三好豊一郎の「トランペット」という詩の中にこんな一節がある。
“――夏よ、とびちる火の斑点の夏よ、
ひまわりのすがれた花のかげに埋葬される痩せおとろえた老人たちの夏よ!”
八王子で煙草屋を営んでいた三好豊一郎さんを吉増剛造氏が尋ねた話を、
現代詩文庫『三好豊一郎詩集』の作品論・詩人論に書いている。
それを読んでぼくも八王子に出掛けたことがあった。
2000年の夏のことだ。
すでに煙草屋はなかった。探せなかった。
だが、そこは駅前からすぐのところなのに狭い路地が縦横し、
迷路のようでぼくは迷った。
汗がしたたり落ちるほどに暑かった。
三好さんは夏の詩人なのか。
“――夏よ、みじめな陽物崇拝者のうごめく夏よ、
警官が叫び、群集がわめき、子供がうたう夏よ!”
おそらく昭和の、戦争が終わってすぐの頃の夏に三好さんは生きている。
その夏は、いくつかの遺伝子を残しながら今の時代にまでつながっている。
だが、もちろん遺伝子のことなど誰も知る由もない。
分母は夏だけ。
平安の夏も、室町の夏も、江戸の夏も、大正の夏も、夏は夏である。