「いってらっしゃい!」
門番の威勢のいい声を背後に、二人は、懐郷の塔の敷地を出た。
灰色の町。
空は闇。夜だ。
「永劫の夜……」
門を出て三歩、撫子は空を見上げてつぶやいた。
それより二歩進んで、翔伯は振り返った。
「君は、『歌』を知っているのか?」
彼は言葉を発する前に、二つ瞬いた。少し驚いているようだった。
「え?」
空からゆっくりと視線を転じて、撫子は翔伯を見上げた。
「……歌?」
「そう、歌だ」
二人、歩き出す。
「永劫の夜、という言葉から始まる、『歌』。祈職が使う祈りの一つだ」
撫子は、翔伯をじっと見て、そのまま少し沈黙して、そして、答えた。
「いいえ」
二人、街に入る。灰色の街。空は闇。
風は、静かで涼やかな夜風。
二人以外に、人影は無かった。
夜に眠る街のようだった。
また、風が吹いた。今度は、強く。
「行くぞ」
翔伯は言って、少女を見下ろして、……そして口をつぐんだ。
「私のことは、撫子と、呼んでください」
少女が言を継いだ。
「翔伯さん」
『私のことは菊と呼んで?』
翔伯の視界が、ぶれた。過去と今とが、交差した。
「……」
男は、ふいに霧の中に入ったかのように、目を細めて凝らし、撫子を見つめた。
金の容姿の娘は、不思議そうに見上げて返した。
「翔伯さん? どうかなさいました?」
「……いや。わかった。撫子」
門番の威勢のいい声を背後に、二人は、懐郷の塔の敷地を出た。
灰色の町。
空は闇。夜だ。
「永劫の夜……」
門を出て三歩、撫子は空を見上げてつぶやいた。
それより二歩進んで、翔伯は振り返った。
「君は、『歌』を知っているのか?」
彼は言葉を発する前に、二つ瞬いた。少し驚いているようだった。
「え?」
空からゆっくりと視線を転じて、撫子は翔伯を見上げた。
「……歌?」
「そう、歌だ」
二人、歩き出す。
「永劫の夜、という言葉から始まる、『歌』。祈職が使う祈りの一つだ」
撫子は、翔伯をじっと見て、そのまま少し沈黙して、そして、答えた。
「いいえ」
二人、街に入る。灰色の街。空は闇。
風は、静かで涼やかな夜風。
二人以外に、人影は無かった。
夜に眠る街のようだった。
また、風が吹いた。今度は、強く。
「行くぞ」
翔伯は言って、少女を見下ろして、……そして口をつぐんだ。
「私のことは、撫子と、呼んでください」
少女が言を継いだ。
「翔伯さん」
『私のことは菊と呼んで?』
翔伯の視界が、ぶれた。過去と今とが、交差した。
「……」
男は、ふいに霧の中に入ったかのように、目を細めて凝らし、撫子を見つめた。
金の容姿の娘は、不思議そうに見上げて返した。
「翔伯さん? どうかなさいました?」
「……いや。わかった。撫子」