昭和時代
茶色く黄ばんだ昭和時代
ほこりをかぶったアルバムの中
少年だった父が風に笑いかけている
昭和を生き抜いて果てた父が
今は誰にも邪魔されずに
静かな時をひっそり生きている
父の昭和は戦争ではじまる
満州事変 支那事変 真珠湾攻撃
八紘一宇 大東亜共栄圏
撃ちてしや止まん 海ゆかば
けれども 空から降ってくる爆弾に
短い竹槍は届かなかった
焼け跡 引き上げ 民主主義
マッカーサーには似合ったサングラスも
鼻の低い父には似合わなかった
ぼくたちの昭和は
三角ベースの野球ではじまる
原っぱが住宅や工場になり
新幹線と高速道路が
田んぼや畑をつぶしたけれど
田舎はいつまでも都会にならなかった
巨人 大鵬 卵焼き
安保 オキナワ ベルリンの壁
無意味 無気力 無関心
わが転向 わが解体 わが幻滅
昭和が終わる前にと 君は言った
昭和が終わってしまう前にと ぼくは言った
もう一度この橋の上で会おう
そのとき 通勤電車の吊革につかまって
ぼくたちはまだ詩を読んでいるだろうか
神田川は静かに流れ
街は遠く 夜は深かった
しかし 本当はもうとっくに
昭和が終わっていたことを
君もぼくも感じていたのではなかったか
隔たることでやっと 見えてくるものがある
失うことではじめて 身に沁みるものがある
ぼくたちはひとつの時代を失ったのか
それとも ひとつの巨大な影が雲のように
ぼくたちの上を通り過ぎていっただけなのか
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