風と光と大地の詩

気まぐれ日記と日々のつぶやき

詩(秋の光)

2019年10月03日 | 
秋の光は何からできているか知っていますか? 
こまかい光の粒のひとつひとつが輝いているのは
生きとし生けるもののたましいが透明になって
静かにささやきかわしているのです

秋の光はどこから降りそそぐか知っていますか?
水蒸気の混じらない純度の高い空をつきぬけて
青い空がこれ以上青くなれない限界の気圏から
元素の結晶のように降りそそいでくるのです

秋の光はどこに流れていくか知っていますか?
遠い未来の果てにある始まりの時をめがけ
光と闇をはぐくむ宇宙の海に向かって
澄んだ小川のように流れていくのです



詩(夏の終わりに)

2019年08月22日 | 
   夏の終わりに

夏の終わりに見る夢は
はるかな思い出の中の入道雲
遠い山並みは青くかすみ
落葉松の小径を独りさまよう

夏の終わりに聞く歌は
白樺とすすきの原をわたる風
なつかしい面影をたどり歩けば
古い詩の一節がよみがえる

さようなら 夏の日
坂道をあえぎ昇ったきのうの真昼
今日ひまわりの花は朽ちて
蝉の声も絶え
秋草の野に虫の音が洩れる

さようなら 夏の日
夜へと傾いていくもの憂い黄昏れに
逆光で見失った君を見つけられない
一つの季節が終わっただけなのに
心の谷間を風が吹き抜けていく

さようなら 夏の日
君にまたいつか会えるだろうか

  


朝の詩

2019年08月02日 | 
  テーブルクロスにあふれる光り
  コーヒーカップの底で
  あくびをするモーツアルト
  ピアノが隣りで咳ばらい
  クロワッサンは小さく笑い
  ブルーベリーは転げ回る

  遠く聞こえる汽笛の目覚まし
  スーツケースの奥で
  眠ったままのスケジュール
  カナリアは朝から入浴中
  バラは眠り足りずに不機嫌
  やせた花瓶に不平をこぼす

  窮屈なタブローの中で
  そっと伸びをするルノワール
  白いキャンバスを引き寄せて
  物憂い光のパレットを投げかける
  カーテンの向こうは青い海
  海へとつづく菜の花畑







君がいない

2019年08月01日 | 
  君がいない
  君だけがいない夏

  ひまわりの小径を過ぎて
  不意に見失った白い影
  胸の奥で見知らぬ鳥が羽ばたく
  
  無限に遠ざかる幼い日の空
  暗闇に沈む小さなすべり台
  止まったままの石の時計

  君の立っていた場所に存在する
  はげしい空虚に耐えかねて
  あらゆる方位をさがしても
  君はどこにもいない

  君がいない
  君だけがいない夏

  重い夜を吹きぬける風
  誰もいない岸に寄せてくる昏い波
  壁の前でうちひしがれる花々
  
  永遠に届かない君へのメール

   


詩(君に伝えたかった言葉は・・・)

2019年07月19日 | 
   君に伝えたかった言葉は・・・

   君に伝えたかった言葉は
  夕暮れの雑踏のなかで
  アスファルトの上に落ちた
  夜に沈みこむビルの谷間を
  方角を失った声がさまよい歩いた

  君に届けたかった思いは
  深夜のアパートの片隅で
  萎れた花のように色あせた
  腐食していく時間の中で
  読めない文字が人知れず朽ち果てた

  目に見えない壁を超えて どこに
  君と出会ったかもしれない海があるか
  出口のない袋小路を抜けて どこに
  君が待っていたかもしれない街があるか

  光と闇の半球が目まぐるしく反転し
  生と死の鎮魂曲が鳴り響いて
  君に伝えたかった言葉が 星のように
  遠い空にまたたいている