撫子は、桔梗から階段の隅に押しのけられて、壁に身を預けた格好になった。
翔伯は元の立ち位置からゆるぎもせずに、逆に桔梗がよろけてしまった。それがいっそう彼女の気に触り、すれ違いざまに、「もうッ!」とはき捨てられた。
「……」
桔梗がいなくなり、そこは少しの静寂が落ちた。
撫子は、おとなしく、ずれた帽子を被りなおした。
翔伯が「すまないな」と言った。
「最近、彼女はどうにも見境がなくなってきている。元来……まあ、これほど意地の悪い女ではなかったのだ。勘弁してやってくれとは言わないが、」
さらに「大丈夫か?」と言い加えて、翔伯は少女のマントの「よれ」を直してやった。
「ありがとうございます」
小さな声に、男は苦笑する。
「こわがらなくてもいい。桔梗の標的は私だし、私が今のところ呆れているのは李両に対してだ。李両はどうやら、君のことが……あれはきっと気に入っているのだろうな。君の容姿を褒めていた。彼は嬉しがらせにそんなことを言って寄越す類ではない。……君は李両から言われたとおり、月に行けばいい」
翔伯は元の立ち位置からゆるぎもせずに、逆に桔梗がよろけてしまった。それがいっそう彼女の気に触り、すれ違いざまに、「もうッ!」とはき捨てられた。
「……」
桔梗がいなくなり、そこは少しの静寂が落ちた。
撫子は、おとなしく、ずれた帽子を被りなおした。
翔伯が「すまないな」と言った。
「最近、彼女はどうにも見境がなくなってきている。元来……まあ、これほど意地の悪い女ではなかったのだ。勘弁してやってくれとは言わないが、」
さらに「大丈夫か?」と言い加えて、翔伯は少女のマントの「よれ」を直してやった。
「ありがとうございます」
小さな声に、男は苦笑する。
「こわがらなくてもいい。桔梗の標的は私だし、私が今のところ呆れているのは李両に対してだ。李両はどうやら、君のことが……あれはきっと気に入っているのだろうな。君の容姿を褒めていた。彼は嬉しがらせにそんなことを言って寄越す類ではない。……君は李両から言われたとおり、月に行けばいい」