を、雄一郎は更に嫌悪した。ひょっとしたら、自分に対する不信よりも、押し寄せてくるこの欲望の方が大きいのかと、茫然と考えてみた。
 (p77)
この上記2つの引用をするのはちょっと迷ったんですが、まあ、合田さんも一応は、それ相応の「男性」ですからね~(笑) 離婚して数年経ってるし、「女性」に興味と欲情を持ったとしても、至極自然なことですもの。全然おかしくはないもの。
・・・「腐女子」の皆さんは、黙って見逃すことはできないでしょうけど・・・。私は「腐女子」じゃないし。(私ごときを「腐女子」と呼んではいけませんよ)

男が二人、女が一人。

2005-07-25 22:23:57 | 照柿(単行本版) 再読日記
本日から、『照柿』(講談社) を再読しています。これで3回目の再読です。

高村薫作品ではどういう存在なのかというと、<合田シリーズ> と呼ばれている中の2作目の長編になります。

そして著者初の「恋愛もの」としても位置づけられているようです。
『マークスの山』(早川書房と講談社文庫) と 『レディ・ジョーカー』(毎日新聞社) では、地の文で「合田」と書かれているのに、『照柿』 の地の文は、「雄一郎」 になっています。「刑事・合田雄一郎」よりも、「個人・合田雄一郎」の部分を大きく描いているからでしょうか。

出版社の煽り文句は、「現代の『罪と罰』」 ・・・すごいなあ・・・。

***

本日は、第一章 女 のp40まで読了。
「男二人」は合田雄一郎さんと野田達夫さん。「女一人」は佐野美保子さん。
この辺りの「工場の描写」を何とか乗り切った人は、読み進めても大丈夫でしょう。ダメな人は、この作品との相性はちょっと難しいかもしれません(苦笑)

 このカテゴリーでは、多少は ネタバレあり とさせていただきます。「ネタバレにするには、これはマズイかも?」と思うところは、 で警告出しますし、よっぽどの場合は白い字で、隠し字にします。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は合田さんと達夫さんの描写に的を絞ってみました。

★熱せられた額の裏には《暑い》などという平凡な一語は浮かんで来なかった。代わりに《気が狂いそうだ》という呻き声がのたうち続けていた。 (p5)

★下を向いて、雄一郎はひとり不謹慎ににやにやした。一つは十二年刑事をやっているうちに身についた、自分の行動の不可解な規範とその厚顔さに呆れる気持ちから。一つは、三十四歳にもなった男ひとりの頭の中身を恥じる思いから。こんなところで何をしているのだと、もう一人の自分が笑ったのだ。 (p8)
・・・「暑さ」のせいにするには、ちょっと合田さん・・・精神状態が不安定・・・?

★恐れ、脅えながら、雄一郎は炎天の下の自分の腕を見た。満ちてくるのは、なにがしかの熱と輝きを含んだ苦痛であり、夏の盛りになると、ほとんど習慣的に繰り返す病気だった。まったく脈絡もなく、突然、自分の若さを五臓六腑で感じる。日を浴びた乳白色の肌は艶やかに光り、細いがしなやかな筋肉は充分な張りがあり、何もかもが過剰な力と輝きを発しているように見える。三十を過ぎてから、肉体の充実は必然やバランスを欠いた、真空で引き裂かれるような浮遊感と苦痛を伴って襲ってくるようになったのだが、夏はその苦痛が特に激しかった。 (p9)
長い引用になりましたが、ここの合田さんの描写が、何となく好きなのさ♪

★人を睥睨する気はないが、人の前に立った自分の外面が、相手の目にどのように映るかは、自分が一番よく知っていた。よくて石。冷血動物で普通。悪くすれば、殴りつけたい豚だ。 (p9~p10)
そ、そこまで卑下しなくても・・・
しかし後に、『レディ・ジョーカー』(毎日新聞社) でも根来史彰さんが、
こんな微妙な目で見つめられたら、理屈抜きに殴りつけたくなるか、魅入られるかどちらかだ。 (上巻p336)
と評したことがあるしなあ・・。

さて、合田さんはここまで。次は達夫さん。

★これだと特定出来ないさまざまな理由で、次第に身が固くなっていく。自分が異質だという感覚、そこから来る不快感は、物心ついたころからの達夫の伴侶だった。 (p17)

★ゆるゆると血の巡りが悪くなり、身体のあちこちに空洞が出来てそこに異種の細胞がうごめき出す。これといた形を持たずアミーバのように増殖するそれは、期待や嫉妬や失望や尚早などへ刻々と姿を変えるのだが、すべては情欲の変形だった。 (p20)
美保子さんに会った後の、達夫さんの描写。

★照柿、か。あれは、老朽化した炉の断末魔の悲鳴の色だ。それとも、俺の脳味噌の色か。 (p21)

本日はここまで。ちょっと体調崩しかけているので、無理しないでマイペースで再読日記を更新していきますね。