秋の光は何からできているか知っていますか?
こまかい光の粒のひとつひとつが輝いているのは
生きとし生けるもののたましいが透明になって
静かにささやきかわしているのです
秋の光はどこから降りそそぐか知っていますか?
水蒸気の混じらない純度の高い空をつきぬけて
青い空がこれ以上青くなれない限界の気圏から
元素の結晶のように降りそそいでくるのです
秋の光はどこに流れていくか知っていますか?
遠い未来の果てにある始まりの時をめがけ
光と闇をはぐくむ宇宙の海に向かって
澄んだ小川のように流れていくのです
夏の終わりに
夏の終わりに見る夢は
はるかな思い出の中の入道雲
遠い山並みは青くかすみ
落葉松の小径を独りさまよう
夏の終わりに聞く歌は
白樺とすすきの原をわたる風
なつかしい面影をたどり歩けば
古い詩の一節がよみがえる
さようなら 夏の日
坂道をあえぎ昇ったきのうの真昼
今日ひまわりの花は朽ちて
蝉の声も絶え
秋草の野に虫の音が洩れる
さようなら 夏の日
夜へと傾いていくもの憂い黄昏れに
逆光で見失った君を見つけられない
一つの季節が終わっただけなのに
心の谷間を風が吹き抜けていく
さようなら 夏の日
君にまたいつか会えるだろうか
テーブルクロスにあふれる光り
コーヒーカップの底で
あくびをするモーツアルト
ピアノが隣りで咳ばらい
クロワッサンは小さく笑い
ブルーベリーは転げ回る
遠く聞こえる汽笛の目覚まし
スーツケースの奥で
眠ったままのスケジュール
カナリアは朝から入浴中
バラは眠り足りずに不機嫌
やせた花瓶に不平をこぼす
窮屈なタブローの中で
そっと伸びをするルノワール
白いキャンバスを引き寄せて
物憂い光のパレットを投げかける
カーテンの向こうは青い海
海へとつづく菜の花畑
君がいない
君だけがいない夏
ひまわりの小径を過ぎて
不意に見失った白い影
胸の奥で見知らぬ鳥が羽ばたく
無限に遠ざかる幼い日の空
暗闇に沈む小さなすべり台
止まったままの石の時計
君の立っていた場所に存在する
はげしい空虚に耐えかねて
あらゆる方位をさがしても
君はどこにもいない
君がいない
君だけがいない夏
重い夜を吹きぬける風
誰もいない岸に寄せてくる昏い波
壁の前でうちひしがれる花々
永遠に届かない君へのメール
君に伝えたかった言葉は・・・
君に伝えたかった言葉は
夕暮れの雑踏のなかで
アスファルトの上に落ちた
夜に沈みこむビルの谷間を
方角を失った声がさまよい歩いた
君に届けたかった思いは
深夜のアパートの片隅で
萎れた花のように色あせた
腐食していく時間の中で
読めない文字が人知れず朽ち果てた
目に見えない壁を超えて どこに
君と出会ったかもしれない海があるか
出口のない袋小路を抜けて どこに
君が待っていたかもしれない街があるか
光と闇の半球が目まぐるしく反転し
生と死の鎮魂曲が鳴り響いて
君に伝えたかった言葉が 星のように
遠い空にまたたいている