風と光と大地の詩

気まぐれ日記と日々のつぶやき

詩(願い)

2019年07月18日 | 
    願い

 なぜ わたしの願いは
 はるかな頂きから落ちる
 ひとすじの流れ ではないのか
 
 なぜ わたしの希望は
 虚ろな空に向かい
 高く枝を掲げる木立 ではないのか

  なぜ わたしの愛は
  木陰に人知れず咲く
  夢の中の白い花 ではないのか

 なぜ わたしの言葉は
 傾いた時代の夕暮れに
 淋しくふきわたる風 なのか


   


詩(ちいさな、ささやかなもの)

2019年07月17日 | 
   ちいさな、ささやかなもの

ちいさなもの
ささやかなもの
追い立てられて
足早に通りすぎると
見過ごしてしまうもの

幼いころ
地面にもっと近く
ゆっくり歩んでいたとき
しゃがみこんで
陽だまりに見つけた
ちいさな生きもの
ちいさなつぼみ
たくさんのことを
ささやきかけてきた

ビー玉
おはじき
空き缶のふた
よごれたぬいぐるみ

ほんとうに必要なものが何か
わからなくなったのは
そう遠いことではない

よろこびは ささやか
ささやかでなければ
よろこびとは わからないから
ちいさくなければ
見えなくなってしまうから

    


詩(バラの光)

2019年07月16日 | 
    バラの光
  
  柔らかな花びらにくるまれて
  ひそやかな夢をはぐくむバラ
  きよらかな光がつぼみからこぼれて
  花となったいのちがかがやく

  冷たい風にかぼそい枝をふるわせて
  冬の試練に耐えたバラ
  あてどない季節のゆくえを追って
  たれこめた空の果てを見上げる

  さわやかな春の風に誘われて
  一輪一輪まどろみから目覚めるバラ
  まぶしい陽射しに抱きしめられ
  ためらいがちにつぼみを開く

  バラの香る道で出会った二人が
  花のささやきに耳を傾けながら
  手に手をとってゆっくり歩き出す
  バラの見た夢が未来へとつながる

     

    

詩(昭和時代)

2019年07月13日 | 
   昭和時代

茶色く黄ばんだ昭和時代
ほこりをかぶったアルバムの中
少年だった父が風に笑いかけている
昭和を生き抜いて果てた父が
今は誰にも邪魔されずに
静かな時をひっそり生きている

父の昭和は戦争ではじまる
満州事変  支那事変  真珠湾攻撃
八紘一宇  大東亜共栄圏
撃ちてしや止まん  海ゆかば
けれども  空から降ってくる爆弾に
短い竹槍は届かなかった
焼け跡  引き上げ  民主主義
マッカーサーには似合ったサングラスも
鼻の低い父には似合わなかった

ぼくたちの昭和は
三角ベースの野球ではじまる
原っぱが住宅や工場になり
新幹線と高速道路が
田んぼや畑をつぶしたけれど
田舎はいつまでも都会にならなかった
巨人  大鵬  卵焼き
安保  オキナワ  ベルリンの壁
無意味  無気力  無関心
わが転向  わが解体  わが幻滅

昭和が終わる前にと  君は言った
昭和が終わってしまう前にと  ぼくは言った
もう一度この橋の上で会おう
そのとき  通勤電車の吊革につかまって
ぼくたちはまだ詩を読んでいるだろうか
神田川は静かに流れ
街は遠く  夜は深かった
しかし  本当はもうとっくに
昭和が終わっていたことを
君もぼくも感じていたのではなかったか

隔たることでやっと  見えてくるものがある
失うことではじめて  身に沁みるものがある
ぼくたちはひとつの時代を失ったのか
それとも  ひとつの巨大な影が雲のように
ぼくたちの上を通り過ぎていっただけなのか

  



詩(片付ける)

2019年07月12日 | 
              片付ける

 届かなかった思いを片付ける
 広げ過ぎた風呂敷を片付ける
 並べたままの御託を片付ける
 自分の生きた痕跡を片付ける

 ・・・僕は片付けるのが苦手だ
 捨てていいものと いけないもの
 大事なものと 大事でないもの
 その区別がうまくできない
 何でも引き出しに突っ込んで
 しまいにあふれさせてしまう
 本箱はがらくたでつぶれそうだ

 幼い言葉で綴った日記帳
 恋と青春の古ぼけた教科書
 不器用に描いた夢の落書き
 出さなかった(出せなかった)ラブレター
 書きかけの遺書・・・のようなもの
 つらい思い出に混じった楽しい思い出

 どうして片付けることができるのだろう
 遠く離れた友と語り合った希望
 あの子に言えなかったひとつの言葉
 今もうずく棘のような記憶
   むしろ簡単に片付けたくない

 六十年の人生をうまく片付けられなくて
 読みかけの小説と 書きかけの詩
 聞きかけの音楽と かじりかけの哲学
 語りかけの物語と 生きかけの人生がある
 生まれかけたときから もう
 死にかけているのかもしれない

 皮一枚 管一本でつながった命であれば
 時計の針がいつ止まるとも知れず
 風船の糸が切れて飛んでいく前に
 せめて身の回りだけでも整理したいけれど
 何も片付かないで今日も一日が暮れていく

 一日の終わりにそっと引出しを開けてみる
 なつかしい風景と なつかしいうたがある
 優しい顔と 優しい声がある
 六十年かけて集めた宝物を
 片付けるなんてできない
 できるなら終わりまでもって行きたい