ある晴れた日。
本屋さんの前につながれた黒い柴犬。
はあはあはあはあ、苦しそう。
近づくと尻尾を振って手を舐めるような気のいい子だったので、
頭、体に、触ってみると、ああなんてことだろう、日光を浴びた河原の石のように熱い。
かわいそうに。
しばらく一緒にいて、でもまだ、飼い主は現れない。
リードはおもりのついたのぼりにくくりつけられていて、しかも余裕がなくて、移動範囲が狭い。
黒い毛におおわれているのに、日よけもないところで、たとえ数分であっても、犬の体は燃えるように熱くなってる。
このままじゃ、熱射病になっちゃう。
誰かに怒られてもいいや、飼い主に文句言われてもいいや、な気持ちで、
隣接する喫茶店の看板を黒柴ちゃんの体を覆うようにずらした。
黒柴ちゃんは分かったのか分かってないのか、相変わらずはあはあはあはあ言ってるけど、多分、分かってくれたと思う。
怖がることもなく、看板の影にいてくれた。
飼い主さんよ、犬をつなげてどっか行くのはいけないことだよ。
もしそれで、犬が行方不明になっても自分の責任だ。
でも、その前に、せめて待たせるのなら、日の当たるところでなく、涼しい日陰にするべきだ。
黒柴ちゃんは文句も言わずに待っていたけど、地面も熱くて、逃げ場がなかったよ。
かわいそうだったよ。
お願いだから、もうやめてね。
そんな気持ちを込めて、看板をずらした。
伝わっていたら、いいんだけど。