というわけで、第二章、第三章をすっ飛ばして第四章を先にアップ。
だって分量が少なくて楽なんだもん!!
逆に言えば、それだけの変更が第二章、第三章にあるってこと。
第一章の加納祐介さんの相違は、こちらからどうぞ。
それでは説明。
タイトル通り3つの形式での「相違部分」の抜書き。
単行本は22刷、講談社文庫第1刷、新潮文庫は初版を使用。
単行本と文庫では構成・内容が異なっている部分が多いので、「変更の比較」をするのは無理と判断。
●単行本『照柿』
◎講談社文庫『照柿』
○新潮文庫『照柿』
★単行本と講談社文庫が同じ (←該当部分は滅多にないかも)
☆講談社文庫と新潮文庫が同じ
と色分けはしていますが、冒頭の●印、◎印、○印、★印、☆印で判断しやすいように、一応は配慮しています。 (「3つとも全て同じ」は、まず有り得ないと判断しています)
不完全ながら、比較した場合に限り変更部分がある箇所は太字で強調するように努めました。
「変更があった部分だけ取り上げる」という基準は、例外もありますが、加納祐介 という人物の名前・存在が確認出来るところに限定。
ややこしいですが、ご了承ください。
念のため、ネタバレ前提ですので、ご注意。
***
【第四章 燃える雨】
●そして、自分は、達夫には何ひとつ与えもしなかったし、与えるものも持たなかったのだ。加納貴代子に、加納祐介に何ひとつ与えなかったように。 単行本『照柿』p454
文庫には該当部分がありません。
・・・多分、ない。 但し第二章と第三章にある可能性は、無きにしも非ず。その場合はここの文章も変更します。
●辻村は受話器を取り、「加納という人から」と言って、受話器を差し出した。
受話器を受け取りながら、雄一郎の腹には疑心暗鬼が渦巻いた。どうせまた、噂は桜田門を駆けめぐって検察合同庁舎に届いたのだろうが、この十二年間、義兄の加納祐介が警察に電話を入れてきたのは初めてだった。何をそこまで案じることがあるのかと思うと、雄一郎のほうが当惑した。
しかし、予想に反して義兄の電話はひどくそっけなかった。《雄一郎か。画商殺しの件、小耳にはさんだ。手が空いたら電話くれ。俺は今夜、庁舎で徹夜だから》
義兄はそれだけ言い、相手の声も聞かずにさっさと電話を切ってしまった。 単行本『照柿』p470
☆「そうそう、始める前に言伝てがある。半時間前に電話があった」そう言って、辻村が机に置いたメモには、『手が空いたら四階まで電話されたし。カノウ』とあった。
どうせまた、噂は桜田門を駆け巡って検察合同庁舎に届いたのだろうが、この十二年、慎重の上にも慎重な加納祐介が、警察に直接電話を入れてきたのは初めてだった。いったいそこまで案じるべき事態なのか。あるいは特捜部検事がこれを機に、かけなくてもいい脅しをかけて、桜田門の特定の何者に対して意趣返しをしてきたということなのか。雄一郎にはどちらとも分からなかったが、もともとやる気のなかった重い心身に、鈍い一撃を食らったような気分でメモを握り潰した。一方辻村は、カノウが何者かをもちろん招致しているようで、「その人にはくれぐれも、内輪の話だと言っておいてほしい」と呟いただけだった。 講談社文庫『照柿』下巻p279 新潮文庫『照柿』下巻p305
ここは全体的変更なので、太字にしました。
直接の電話は不自然か、と判断されて変更となったか。
●『義兄殿
長い間決心がつかなかったが、貴兄の勧めに従って先週、休日を利用して大阪へ行ってきた。(後略)』 単行本『照柿』p496
☆『祐介殿
長い間決心がつかなかったが、貴兄の勧めに従い、先週休日を利用して大阪へ行ってきた。(後略)』 講談社文庫『照柿』下巻p317 新潮文庫『照柿』下巻p347
微少な変更ですね。
続いて加納さんの返信。長いので2つに分割します。まずは前半部。
●『雄一郎殿
珍しい乱筆ぶりに君の心中を察しつつ、外野から二つだけ申し上げる。
まず、君が事件前に佐野美保子と対面した時間は、拝島駅で二分、東京駅で五分、立川駅で一分。合計八分に過ぎない。東京駅での五分は対面とは言えないので、これを省くと三分。ひょっとしたら、小生の知らない時間がほかにもあるのかも知れないが、いずれにしても、人生のほんとうに短い時間だったということを、少し考えてみてもいいのではないか。 単行本『照柿』p497
☆『雄一郎殿
珍しい乱筆ぶりに君の心中を察しつつ、外野から二つだけ申し上げる。
まず、君が事件前に佐野美保子と相対した時間は、拝島駅で二分、東京駅で五分、立川駅で一分。合計八分に過ぎない。東京駅での五分は相対したとも言えないので、これを除くとわずか三分になる。あるいは小生の知らない時間がほかにもあるのかも知れないが、いずれにしても、人生のほんとうに短い時間だったことは一考に値すると思う。 講談社文庫『照柿』下巻p318 新潮文庫『照柿』下巻p348
続いて後半部。
●今、もう一度『神曲』を読み返しているのだが、ふと考えた。ダンテを導くのはヴェルギリウスだが、君が暗い森で目覚めたときに出会った人は誰だろう。
ダンテが《あなたが人であれ影であれ、私を助けて下さい》とヴェルギリウスに呼びかけたように、君が夢中で声をかけたのが佐野美保子だった。恐れおののきつつ彷徨してきた君が今、浄化の意志の始まりとしての痛恨や恐怖の段階まで来たのだとしたら、そこまで導いてくれたのは佐野美保子であり、野田達夫だったことになる。そう思えばどうだろう。
ところで、小生も人生の道半ばでとうの昔に暗い森に迷い込んでいるらしいが、小生の方はまだ呼び止めるべき人の影も見えないぞ。
十月十五日
☆いま、徒然に『神曲』を読み返しながら、考えたことがある。ダンテを導くのはヴェルギリウスだが、君が暗い森で目覚めたときに出会ったのが佐野美保子だった。ダンテが《あなたが人であれ影であれ、私を助けて下さい》とヴェルギリウスに呼びかけたように、君は夢中で彼女に声をかけた。そして、それ以来恐れおののきつつ彷徨してきた君がいま、浄化の意志の始まりとしての痛恨や恐怖の段階まで来たのだとしたら、そこまで導いてくれたのは佐野美保子であり、野田達夫だったのだ。そう思えばどうだろうか。
ところで、小生も人生の道半ばでとうの昔に暗い森に迷い込んでいるらしいが、小生のほうは未だ呼び止めるべき人の影も見えないぞ。
十月十五日
変更部分は一目瞭然だと思うので、あえて述べません。
ひと言付け加えると、単行本は日付の前に1行の空白があります。
第二章と第三章は、ほんと、いつアップできるんでしょうね~?
だって分量が少なくて楽なんだもん!!
逆に言えば、それだけの変更が第二章、第三章にあるってこと。
第一章の加納祐介さんの相違は、こちらからどうぞ。
それでは説明。
タイトル通り3つの形式での「相違部分」の抜書き。
単行本は22刷、講談社文庫第1刷、新潮文庫は初版を使用。
単行本と文庫では構成・内容が異なっている部分が多いので、「変更の比較」をするのは無理と判断。
●単行本『照柿』
◎講談社文庫『照柿』
○新潮文庫『照柿』
★単行本と講談社文庫が同じ (←該当部分は滅多にないかも)
☆講談社文庫と新潮文庫が同じ
と色分けはしていますが、冒頭の●印、◎印、○印、★印、☆印で判断しやすいように、一応は配慮しています。 (「3つとも全て同じ」は、まず有り得ないと判断しています)
不完全ながら、比較した場合に限り変更部分がある箇所は太字で強調するように努めました。
「変更があった部分だけ取り上げる」という基準は、例外もありますが、加納祐介 という人物の名前・存在が確認出来るところに限定。
ややこしいですが、ご了承ください。
念のため、ネタバレ前提ですので、ご注意。
***
【第四章 燃える雨】
●そして、自分は、達夫には何ひとつ与えもしなかったし、与えるものも持たなかったのだ。加納貴代子に、加納祐介に何ひとつ与えなかったように。 単行本『照柿』p454
文庫には該当部分がありません。
・・・多分、ない。 但し第二章と第三章にある可能性は、無きにしも非ず。その場合はここの文章も変更します。
●辻村は受話器を取り、「加納という人から」と言って、受話器を差し出した。
受話器を受け取りながら、雄一郎の腹には疑心暗鬼が渦巻いた。どうせまた、噂は桜田門を駆けめぐって検察合同庁舎に届いたのだろうが、この十二年間、義兄の加納祐介が警察に電話を入れてきたのは初めてだった。何をそこまで案じることがあるのかと思うと、雄一郎のほうが当惑した。
しかし、予想に反して義兄の電話はひどくそっけなかった。《雄一郎か。画商殺しの件、小耳にはさんだ。手が空いたら電話くれ。俺は今夜、庁舎で徹夜だから》
義兄はそれだけ言い、相手の声も聞かずにさっさと電話を切ってしまった。 単行本『照柿』p470
☆「そうそう、始める前に言伝てがある。半時間前に電話があった」そう言って、辻村が机に置いたメモには、『手が空いたら四階まで電話されたし。カノウ』とあった。
どうせまた、噂は桜田門を駆け巡って検察合同庁舎に届いたのだろうが、この十二年、慎重の上にも慎重な加納祐介が、警察に直接電話を入れてきたのは初めてだった。いったいそこまで案じるべき事態なのか。あるいは特捜部検事がこれを機に、かけなくてもいい脅しをかけて、桜田門の特定の何者に対して意趣返しをしてきたということなのか。雄一郎にはどちらとも分からなかったが、もともとやる気のなかった重い心身に、鈍い一撃を食らったような気分でメモを握り潰した。一方辻村は、カノウが何者かをもちろん招致しているようで、「その人にはくれぐれも、内輪の話だと言っておいてほしい」と呟いただけだった。 講談社文庫『照柿』下巻p279 新潮文庫『照柿』下巻p305
ここは全体的変更なので、太字にしました。
直接の電話は不自然か、と判断されて変更となったか。
●『義兄殿
長い間決心がつかなかったが、貴兄の勧めに従って先週、休日を利用して大阪へ行ってきた。(後略)』 単行本『照柿』p496
☆『祐介殿
長い間決心がつかなかったが、貴兄の勧めに従い、先週休日を利用して大阪へ行ってきた。(後略)』 講談社文庫『照柿』下巻p317 新潮文庫『照柿』下巻p347
微少な変更ですね。
続いて加納さんの返信。長いので2つに分割します。まずは前半部。
●『雄一郎殿
珍しい乱筆ぶりに君の心中を察しつつ、外野から二つだけ申し上げる。
まず、君が事件前に佐野美保子と対面した時間は、拝島駅で二分、東京駅で五分、立川駅で一分。合計八分に過ぎない。東京駅での五分は対面とは言えないので、これを省くと三分。ひょっとしたら、小生の知らない時間がほかにもあるのかも知れないが、いずれにしても、人生のほんとうに短い時間だったということを、少し考えてみてもいいのではないか。 単行本『照柿』p497
☆『雄一郎殿
珍しい乱筆ぶりに君の心中を察しつつ、外野から二つだけ申し上げる。
まず、君が事件前に佐野美保子と相対した時間は、拝島駅で二分、東京駅で五分、立川駅で一分。合計八分に過ぎない。東京駅での五分は相対したとも言えないので、これを除くとわずか三分になる。あるいは小生の知らない時間がほかにもあるのかも知れないが、いずれにしても、人生のほんとうに短い時間だったことは一考に値すると思う。 講談社文庫『照柿』下巻p318 新潮文庫『照柿』下巻p348
続いて後半部。
●今、もう一度『神曲』を読み返しているのだが、ふと考えた。ダンテを導くのはヴェルギリウスだが、君が暗い森で目覚めたときに出会った人は誰だろう。
ダンテが《あなたが人であれ影であれ、私を助けて下さい》とヴェルギリウスに呼びかけたように、君が夢中で声をかけたのが佐野美保子だった。恐れおののきつつ彷徨してきた君が今、浄化の意志の始まりとしての痛恨や恐怖の段階まで来たのだとしたら、そこまで導いてくれたのは佐野美保子であり、野田達夫だったことになる。そう思えばどうだろう。
ところで、小生も人生の道半ばでとうの昔に暗い森に迷い込んでいるらしいが、小生の方はまだ呼び止めるべき人の影も見えないぞ。
十月十五日
加納祐介』
単行本『照柿』p497~498☆いま、徒然に『神曲』を読み返しながら、考えたことがある。ダンテを導くのはヴェルギリウスだが、君が暗い森で目覚めたときに出会ったのが佐野美保子だった。ダンテが《あなたが人であれ影であれ、私を助けて下さい》とヴェルギリウスに呼びかけたように、君は夢中で彼女に声をかけた。そして、それ以来恐れおののきつつ彷徨してきた君がいま、浄化の意志の始まりとしての痛恨や恐怖の段階まで来たのだとしたら、そこまで導いてくれたのは佐野美保子であり、野田達夫だったのだ。そう思えばどうだろうか。
ところで、小生も人生の道半ばでとうの昔に暗い森に迷い込んでいるらしいが、小生のほうは未だ呼び止めるべき人の影も見えないぞ。
十月十五日
加納祐介』
講談社文庫『照柿』下巻p318~319 新潮文庫『照柿』下巻p348~349変更部分は一目瞭然だと思うので、あえて述べません。
ひと言付け加えると、単行本は日付の前に1行の空白があります。
第二章と第三章は、ほんと、いつアップできるんでしょうね~?