間違いない。
彼女は萩だ。
「萩……」
翔伯は、井戸の向こうに立つ中年の女に、声を掛けた。
「萩だろう? 生きていたのか? 今まで、どこに……?」
「いいえ」
即座の否定だった。
「いいえ。私は、萩という者ではありません」
言いながら、こちらへと歩いてきた。
月光のある、薄闇の中で、その姿は次第に明らかになる。
頭の後ろで束ねられた黒髪。
目尻や口元の、小さなしわ。
目前に来る。
……萩だった。
どうしても、彼女としか思えぬほどに、似すぎている。一重の瞳、小さな唇と鼻。大人しげな顔つき。
ただ、髪の色が違うというだけで。
萩の赤紫の髪は、彼女にはなかった。
萩のような女は、立ち止まると、翔伯に再度言った。
「私は萩という者ではありません。懐郷の塔の方」
そして、うずくまる撫子に、そっと声を掛けた。
「塔へたどり着いたようですね」
顔をふせている少女には見えぬというのに、彼女は静かに優しげに笑った。
「よかった」
その声に導かれたかのように、撫子はゆらりと顔を上げた。中年の女を、見た。
「……あの、教えてください。私は、森の奥から、来たのでしょうか?」
果たして女はうなずいた。
「ええ。森の奥に続く道から、あなたは歩いて来ましたよ?」
彼女は萩だ。
「萩……」
翔伯は、井戸の向こうに立つ中年の女に、声を掛けた。
「萩だろう? 生きていたのか? 今まで、どこに……?」
「いいえ」
即座の否定だった。
「いいえ。私は、萩という者ではありません」
言いながら、こちらへと歩いてきた。
月光のある、薄闇の中で、その姿は次第に明らかになる。
頭の後ろで束ねられた黒髪。
目尻や口元の、小さなしわ。
目前に来る。
……萩だった。
どうしても、彼女としか思えぬほどに、似すぎている。一重の瞳、小さな唇と鼻。大人しげな顔つき。
ただ、髪の色が違うというだけで。
萩の赤紫の髪は、彼女にはなかった。
萩のような女は、立ち止まると、翔伯に再度言った。
「私は萩という者ではありません。懐郷の塔の方」
そして、うずくまる撫子に、そっと声を掛けた。
「塔へたどり着いたようですね」
顔をふせている少女には見えぬというのに、彼女は静かに優しげに笑った。
「よかった」
その声に導かれたかのように、撫子はゆらりと顔を上げた。中年の女を、見た。
「……あの、教えてください。私は、森の奥から、来たのでしょうか?」
果たして女はうなずいた。
「ええ。森の奥に続く道から、あなたは歩いて来ましたよ?」